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政策解説

後期高齢者医療制度のねらい


 『高齢者の医療の確保に関する法律』をはじめとした「医療改革法」では、公的保険給付範囲を削減・縮小することとあわせて、都道府県が「医療費適正化計画」を策定し、5年毎に結果を検証していくことが義務化された。

数値目標の達成が困難な都道府県に対しては、厚生労働大臣の指示で、その県だけに適用される診療報酬を導入するなど、ペナルティとなりかねない仕組みも導入された。

 「医療費適正化」とは、都道府県を国の出先機関とし、「いかに患者に保険医療を使わせないか」を競争させることであろう。

 「医療費適正化」のターゲットにされている後期高齢者(原則75歳以上)の医療保険とその運営にあたる都道府県「後期高齢者医療広域連合」の問題点を検証する。  

保険料の新たな負担

 問題点の第1は、75歳以上の後期高齢者は、給与所得者の扶養家族で今は負担ゼロの方に新たに保険料負担が発生することだ。

 政府が示している平均的厚生老齢年金受給者の場合の保険料は、月額6,200円で、年間74,400円の負担増となり、2ヵ月ごとに介護保険料と合わせて2万円以上が年金から天引きされていく(月額15,000円以上の年金受給者の、老齢年金、遺族年金、障害年金から天引き)。

 これまで扶養家族となっていたために保険料負担がゼロの人(厚生労働省の推計では約200万人)には、激変緩和措置として2年間は半額になる措置が取られることになっているが、新たな負担には変わりない。

 また、現役でサラリーマンとして働いている人が75歳になれば、その扶養家族は新たに国民健康保険に加入しなければならず、国民健康保険料が丸まる負担増となる。

現行制度にない厳しい資格証明書の発行

第2に、保険料を「年金天引き」ではなく「現金で納める」人(政府の試算では2割と見込まれている)にとっては、保険料を滞納すれば「保険証」から「資格証明書」に切り替えられ、「保険証」を取り上げられる。

 さらに、特別な事情なしに納付期限から1年6ヶ月間保険料を滞納すれば、保険給付の一時差し止めの制裁措置もある。

 年金収入の少ない低所得者への厳しいペナルティだ。現行制度では、高齢者に対しては資格証明書発行の対象から外してきたことと比較すると、問答無用な冷厳なシステムとなっている。

給付を切り縮める『差別医療』の導入

 第3に、医療機関に支払われる診療報酬は、他の医療保険と別建ての「包括定額制」とし、「後期高齢者の心身の特性に相応しい診療報酬体系」を名目に、診療報酬を引き下げ、受けられる医療に制限を設ける方向を打ち出している。 

厚生労働省から示されているのは、主な疾患や治療方法ごとに、通院と入院とも包括定額制(例えば、高血圧症の外来での管理は検査、注射、投薬などをすべて含めて一カ月○○○円限りと決めてしまう方法)の診療報酬を導入する方向である。

国保中央会では昨年12月、後期高齢者を対象とした「かかりつけ医」の報酬体系を導入し、「登録された後期高齢者の人数に応じた定額払い報酬」とし、「医療機関に対するフリーアクセス(『いつでも、誰でも、どこへでも』)の中の『どこへでも』をある程度制限」することを提言した。
後期高齢者に対する医療内容の劣悪化と医療差別を招く恐れがある。

保険料自動引き上げの仕組み

 第4に、後期高齢者が増え、また医療給付費が増えれば、「保険料値上げ」か「医療給付内容の劣悪化」か、というどちらをとっても高齢者は「痛み」しか選択できない、あるいはその両方を促進する仕組みになっている。

 2年ごとに保険料の見直しが義務付けられ、各広域連合の医療給付費の総額をベースにして、その10%は保険料を財源にする仕組みとなっている。さらに後期高齢者の人数が増えるのに応じてこの負担割合も引きあがる仕組みだ。

 これらのことが受診抑制につながることにもなり、高齢者のいのちと健康に重大な影響をもたらすことが懸念される。

独自の保険料減免が困難に

 第5に、保険料は、「後期高齢者医療広域連合」の条例で決めていくことになるが、関係市町の負担金、事業収入、国及び県の支出金、後期高齢者交付金からなる運営財源はあるものの、一般財源を持たない「広域連合」では、独自の保険料減免などの措置が困難になってくる。

 これまで、地域の医療体制や被保険者の健康状態の違いが反映した自治体ごとの医療保険制度であったために、保険料水準にはおのずから違いがあったが、県内統一の保険料になれば、大都市部と山間部での医療体制の大きな相違等で、新たな医療格差が発生する恐れが強くなる。

当事者の声が直接届かない

 第6に、広域連合議員の定数は制限されており、半数以上の市町から議員を出すことができない。しかも、その議員は「各市町の長及び議会の議員」のうちから選ばれることとなっており、当事者である後期高齢者の意見を、直接的に反映できる仕組みとしては不十分なものになっている。

 住民との関係が遠くなる一方、国には「助言」の名をかりた介入や、「財政調整交付金」を使った誘導など大きな指導権限を与えている。このままでは、広域連合が、国いいなりの“保険料取立て・給付抑制”の出先機関になる恐れがある。

広域連合の改善を

 国にこれらの問題点を是正していくよう強く求めていく必要があるとともに、当面、広域連合の規約に次の3点を盛り込んで是正が必要ではないか。

@広域連合議会で重要な条例案の審議を行う場合、高齢者等から直接意見聴取する機会、例えば公聴会などを実施し、広域連合議員にはそこに出席することを義務付けること。
また、被保険者の声を直接聴取する恒常的な機関として、市町の国民健康保険運営協議会に相当する「協議会」の設置について、積極的に検討すること。

A一定の基準を設けて、業務報告や財務報告等の各市町議会への報告を義務付けること。

B住民に対する情報公開の徹底を義務付けること。

 地方自治法により自治体として扱われる「広域連合」に対して、住民による請願・陳情権や条例制定の直接請求権は保障されている。今後は、住民の声と広域連合議会での審議を結びつけて、抜本的な是正を図っていくことが必要である。