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06年歯科診療報酬改定の動向を探る


 2006年度に予定されている診療報酬改定に向けた作業手順は、従来と異なっている。次回改定の動向を探り、今日必要な運動対策を考察する。

中医協有識者会議の結論次第

  次回改定手順で従来と様相を異にする第一は、「中央社会保険医療協議会のありかたを考える有識者会議」(「有識者会議」)の検討結果次第という問題である。「有識者会議」は、昨年の日歯による中医協汚職事件を契機に、その再発防止、診療報酬決定の仕組みの根本からの見直し、透明な改定ルールの導入などを目的に設けられ、今秋結論を出す予定である。

 1月26日の中医協総会では、「平成16年度中に中医協で議論すべき事項について」とし、06年度改定に及ぶ内容や手順まで言及していない。

各学会の技術評価を改定論議で重視

 第二は、医・歯・薬学等専門学会からの技術評価、再評価意見を基本に診療報酬改定の論議をすすめようとしていることである。

 厚労省保険局医療課は、本年1月25日付で、日本医学会、内科系学会社会保険連合、外科系学会社会保険委員会連合、日本歯科医学会の専門分科会、日本薬学会、日本看護協会に宛て、「医療技術の診療報酬における評価・再評価に関しての意見提出(6月30日までに)」を求めている。

 保険局医療課の同日付事務連絡「医療技術の評価・再評価に係る希望書提出について」の中では、「以下の学会から提出された医療技術評価希望書を評価対象とする」としており、上述の学会に所属しない学会・研究会・専門団体からの希望は評価対象としないと同様である。

 その後の改定までの手順は、学会から寄せられた診療報酬医療技術評価希望を中医協診療報酬調査専門組織医療技術評価分科会で検討し、その結果について中医協総会の議を経て、改定という運びとなる。

「ガイドライン」見直しを歯科医学会へ要請

  麦谷保険局医療課長は、「高度先進医療研究会」総会(2月22日)における講演の中で、06年度の改定では「診療報酬点数8300項目すべて見直す」と示唆した。

 厚労省は、その具体化に向け関連各学会に対して、本年5月を期限に「医科診療報酬及び関連通知等の項目総点検に関する協力のお願い」をしている。

 歯科では、日本歯科医学会が「中医協からの要請を受けて」として、学会加入の300歯科診療所に対して「歯科固有の技術の再評価に関する調査」依頼をしている。

 調査内容を見ると、「歯科点数表の解釈」(いわゆる「青本」)の診療方針に関する法令編に掲載されている「スタデイモデルの取扱いについて」、「リベースについて」、「歯周病の診断と治療のガイドライン」、「ブリッジの適応症と設計」、「有床義歯の調整・指導についてのガイドライン」、「歯科訪問診療における基本的考え方」の各項目について“参考にしたことがあるか”“内容はわかりやすいか”“わかりにくい内容はどの部分か”“問題点や臨床現場とかけ離れている点はないか”などを設問している。

 さらに保険診療との関係が明確にされておらず、「ガイドライン」などが定まっていない「顎関節症」、「義歯設計」、「矯正歯科」、「歯内療法」、「睡眠時無呼吸症候群の治療のための口腔内装置」、「歯の再植または移植手術」などについて、新たにガイドラインが必要か否かを尋ねている。

 「歯科訪問診療の基本的考え方」は04年改定で新設されたが、その保険診療における位置付けは、歯科点数表において、「歯科訪問診療を行うにあたっては、日本歯科医学会の『歯科訪問診療における基本的考え方』(2004年)を参考とすること」とされている。

 このことからも分かるように、これら「ガイドライン」は、歯科の保険診療を行う上での基準とされている。その見直しの影響は、医科診療報酬点数項目見直しに匹敵するといっても過言でない。

少ない診療所調査の客体数

  このような歯科保険医療にとって重要な位置付けを有している「ガイドライン」見直しのための調査を日本歯科医学会は、調査客体数300の歯科診療所で行うとしている。わが国の歯科診療所数は6万6000であり、統計的に信頼性の高い調査結果を得る上からもあまりにも客体数が少なすぎる。

 この他歯科では、同じく「中医協の要請を受けて」として日本歯科医学会から、29大学附属病院、142病院歯科、300歯科診療所と患者(大学病院1施設20人、病院歯科1施設10人、歯科診療所1施設5人)を調査客体に、「歯科医療における情報提供についての調査」(患者満足度調査)も行われている。患者向けの調査内容では、「か初診」だけでなく、歯周病やブリッジ、義歯等の治療について、説明や指導内容が分かりやすかったかどうかを尋ねる内容となっている。

厚労省が学会意見つまみ食い

  その上懸念されることは、学会からの技術評価意見を厚労省が全面的に次回改定に反映するのかということである。

 なぜなら、歯科では、今までに幾度となく改定や見直しにおいて、厚労省に学会意見を“つまみ食い”されたという苦い経験を味わされているからである。

 例えば、1985年の改定における「歯周疾患治療の在来型(治療計画書なし)、治療計画型(治療計画書あり)」では、1981年歯周病学会答申の都合のいい部分だけ“つまみ食い”されたし、2001年の「か初診」見直しに対して、厚労省が学会から聴取した際にも、学会の意見「か初診要件撤廃、歯科初診料一本化」は「中医協論議の方向とはかけ離れている」との理由で無視された。

学会への要請、学会意見の全面公表が必要

 こうした中で、診療の現場を反映し、「保険でよい医療・歯科医療」を実現し、歯科医療機関の経営に資するような方向での改定を行わせるために、今運動上緊急かつ重要な課題は以下の通りである。

 歯科医科を問わず、学会専門分科会・専門医会等に対して、現行の「診療報酬点数及び関連通知」、「ガイドライン」等をはじめ診療報酬改善要請を行う。

 保団連理事会では、学会・専門医会に向けた診療報酬改善要請を医療運動の要に位置付け、具体化を決めている。

 さらに厚労省や中医協に対して、関係学会から挙げられた医療技術に対する評価・再評価の要望や意見を全面公開させる。

 あわせて、「有識者会議」の論議にも目配りしながら、保団連の「中医協改革と中医協委員の推薦に関する要望」(04〜05年度第12回理事会決定)に沿って、臨床現場の実態や意見を反映させる方向で、中医協のあり方、その委員構成の見直し改善を求めていくことである。