歯科医療の改善には不十分

抜本改革を先行実施する改定

2004年2月13日
全国保険医団体連合会
歯科代表 宇佐美 宏


 今次歯科診療報酬改定は、歯科のとりわけ厳しい情勢にもかかわらず医科歯科とも医療費本体はプラスマイナス0%改定とされた。医療費本体を据え置いた枠内操作の改定で、か初診を軸に安上がりの生涯管理システムの試みや医療機関の管理統制にも利用されかねない情報提供の義務づけの拡大など、06年抜本改定を意識した内容となっている。

 他方で、抜髄、感染根管処置、直接歯髄覆罩、補綴時診断料等々の引き上げや、睡眠時無呼吸症候群への口腔内装置治療の新設など評価できるものもあるが、全体として医療の質と安全確保、歯科保険医が要望している基礎的技術料の大幅引き上げを図らず歯科医療改善を保障する改定にはほど遠い。また、金パラなど歯科材料価格基準の引き下げも予定されている。更に、困難を増す歯科技工士に対する評価は今回も放置された。

 今次改定の全面的な分析や評価は、今後出される告示や通知を見て改めて行うが、現段階での主要な特徴と問題点を以下に指摘したい。

特徴と問題点

か初診を軸に生涯管理システムを体系化

 特徴の第一は、「かかりつけ歯科医初診料」への露骨な政策誘導と混合歯列期の継続管理システムの新設である。か初診を4点、か再診を5点引き上げ、か初診算定患者だけに初期齲蝕小窩裂溝填塞処置、齲蝕歯即時充填処置の継続管理加算を限定、また、歯科治療総合医療管理料、歯科口腔継続管理治療診断料、地域医療連携体制加算など新設の加算点数もか初診届け出を算定条件にするなど、か初診への強引ともいえる誘導が行われた。

 しかし、か初診は他の医療機関との併算定を禁じているため「フリーアクセスを原則」という「改定の基本的考え方」に反し、患者の医療機関選択権を制限してしまう。医療機関側にとっては患者囲い込み競争が加速され、生き残りのために保険者との直接契約で診療報酬をダンピングする事態も起きかねず、今後の歯科医療提供体制に重大な問題となりかねない。

 今回新設された6歳から15歳の歯肉炎患者を対象にした継続管理は、歯肉炎以外の治療終了後1〜3月毎に再診料、指導料、歯周疾患の処置等の全てを包括化し、長期の患者管理を医療機関に負わせるシステムである。小児齲蝕の継続管理、歯周疾患のメインテナンスと併せて、包括点数で患者を生涯管理させ歯科医師の裁量権を奪う安上がりの管理を企図するものである。

 しかし、現状ではこれらのシステムは十分機能していない。治療終了後の長期間にわたる定期的受診は患者にも理解が広がっておらず、医療機関にとっても、か初診は一度算定すれば、症状によっては低評価の包括点数で長期の治療と管理の責任を負わされる。患者毎に治療結果の異なる医療の個別性が考慮されないため、継続管理、メインテナンスのシステムは一部でしか算定されていない。しかし、厚労省と保険者は今次改定も含め、更にこのシステムへの誘導をか初診と同様に強めており注意が必要である。

 なぜなら、か初診を軸に一度でもこのシステムに入ってしまうと、システムからの途中下車は不可能となりかねない、更にこのシステムを多くの医療機関と患者が受け入れた場合、近い将来の登録人頭医制や地域単位での保険医定数制にも道が開かれる事になるからである。

第二は情報提供の義務付けで管理統制の危険も

 か再診、直接歯髄覆罩、補綴時診断料、訪問診療等々に患者への情報提供やカルテ等への記載義務が拡大された。しかし、保団連が主張してきた情報提供に対する十分な点数評価は行われていない。情報提供や診療記録の保存などIT化の促進が強化され、審査・指導などで行政や保険者による管理・統制に利用される危険性が増大した。

第三は歯科開業医の行う在宅医療の限定化

 訪問診療の対象者、処置、手術などの治療範囲への制限強化が懸念される。限定された患者についての治療範囲まで定めることは主治医の裁量権を侵害し、また、治療行為が限定されたことで、訪問診療時の対応に支障を生じかねない。更に連携加算の評価をか初診届け出医療機関や他の医療機関との連携を条件としたことで、将来、訪問診療が行える歯科医療機関を歯科医師会会員に限定することも懸念される。

 以上のように、今次改定はか初診を軸に包括評価で生涯にわたる継続管理システムを体系化しようとするものである。それは患者のフリーアクセスの保障や医療の個別性、歯科医師の裁量権などこれまで築き上げてきた公的医療保険の理念を全面的に制限、後退させるものであり、断じて容認できるものではない。また、今次改定では特定療養費の新規導入は見送られたが、次回改定では導入の危険性をはらんでいる。今以上に患者負担増となる特定療養費の拡大には、従来にもまして反対運動を強めていきたい。

 保団連に結集する我々歯科医師は、患者・国民と手を携えて「保険で良い歯科医療」を目指し、困難を増す歯科医療の危機打開、社会保障としての医療保険を発展させるために歯科診療報酬の改善の運動を力強く進めていく決意である。