2017・No.1251
月刊保団連 11
PDF内の写真・文章の無断転載を固く禁じます。
「道」
戦争のリアルを知る元自衛官たちの平和運動
井筒高雄
特集
多死社会の到来と医療
人口減少で激変する人間関係
 高齢単身者世帯の増加、新しいコミュニティーのかたち

●日本の社会は今後長い期間、人口減少と高齢化が続くと予測されている。しかし将来人口推計は人口減少が続くとも高齢化率が無限に上昇することはなく、21世紀半ばには安定することを示している。35年後を目指して、世界一の長寿社会に適合した高齢者観とライフスタイルを生み出して、高齢者が社会の一員として活躍する、持続可能なコミュニティーを創造することが求められている。

鬼頭 宏
多死社会における法医学の役割

●法医解剖は、死亡時にはっきり病死と診断できない場合、いわゆる異状死のうち警察が必要と判断した場合に行われる。高齢独居者や認知症の人を抱える家族の増加など、今日の日本の社会問題が原因で法医解剖される人が増加している。
●私たちの施設では、解剖例の約半数は独居者であり、認知症の人は全体の5%を超えている。法医解剖の現場で経験する異状な死の状況は、異状死を未然に防ぎ解剖されない死を目指すために必要な情報を含んでいると期待される。今後の多死社会に向けて法医学ができることを考える。

西尾 元
死に逝く人に医師は何ができるのか
 ─超高齢多死社会における「社会的共通資本」

●日本は世界の先陣を切って、超高齢社会に突入していきます。日本がどのようにこの問題を解決し
ていくのか世界中が見守っています。これからの20年で大きく変わっていく日本の情勢に医療としてどのように関わっていくのか、父、宇沢弘文の残した「社会的共通資本」という理論から考えてみたいと思います。

占部まり
孤立死の現場から見えるもの
 ─「死にざま」から「生きざま」を学ぶために

●日本初の遺品整理業者をたちあげてから、数多くの孤立死の現場に接してきた。遺品を整理する中で、そこから生前の生活ぶりが見えてくると同時に、これからの時代に起きるであろうことも考えさせられる。1人暮らしの高齢者で目立ち始めた孤立死は、これからの時代を生きる私たちに、何を語りかけ、何を警告しているのだろうか。

吉田太一
希薄化する人間関係と「供養」の行方

●もはや血縁、親族ネットワークだけでは、老い、病、死を永続的に支え続けることは不可能なところまで、社会は変容している。それでは、どんな人も安心して死んでいける社会の実現のためには、生きている間の安心や死後の安寧を誰がどう保証すればよいのだろうか。本稿では、死後の共同性を模索する動きについて取り上げる。

小谷みどり
論考
歯科診療報酬改定の動向
 ─「包括」という名の錬金術─

◆近年の歯科診療報酬改定は、点数の低さはもちろんのこと、改定率の低さも現場に悪い影響を与え続けている。新規技術の導入は当然であるが、その一方で臨床に普及し頻用されている技術さえもが、他の診療行為に「包括」化されることがしばしばある。それも実質的評価をなくす、減じる形で行われる。診療側にとっては値引き、無償提供を意味し、必要な治療の実施が困難にもなる。患者にすればこれまで受けられていた治療が受けられなくなることがあることも意味している。これ以上の理不尽な改定はやめていただきたいものである。

馬場 淳
診療研究
地域包括ケアでの困難事例に取り組む
〈2〉事例を通じ個別ケア会議・サービス担当者会議の意義を考える
●個別ケア会議で取り上げる医療・介護を利用していない、あるいは利用できない事例は、レセプトデータなどから外れている。困難事例の取り組みで「高齢者の貧困」、「格差社会」の実態が明らかになることもある。
●すべての国民の状況把握のために、「いつでも、どこでも、だれでも」の医療を確立するために、困難事例への取り組みで、個別の解決方法や、制度としての解決すべき課題を明らかにすることが必要である。
●この取り組みに医師・歯科医師の参加を訴える。
北村龍男
超高齢社会における歯科の緊急課題
 根面う蝕への対応(1)
●超高齢化社会の中で認知症患者や要介護者が激増し、それに伴い歯肉が退縮し歯根が露出するとともに根面う蝕が多発している。
●根面う蝕の修復法は確立されておらず、予防も極めて困難である。
●近年、根面う蝕予防効果を有する歯磨剤が開発市販されるとともに、抗菌性を有する接着性修復用レジンも臨床応用されている。
吉山昌宏
文化
医学史の散歩道 外科が「ソト科」だった時代
第1回 高貴な内科医と「床屋医者」

■臨床医学は外科系と内科系とに二大別される。メスなどを用いて皮膚を切開し、腹腔や胸腔といった体の内部の病巣を摘出するのが典型的な外科医療であり、身体を外側から診察して投薬するのが内科的な医療だと、現代の私たちは信じて疑わない。
■しかし、わずか百数十年前までは「外科医」の仕事は文字どおり体の表面、つまり外側に限られていて、身体内部の病気は「内科医」に任せるべき神聖な領域とされていた。
■体の外側は「外(ソト)科」、内部は「内(ウチ)科」という当時としてはごく自然であった医療区分がどうして逆転したのだろうか。

笠原 浩
逆風に抗う歌声 UK 編
第1回 英国病とサッチャーの登場

■前回の連載終了後、読者からの要望を受けて3回にわたって続編の連載が決まった。今回は英国に舞台を移して、再び政治と音楽のかかわりについて紹介していきたい。というのは、年の就任当初はロック界との交流が話題にもなった労働党のトニー・ブレア首相への失望、そして保守党の政権奪還から、この10数年は音楽界が政治に対して一定の距離を保っていたが、EU離脱を選んだ昨年の国民投票、ジェレミー・コービン率いる労働党が若者の支持を得て、保守党を単独過半数割れに追い込んだ今年の総選挙と、国の将来を左右する重要な選択があり、再び音楽界でも声を上げる人たちが増えてきたからである。

五十嵐正
シリーズ
経営・税務誌上相談 447
会計ソフトで記帳した場合
益子良一
雇用問題Q&A 191
非正規職員の健診や正社員化に活用できる助成制度はあるか
曽我 浩
会員
ドクターのつぶやき川柳
〈選者〉 植竹団扇
書評
大場敏明・高杉春代著
『かかりつけ医による「もの忘れ外来」のすすめ』
宇都宮健弘
VOICE
―9月号を読んで―
詰碁・詰将棋
編集後記・次号のご案内