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混合診療の両大臣合意をどうみる

全面解禁見送りの一方で、大幅解禁に道を開く

 昨年12月15日、尾辻厚生労働大臣と村上規制改革担当大臣は、混合診療問題について「合意」を発表した。規制改革・民間開放推進会議などが要求していた「全面解禁」や「一定水準以上の医療機関での包括的解禁」は、医療界あげての反対運動の結果、見送りとなった。しかし、「合意」の内容は、混合診療の大幅解禁に道を開くもので、今後の運用・具体化によっては厚労省担当者の言葉のように「実質解禁」となるものである。

▼夏までに実現の3課題の問題点

@国内未承認薬
強引な治験への誘導は安全性に問題

 国内未承認薬は、現行の特定療養費制度で対象となっている治験の活用によって、今年度中に混合診療を認めるルールを確立するとされた。新設される「未承認薬使用問題検討会議」で「企業治験」と「医師治験」に振り分け、「医師治験」の支援体制を整備するなどして確実な治験実施につなげるといわれる。つまり、採算面などから製薬メーカーが企業治験を避けた場合は、医師治験を推奨するということだが、企業が負担しなければ薬剤費等は医師と患者の負担となる。副作用などの補償体制など不明な部分も多い。

 内保連の斎藤代表も「安全性がなおざりにされることがあってはならない」と述べている。安全性、有効性に疑問のあるものは、強引に治験への流れを作って混合診療を認めるのではなく、保険制度とは別枠で製薬メーカーと国の責任によって希望する患者に使用を保障する体制を作るべきではないだろうか。

A必ずしも高度でない先進技術
まず検討されるべきは保険導入

 医療機関から要望のあった保険外の先進技術について、専門家会議で審査し、3カ月以内に保険診療との併用を認めるかどうかの判断を下し、医療技術ごとに要件を設定するとしている。例としては、体外衝撃波膵石破砕術、腹腔鏡下小腸悪性腫瘍切除術があげられている。

 厚生労働省は100程度の技術があるとシミュレーションしているが、そのもとになっているのは専門医会などから保険導入の要望のあった技術ということだ。それであるならば、まず検討されるべきは、保険導入の可否である。

 外保連の出月会長も合意への見解の中で「有効性、安全性がきちんと検証され、広く普及すべき技術、医薬品などであれば、迅速に保険適用にすべき」と述べている。

 仮に、保険導入に疑問のあるものについて、特定療養費制度により混合診療を認めるのであれば、安全性と有効性に問題がなければ2年以内に保険導入するなどルールを明確にするべきではないだろうか。保険導入を先送りする手段にされてはならない。

B回数制限を超える医療行為
保険外負担ではなく医学的根拠で解決を

 ピロリ菌の除菌(3クール目以降)や腫瘍マーカー検査(月2回以上)の追加実施、追加的リハビリなどが対象に挙がっている。厚労省としては、医療機関から要望があり、前述の専門家会議が認めたものについて混合診療を認める方針といわれる。しかし、来年の通常国会に提出予定の法律改定では、保険導入を前提としない「患者同意選択医療」に分類するとされており、将来にわたって保険外負担が固定化される恐れがある。

 ピロリ菌の除菌については、日本ヘリコバクター学会の浅香保険委員会委員長が専門紙の取材に答えて「耐性菌の問題が大きい。3クール目以降の除菌は専門的立場から考えにくい」と述べ、保険外負担で認めるのではなく「二次除菌薬として有用とされる抗菌薬(メトロニダゾール)の保険適用の道を早急に探ってもらいたい」との見解を示している。

 合意でも「医学的根拠が明確なものについては保険導入を検討する」とされており、求められているのは混合診療ではなく、専門医会や学会の意見をふまえた医学的根拠にもとづく解決策である。

▼来年予定の特定療養費抜本改編のねらい

 現行の特定療養費制度は「高度先進医療」と「選定療養」の二つに分類されている。来年の通常国会に提出が予定されている医療改革法案では、この特定療養費制度を廃止し、「将来的な保険導入のための評価を行うものであるかどうか」の観点から「保険導入検討医療(仮称)」と、保険導入を前提としない「患者選択同意医療(仮称)」に再編するとされている。後者に入ると未来永劫、保険導入はされないとなると大問題である。

 現行の特定療養費制度は、まず、法律上も「自己の選定」という患者の選択が前提になっている。また、「高度先進医療」以外は技術料を含めた医療本体ではなく周辺部分を対象とするものとされてきた。1984年の法案審議の中で当時の吉村仁保険局長は「差額徴収の方式を利用して技術料にかかわる差額徴収をやろう、こういう考えはございません」と答弁している。さらに、法案採択にあたっての付帯決議では「特定療養費制度の運用にあたっては、自由診療の大幅な拡大や保険診療の後退をもたらすことのないよう細心の配慮をもって運用(参院社労委、84年8月4日)」することが確認されている。

 そもそも財務省などが混合診療解禁を強く求めてきた理由は、保険給付範囲を縮小し、保険医療費を抑制することである。全面解禁には反対の厚生労働省も、この間、特定療養費制度を活用して混合診療の対象を次々拡大してきている。したがって、この特定療養費制度の抜本再編のねらいは、混合診療の大幅な拡大である。つまり、「保険導入検討医療」という医療関係者が受け入れやすい構想を一方では提示しながら、制約のある特定療養費制度をリセットして、本格的に保険給付縮小の手段に再編成しようということだ。

 新規技術の保険導入を抑制するだけでなく、風邪や腹痛などの「軽医療」、歯科の補綴をはじめとした現在給付対象となっている医療行為の「保険外し」に利用できるような改編である。

▼全会一致の国会決議に反する道

 新聞各紙の報道によると、小泉首相は「全面解禁は先送りでは」との記者団の指摘に対して「そういう見方はまったく節穴。無条件で解禁したら混乱が生じますよ」(毎日)と語ったそうである。首相自らの「年内に解禁で決着を」との指示により、ルールなき解禁か、ルールある解禁か、をめぐって激論となったにもかかわらず、まったく無責任な発言である。解禁の先導役を果たしてきた規制改革・民間開放推進会議の宮内議長らは、「われわれが主張する混合診療ではない」として、引き続き特区での解禁を含めて「全面解禁」を要求しているが、首相自身が無条件解禁は混乱を招くという認識であるなら、それらの検討はただちに中止を指示すべきである。

 今回の混合診療解禁をめぐる議論やマスコミ報道では、未承認薬の使用や高度先端医療の現場での矛盾が大きく取り上げられることで、保険医療費の抑制と民間保険の市場拡大という、財界や財務省、推進会議の宮内議長らの本音が覆い隠されてきた。

 この点について、京都大学医学部付属病院教授の福島雅典氏は、『月刊現代』2月号でこう指摘している。

 「これは、きわめて狡猾な論理のすり替えである。未承認問題に対する世論の不満に巧みに“便乗”した、邪道な論と言ってよい。混合診療解禁はやはり許してはならない。認めれば、日本の医療制度が崩壊しかねないからだ」

 600万の署名により、全会一致で採択された国会請願は「混合診療導入は、患者の自費負担を大幅に増やし、国民医療の不平等を引き起こし、国民皆保険医療制度を破壊するもの」とうたっている。この請願の趣旨に反するような、混合診療の大幅解禁を許してはならない。