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【談話】 IT戦略本部専門調査会検討項目の「診療報酬請求及びカルテの完全電子化」は そもそも「調査・検討」すべきでない


                                       2010年12月2日
                         保団連医科社保審査対策部長    八木秀満
                         保団連歯科社保審査対策部長    田辺 隆
                         保団連情報通信ネットワーク部長  本田孝也

 11月16日開催の第2回「情報通信技術利活用のための規制・制度改革に関する専門調査会」(以下、専門調査会)に対し、検討項目の一つに挙げられた「診療報酬請求及びカルテの完全電子化」について、厚労省が行った回答は重要な意味を持つ。厚労省はレセプトの完全電子化について、「過疎地の診療所をはじめとする小規模医療機関の撤退などに象徴される医療現場の混乱や地域医療の崩壊が起こる可能性がある」と回答。また、電子カルテの義務化についても「レセプトオンライン化の完全義務化の過程においては、関係団体の反対が強く、訴訟まで提起されたことを踏まえ、十分なコンセンサスの形成が必要。電子カルテは、導入コスト・ランニングコストの負担に問題があることにも留意が必要」として、「診療報酬請求及びカルテの完全電子化」は「実施困難・不要」と回答したのである。これは、「レセプトオンライン義務化撤回訴訟」の経緯をふまえれば、厚労省見解の重大な変化と受けとめることができる。われわれは、同訴訟の意義を改めて確認するとともに、上記回答を行った厚労省に敬意を表したい。

「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」(以下、IT戦略本部)は、内閣に置かれ、2000年に制定された「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」に基づく組織である。専門調査会は政令によってIT戦略本部に設置することが定められている。したがって、専門調査会による報告は、ダイレクトに内閣に持ち込まれることになる。しかし、このような重みのある組織であるにも関わらず、今回の議論を見る限り、その中身だけでなく、専門調査会の在り方が適切かどうかについても疑問を持たざるを得ない。というのも、例えば「電子請求、電子カルテの義務化」について「優先的に検討すべき」とした唯一の委員は、その理由を「自分が病気になったとき、自分の情報が電子化されていたらいいのにと思ったから」と述べた。また、別の委員は会議中に議論とは関係ない内容の書き込みを電子端末からツイッターにしていた。このように、国民生活に重大な影響を与える検討項目や、訴訟にまで発展した項目について、真剣に議論しているとは思えない雰囲気の中で「調査・検討」するというのは失礼極まりないものがある。

また、報告される内容が、実際の政策決定にどのように係わるのか不明確であることも、非常に気にかかることである。「診療報酬請求及びカルテの完全電子化」については、「B」項目、すなわち「書面による調査が必要なもの」「必要に応じてヒアリングを行う」とされたが、具体的にどのように検討されるのかが全く不明である。発表されている日程や議論の中身を踏まえれば全く調査・検討されないとも思われるが、「B」項目とされた以上、不安はぬぐえない。

以上の理由により、われわれは「診療報酬請求及びカルテの完全電子化」を専門調査会の検討項目から削除することを求めるものである。