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□政策解説

医療提供体制を縮小させる医療法「改正」法案



 厚生労働省は、医療費(正確には医療保険からの保険給付費)の伸びを「経済財政と均衡」させるとして、@患者負担増(1兆円)と診療報酬の引き下げ(1兆円)、A「生活習慣病」の予防(2兆円)や平均在院日数の短縮(4兆円)など、合わせて8兆円(2025年度)の抑制策を打ち出した。

厚生労働省の辻哲夫審議官が「病院中心を生活中心にシフトし、医療費も少なくて済むシステムをつくる」「そのシステムには連携プレーがいっぱいいる、医療従事者の資質向上が大きな課題」(2006年2月18日)と述べているように、平均在院日数の短縮と、疾病別の医療連携体制づくりが柱となっている。今国会で審議中の「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律案」の問題点を検証する。

新医療計画で地方に責任押し付け

 厚生労働省は、都道府県の責任で作成する「医療費適正化計画」と医療計画を軸に、「平均在院日数の短縮」と「医療機能の分化・連携」、「生活習慣病」予防対策を推進する計画である。医療計画は2007年の初秋から「全国指標」に基づく数値目標、達成に向けた対策の検討を進め、2008年4月から新しい医療計画をスタートさせる工程表を描いている。

 新しい医療計画には、「疾病の治療または予防に係わる事業」(脳卒中対策、糖尿病対策、がん対策等の主要事業)、「救急医療等確保事業」(救急医療、災害医療、へき地医療等)について、都道府県内の「地域」ごとに「医療連携体制」をつくるとしている。例えば、県内の圏域ごとに糖尿病の連携体制をつくるということだ。

 昨年の12月9日に開かれた厚生労働省の「医療計画の見直し等に関する検討会」に提出された資料では、厚生労働省は「地域内では、各医療機関が患者に対し治療開始から終了までの全体的な治療計画を共有」するという地域完結型の医療を想定している。

 国の「分かりやすい指標と数値目標」に基づき、都道府県が設ける数値目標には、「年間総入院日数の短縮(□□日から○○日へ)」、「健診受診率の向上(○○%へ)」、「年間外来受診回数の減少(□□日から○○日へ)」、「在宅での看取り率・在宅復帰率の向上(○○%へ)」などが示された。

 厚生労働省は、補助金や融資、診療報酬などを活用して、都道府県に対して「責任を持って」取り組むよう指導するとともに、各都道府県が達成した数値と全国平均の数値との比較も明示するとしている。都道府県には、医療計画に「達成すべき目標を定め」、「少なくとも5年ごとに」目標の達成状況の調査や分析、評価を行うことが義務づけられる。本来、医療は国が責任を持って体制を整備し、医療サービスを提供すべきである。国がその責任を放棄して、地方自治体にその責任を押し付けるものである。

医療機関に情報提供を義務化

 医療法「改正」法案には、患者が医療機関の「選択に関して必要な情報を容易に得られる」ように、「医療提供施設の責務」を制度化することが盛り込まれた。

 「医療提供施設」の開設者・管理者は、「提供する医療について正確かつ適切な情報報を提供」とあわせて、「患者又はその家族からの相談に適切に応ずるよう努めなければならない」とされている。

 医療機関の管理者は、「引き続き療養を必要とする」患者を退院させるときは、退院後の療養に必要な「保健医療サービス又は福祉サービスの提供者」との「連携を図り」「適切な環境の下での療養の継続に配慮する」ことが明記された。また、患者の退院時には、退院後に必要な保健医療サービス・福祉サービスについての事項を記載した書面(「療養計画書」)の作成・交付と「適切な説明」、保健医療・福祉サービスを提供する者との連携を図ることに「努めなければならない」という条項も盛り込まれた。

 さらに、「医療を受ける者が病院等の選択を適切に行うために」、医療機関の管理者は省令で定める事項を都道府県に報告し、報告した内容を医療機関内で「閲覧に供しなければならない」とされた。厚生労働省では、保険医療機関に義務づける情報として、「平均在院日数」「詳細な明細つきの領収書発行の有無」「セカンドオピニオンの実施」などを示しており、都道府県では報告を受けた情報内容をインターネット等で公開するとしている。

 一方で、医業、歯科医業業務の広告できる事項も拡大される。患者、その家族から医療に関する相談に応ずるための措置とされている。広告事項は、平均的な在院日数、平均的な外来患者数、平均的な入院患者の数、患者を紹介をすることができる他の病院・診療所名、保健医療サービスや福祉サービス提供者の名称など、13事項について認める。

 医業の情報公開は必要だが、広告規制緩和で医療機関の間に広告情報の格差が生まれることが懸念される。

医療機関への立入検査強化の体制

 医療法「改正」法案では、都道府県に対して、「医療安全支援センター」の設置を義務付け、患者、その家族からの「医療に関する苦情に対応し、または相談に応ずる」体制をつくるとしている。

 一方、医師法・歯科医師法「改正」法案には、医師、歯科医師について、「品位を損するような行為」のあったときは、厚生労働大臣は「戒告」、「3年以内の医業停止」、「免許の取消し」の処分をすることができるとされている。

 その処分をすべきか、否かを調査する必要があると認めるときは、診療録その他の提出、病院その他の場所に立ち入り、検査させることができる。虚偽の陳述や報告、物件提出や検査を拒否すれば50万円以下の罰金に処すことも盛り込まれた。

 厚生労働省では2007年度から、これらの行政処分を担当する専門職員を全国の厚生局(7局1支局)に配置する計画である。

 併せて、健康保険法「改正」法案には、「その他国民の保健医療に関する」法律や政令の規定により罰金刑、禁錮以上の刑に処せられたときは、厚生労働大臣は、「保険医療機関の指定もしくは保険医登録をしないことができる」との規定が新設された。こうした規定を活用して、医療機関に対する立ち入り検査体制などを厳しくする方針であろう。

「適正配置」で医師数も抑制か

 厚生労働省内の議論の過程では、「地域医療カバー率」は「医療資源の適正配置を促すための指標」という説明がされていた。今回、地域完結型の医療という概念を持ち込むこととあわせて、県内の「地域」ごとに、例えば、糖尿病の「医療連携体制」をつくるに当たって、患者数に対する専門医数の割合が著しく高い地域には、医師数の「適正配置を促す」ような仕組みが導入されることなどが懸念される。

 また、「医療連携体制」の中心に「かかりつけ医」を位置づけ、他の医療機関や保健所などと連携する構想を示しているが、現行のかかりつけ医はどうなるのか、四月の診療報酬改定で新設された在宅療養支援診療所の果たす役割など、肝心な内容は明確にされていない。 

 全国保険医団体連合会が政策提言しているように、地域で住民とともに健康を守る立場から@日常生活圏内で、住民にプライマリー・ケアを保障する、A患者を中心に医療機関同士、保健、介護、福祉分野など関係機関との連携、ネットワークを構築、住民の「主治医」機能を果たす、B必要な医療を提供する地域医療保障計画を作成する、などの改革方向が求められている。