−医療経済実態調査(速報値)に関する談話-

 減収を費用削減で補う 経営規模は縮小傾向に

       2003年11月26日
       全国保険医団体連合会政策部長
 津田 光夫


 今回調査(2003年6月実施)の速報値では、医科無床診療所、有床診療所、歯科診療所(いずれも個人)のすべてが、前回調査(2001年6月)に比べて、医業収入、医業費用、収支差額のいずれもが減少する事態となった。度重なる患者負担増による受診抑制や診療報酬引き下げが影響しており、減収を医業費用削減によって補い、医業経営を維持している窮状が改めて浮き彫りとなった。

 医科診療所(無床)の収支差額は、前回調査に比べてマイナス9.4%と二桁近く、収支差額の医業収入比率は36.3%となった。80年代は40%台だったものが、近年は30%台に下がってきた。前回調査から医業収入が減収に転じたなかで、医業費用の徹底した抑制を余儀なくされ、その結果30%台を維持している状態である。

 歯科診療所は93年調査以降、減収傾向が続き、とくに医科の保険診療収入との格差が大きく、今回も6割を切る水準となっている。1981年当時と比べると、医業収入は88.9%、医業費用が96.0%の水準で、収支差額は77.3%、2割を超える落ち込みである。

 給与費は前回調査から減少傾向にある。93年から01年の間に、医科診療所では看護師など医療従事者が6.5人から5.6人と平均0.9人。歯科診療所でも5.2人から4.3人と平均0.9人いずれも減少し、常勤雇用者からパート雇用への変化も起きている。  

職員体制の縮小は、医療サービスを提供する体制の弱体化そのものであり、患者、国民が受ける医療の質、安全にとっても重大な影響をもたらすものである。また、減価償却費は、医科無床診療所と歯科診療所では前回調査に比べて20%前後減少している。日本医療労働組合連合会の実態調査では、エックス線撮影装置など耐用年数を超えた医療機器が少なくないという深刻な事態も明らかにされている。

 中医協資料に「個人の診療所の場合収支差額からは、開設者の報酬となる部分以外に、建物、設備について現存物の価値以上の改善を行うための内部資金に充てられることが考えられる」との注記があるとおり、収支差額は開設者の報酬額とは等しくない。収支差額は医業収入から医業費用を差し引いた残りで、国民医療を支える医療機関の維持・再生産のための設備投資資金など各種準備金のほか、開設者報酬、無給の家族従事者の労働相当分などを含むものである。

 開業医は医業経営を維持するため、可能な限り「赤字」を出さないように、収入減に合わせて徹底した費用抑制を余儀なくされている。こうして確保された収支差額は、サラリーマンの「月収」と同列のものではない。

 今回の調査結果を含めて明らかなことは、個人立の医科、歯科診療所は、経営規模が縮小傾向にあり、医療の質の確保と安全な医療の保障が揺らぎかねない状況まで、追いつめられているということである。

 同時に、調査の有効回答率が5割台と低く、医科診療所では5割にも満たないこと、定点調査でないため、回答数が極端に少ない診療科もあることなど、国民医療の質を保障する診療報酬の改定幅を検討する基礎資料としては 不十分な調査であると指摘せざるを得ない。

 今回の調査結果をみれば、診療報酬の引き下げは到底認められるものではない。国民の命と健康を守り、そのための医療の質と安全の確保ができる「保険で良い医療」を保障する診療報酬の改善、引き上げを強く求めるものである。

                                 以上