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医薬品の保険給付外しを加速する「改正」薬事法の危険性


                                                                   

2002年7月に改正された薬事法が2005年4月1日から全面施行され、医療用医薬品の分類変更に関する詳細が明らかになるにつれ、国民の生命・健康に直結する重大な問題点、矛盾が明らかになってきている。

従来は医療用医薬品のなかで医師による処方せんまたは指示がなければ使用できない「要指示薬」以外の医療用医薬品(成分ベースで全体の約3分の2)は、「医師の使用を前提としながら、処方せんが必要ない薬」ということであった。この“法のすき間”を突く形で、一部の薬局・薬店やウエブサイト上で、「要指示薬」以外の風邪薬、鎮痛剤などの医療用医薬品を仕入れ、小分けにして直接消費者に販売するいわゆる「零売」(れいばい)が行われてきた。零売を取り締まる法的根拠は旧薬事法に存在せず、行政はあくまで「好ましくない」としか対応できなかった。

改正薬事法の目的の一つは、こうした医師の処方せんなしに医療用医薬品を販売している事例への規制を強化し、医療用医薬品は原則としてすべて医師の処方せんを前提とする処方せん薬とし、それ以外は一般用医薬品に再分類することであったはずである。

ところが、04年9月の薬事・食品衛生審議会薬事分科会で示された「処方せん医薬品指定基準」(「耐性菌が生じやすい、重篤な副作用が発現しやすい、医学的検査の必要性など本来は要指示薬に指定すべき品目」と厚労省が考えたもの)を経て、今年2月10日に官報告示された医療用医薬品の分類では、処方せん薬と指定されたのは従来の要指示薬の大半に注射剤全般や麻薬・血液製剤などを追加した約3分の2にとどまった。

これら以外の医療用医薬品については、「原則」として「効能・効果、用法・用量、使用上の注意などは医師、薬剤師などの専門家が判断、理解できる記載となっているなど医療において用いられることが前提」(05年3月30日付通知)としつつも、罰則や救済・補償規定はなく、薬局・薬店などで処方せん薬以外の医療用医薬品(いわゆる非処方せん薬)を販売することを容認した。

漢方製剤、ビタミン剤、パップ剤にとどまらず、ペリアクチン、ロペミンなど要指示薬であったのに非処方せん薬に分類されたものや、逆に要指示薬ではなかったのに処方せん薬になったもの(メバロチン、タケプロンなど主として売上高上位の医薬品)もある。さらに、常用量で副作用の発現率が高い劇薬指定の多くが非処方せん薬に指定された(ロキソニンなど)。しかも、この個別分類の根拠は示されず、まったくのブラックボックスである。

患者が医師の診断によらず、薬局・薬店などで広範囲の医療用医薬品を全額自費で購入できるようになり、その風潮が定着していくならば、漢方製剤、ビタミン剤、パップ剤を筆頭に薬価収載から外し、同時に保険給付も外す理由付けを与え、政府・厚労省がねらう医薬品の保険給付外しを加速させる危険性がある。また、非処方せん薬の一般医薬品への転用(スイッチOTC化)や規制改革・民間開放推進会議が要求しているコンビニ販売医薬品注1への転化もいっそう強まるであろう。

 医療用医薬品に限って使用されていた成分を医師の管理下から外すには相応の慎重な基準が必要であり、「添付文書の交付や店頭での説明により適正使用が確保できる」とは言い難い。むしろ癌など重篤な病気の発見を遅らせることが危惧される。

保険医にとって薬剤の選択は、非常に高度な専門的職能に基づく判断である。ある薬剤を選択し投与する行為は、他人の身体に侵襲を加える危険を伴っており、そのために専門的教育を受けた者に国家資格を与えているのである。ところが、改正薬事法は医師としての専門的職能を蔑ろにするものであると同時に、国民の身体の安全に対する重大な挑戦であるといわざるを得ない。

 我々は次期通常国会に予定されている薬事法再改正に向けて、非処方せん薬に選定した根拠を示すよう強く要求する。その上で、薬剤師法第23条に基づき注2、処方せんなしでは医療用医薬品を販売しないよう薬局・薬店などに対して強力な行政指導を発揮するよう求めるものである。

以上 



注1)規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)は、「一定の質が担保される薬局・薬剤師については、全て医師の処方せんによらずとも、自らの裁量で処方できるよう必要な措置を講ずる」「薬局・薬店以外のコンビニエンスストア、チェーンストアなどの一般小売店における医薬品の販売については、本年7月30日に実施された医薬部外品へ移行した上での販売解禁(371品目)に止まることなく、医薬品そのものを、特例販売業や配置販売業と同様、一部については販売可能とする」よう求めている(04年11月22日「年末の答申に向けた進め方及び基本方針」)。

注2)薬剤師法第23条は「薬剤師は、医師、歯科医師又は獣医師の処方せんによらなければ、販売又は授与の目的で調剤してはならない」と規定している。薬事法では「医療用医薬品」「一般用医薬品」という区分はなく、製造承認を取得するときに、「もっぱら調剤用」と申告すると「医療用医薬品」となる。今回「非処方せん薬」に指定された医薬品は、「調剤用医薬品」として製造承認を取得しているので、薬剤師法における無処方せん調剤禁止に十分該当すると思われる。