2015・No.1189
月刊保団連 6
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「道」
働く人を守るルールは、壊すべき「岩盤規制」だそうで。
東海林 智
特集
被災者の生活再建と医療
被災者生活再建支援の実態と課題
● 東日本大震災から4年がたった。しかし、依然多くの被災者が不自由な生活を強いられ、復興まちづくりも著しく遅れている。被災者の生活再建が進まないのは、大震災が地震・津波・原発を含む巨大複合災害だったことが背景にある。
● だが、それだけではない。むしろ国による復興理念が、憲法と基本的人権に根ざした「人間復興」ではなく、市場原理と成長開発優先の「創造的復興」であることが根底にある。そのため、本来被
災者のための復興制度がその役割を十分に果たせていない。
● 被災者と被災地のニーズを踏まえ、人間復興の観点から、市町村の自治・自律を尊重した生活再建支援制度への転換が強く求められている。
宮入興一
医療は社会的共通資本  ─災害時こそ地域医療再建を最優先に
● 阪神・淡路大震災の時も東日本大震災の際も、保団連・保険医協会は避難所や仮設住宅での医療活動、安定的な医療提供、被災者の医療費負担軽減はじめ、医療機関再建と機能の回復にむけた公的助成の拡充などを政府に求めてきた。
● 復旧・復興をめざす長期にわたる取り組みの中でも、被災者のいのちと医療を守るために、市民や各界の有識者と広く共同して、「暮らしの再建」のため、公的支援の拡充に努力してきた。
● 地域住民の命と健康をまもる医療提供体制こそは「社会的共通資本」であり、「創造的復興」の名の下に、都市インフラ開発や各種の経済特区構想より下位に位置づけられるものではない。社会保障の充実こそが被災者、国民への最大の公的支援であり安心・安全への備えなのである。
 < Key Words:暮らしの再建・創造的復興・社会的共通資本・生活再建支援法>
武村義人
原発事故被災地の地域医療  ─復旧・復興の現実を問う
● 原発事故4年後の被災地の地域医療の現状と再生の難しさについて報告した。
● 被災地域が以前の姿に復興することはほぼ不可能であり、今後は新たな地域社会を新生させるという方向で構想することはやむを得ないが、その際も被災者への完全な賠償支払いと生活再建の保障という国の責任を果たすことが前提でなければならないこと、さらに原発稼働の問題については倫
理道徳哲学的立場からの論議が必要であることを強調した。
渡辺瑞也
被災地の医療費窓口負担免除の重要性
● 東日本大震災から4年が経過した。被災者の医療に関する要求が、年々高まっている。同じ被災者なのに、医療費が免除される人と、されない人とが入り交じって暮らしている現実がある。
● 宮城県の被災者の状況を多面的に検討してみた。医療費の動向も追った。それらは、医療費負担軽減へ継続的支援の必要性を示した。
● 被災者支援はまだ終わらない。今後も引き続き、医療費窓口負担免除について検討が求められる。それは、未来に遺す震災の教訓となる。
井上博之
原発震災からまる4年  ─福島の現実と課題
● 政府と東京電力は福島第一原子力発電所事故5 年目を前に、営業損害賠償、労働不能損害賠償の打ち切りを画策している。問題は何年経過したから区切りをつけるということではなく、暮らしが
もとに戻ったのかを判断の基準とすべきである。
● 原発事故は4 年たったいまも福島県民に苦悩をもたらし続けている。その特徴は、@被害があまりにも深刻であり、A被害が極めて広範囲であり、B被害額が極めて大きく、C地域によって復旧は考えられず福島県全体の復興には途方もない時間がかかる─ことがはっきりしている。「国策がもたらした災害」であり、「日本史上、最大にして最悪」の災害と言える。
● 数多くの課題がある中で、@放射線による低線量被曝の健康診断・検査・医療の継続的保障、A原発労働者の労働条件・健康管理の改善、B県内全原子炉の廃炉と自然再生エネルギー先進県を目指す重要性、について提案する。
伊東達也
「創造的復興」は被災者をどこに導くのか
 ─ショック・ドクトリンで収奪される被災地
●「ショック・ドクトリン」とは、大災害などで社会的混乱が発生した直後、人々が茫然自失に陥っている間に進められる、急激な新自由主義的改革のこと。
●日本においても20 年前の阪神淡路大震災で生まれた「創造的復興」のスローガンの下、東日本大震災後の東北の被災3県でショック・ドクトリンが繰り広げられている。医療分野では「神戸医療産業クラスター」を手本とする「東北メディカル・メガバンク」の今後の行方が注目される。
古川美穂
論考
公的保険の補綴(ほてつ)があぶない
◆ 歯科医療で大きな部分を占めている補綴は口腔外で製作し、歯の損傷、欠損を修復、補填する重要な治療であるが、これまで十全の公的保険給付(以下、「保険給付」)がなされてこなかった。そのため患者・国民は十分な給付を受けられない一方、供給側とりわけ多くの歯科技工士は信じられないほどの長時間労働と低賃金に苛まれ苦しんでいる。
◆ 咀嚼(そしゃく)が健康に大きく貢献していることが明らかになっている今日、歯科医療の改善・充実、補綴給付の拡大、その技術料の正当な引き上げが強く求められている。またそれは時代の要請でもある。
馬場 淳
なぜ医療機関は医師が経営するのか   ─リスク・決定・責任一致の視角から
◆ 筆者が同僚の橋本貴彦と2013 年に発表した論文「なぜ医療機関は医師が経営するのか」の内容を紹介する。今世紀に入ってから、政府による医療機関制度改革の動きが続いているが、「医療でおカネもうけはいけません」という理由での反対は説得力を持たなくなっている。一般に、リスク・決定・責任が乖離するシステムは駄目で、「リスクにかかわる情報を持つところが決定し、その責任を負う」とき事業は効率的になる。医療では、出資者が決定するよりも、医療に関する情報を最も持つ医師が投資決定し、その責任を負うのが効率的になる。
松尾 匡
診療研究
小児歯科医療の勘どころ
─みんなで考えよう子どもたちの口の健康─
第2回 保護者の対応
●一般開業歯科医において、全く初めての初診の患者さんとのやり取りは大変緊張するとともに真剣勝負になるところでもある。そして、小児の患者さんはまた、特別である。保護者と患児と医療者のトライアングルの関係で、初診行為をしなければならない。保護者に対する配慮や子どもへの波及効果など、その時の対応にはちょっとしたコツがある。筆者が行っているコツや視点を2 回にわたり執筆する。
丸山進一郎
文化
初期宇宙を探る
第6回(最終回) 初期の宇宙を直接見る
■ 遠くの天体を見つけて調べていくと、宇宙のなかで星の大集団・銀河が生まれ、成長していく様子を直接見ることができる。今では宇宙誕生から約7 億年の時代の銀河や、その中で起こる大爆発が観測されるようになってきている。
■ 初期の宇宙の姿やそこで起こる現象には謎も多い。その解明には、感度の高い望遠鏡の登場が期待されている。光を集める鏡の直径が3 0 メートルにもなる巨大望遠鏡の建設が進められている。
青木和光
シリーズ
経営・税務誌上相談 418
矯正歯科医院の収入計上時期
益子良一
雇用問題Q&A 162
マイナンバー実施に伴う労務管理上の注意点
曽我 浩
会員
ドクターのつぶやき川柳
〈選者〉 大西俊和
文化・交流 各地の文化活動 ─15─
静岡協会の多彩な文化活動
静岡県保険医協会 福地正行
VOICE
― 4月号を読んで―
編集後記・次号のご案内