ホーム

世界に冠たる皆保険制度を根底から崩す厚労省試案

                         2005年10月20日
全国保険医団体連合会
政策部長 津田光夫


 厚生労働省は10月19日「医療制度構造改革試案」を発表しました。「骨太方針05」に基づき、医療給付費抑制と患者負担増を最大の目標に掲げ、@医療給付費(給付)と保険料(負担)を連動させ、地域格差を拡大する公的医療保険の都道府県単位化、A「都道府県医療費適正化計画制度」の法制化、B公的保険給付範囲の縮小と「保険導入対象外」医療の導入などによって、医療給付費の総額抑制を実現しようとするものです。国民と医療従事者が築き上げてきた、世界に冠たる国民皆保険制度を根底から崩そうとする医療構造改革は断じて容認できません。

 試案の第一の特徴は、国が本来守るべき国民の健康、医療について、国の責任と負担は後退させながら、地方に責任転嫁し、都道府県ごとに医療給付費抑制を競わせることです。診療報酬や補助金による“誘導”も行いつつ、目標未達の県には罰則的な措置をとることを法制化する。とりわけ、抑制効果をあげるため、地域別の診療報酬設定を制度化することは、診療報酬マイナス改定の継続化にも繋がり、全国民に等しく安心、安全の保険医療を保障する診療報酬の役割からして、認められるものではありません。

 また、都道府県ごとに被保険者からなる評議会を設置、利用して、住民に「保険料の引き上げか、診療報酬の引き下げか」を選択させることは、住民による医療給付費の抑制をねらうものであり、医療従事者との深刻な矛盾を引き起こしかねないものです。

 第二の特徴は、先進国中最も重い患者の実効負担にも係わらず、さらに患者、国民負担増を押しつけることです。75歳以上のすべての高齢者から年金天引きで保険料を徴収することをはじめ、高齢者の患者負担を2割、3割へ引き上げ、療養病床に入院する高齢者の食費・居住費を全額自己負担化する。また、高額療養費の自己負担上限を定額部分、医療費連動の定率部分ともに引き上げる、など厳しい負担増計画が目白押しです。

 黙過できないのは、試案に参考として明記された「保険免責制度」の導入です。外来受診1回当たり1000円の場合、2025年度で4.0兆円の削減試算が明記されていますが、当会の試算では、平均的な患者負担率は4割から5割にのぼります。とくに、点数の低い疾病、受診日数の多い疾病では、8割以上にもなる場合があります。しかも、健保法に定めた「療養の給付」=現物給付において、一部負担金とは別個に、一定金額以下の医療について保険給付を免責するということは、「健康の自己責任」に対するペナルティ的なものであるとともに、現物給付を原則とする国民皆保険制度の根幹に抵触する重大な問題です。

 第三の特徴は、地域医療を支えてきた医療提供体制の後退に繋がる方針が明記されたことです。都道府県の医療計画で主要疾病ごとに「医療連携体制」を構築し、「年間外来受診回数」「年間総入院日数」などの目標を機械的に導入することは、地域での受け入れ体制がないままの「病院追い出し」や、外来受診回数の制限など官僚統制的なシステムづくりが懸念されます。

 とくに、「医療資源の集約化・重点化」、「医療機関の機能分化・連携」という名の下に、当該地域の糖尿病の患者数に対する、標榜医療機関数の割合が全国平均より高い地域では、糖尿病の「医療連携体制」から除外される保険医療機関が生まれ、患者のフリーアクセスが阻害されることが危惧されます。

 また、救急医療や災害医療など「公立病院等が担ってきた分野」を、今後は、民間医療機関が担っていく試案の方向は、「公益性の高い医療法人類型」を創設するとしていますが、公立病院の“民営化”に道筋をつけるものといえます。

 厚労省試案とは言いながら、経済財政諮問会議の民間議員や財務省が提案した「高齢化修正GDP」などの総額管理をはじめ、「保険免責制」の導入や市販類似医薬品(又は非処方せん薬)の保険給付外し、一般病床を含む入院時の食費・居住費の自己負担化、診療報酬のマイナス10%改定などの項目が明記されました。経団連が14日に発表した医療制度改革への提言と軌を一にしており、日本医療の根幹部分である公的医療保険制度と医療提供体制を市場原理に基づくものに再編し、公私二階建て医療制度への転換をねらうものです。

 厚労省自らが表明しているように、「国民皆保険制度の構造改革であり、広く国民全てに大きな影響が及ぶもの」です。我々は、国際的にみて患者の実効負担は際だって高いにも関わらず、国民所得に占める国民医療費は先進国中で最低という、患者、国民と医療従事者にとって歪んだ状態を改革し、さらに、国民に安心、安全な医療を確保するために、「保険証1枚」で安心してかかれる医療制度の実現をめざして国民的な議論と運動に引き続き尽力するものです。                     

以上