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政策解説

政府の「開業医の役割強化」「総合医」構想の狙いと問題



厚労省は、医療構造改革に係る都道府県会議を4月17日招集し、「医療政策の経緯、現状および今後の課題について」を発表。その中で「開業医の役割強化」と「総合医」構想を打ち出した。これからの開業医の役割として、@地域で在宅当番医制のネットワークを構築、少なくとも休日・夜間の救急センターに交代で出務、A時間外でも携帯で連絡がとれる、B午前は外来、午後は往診・訪問診療、C在宅療養支援診療所として24時間体制での対応などを求めている。

さらに、患者は普段かかっている医師の中から「在宅主治医」を選び、その在宅主治医が関係者間の調整などで中心的な役割を担うシステムの構築、および、総合的な診療に対応できる医師の養成を提起している。一方で、急性期病院は、原則として入院と専門外来に限る方針も示した。

 説明した医療構造改革推進本部の辻哲夫本部長(事務次官)は、「患者の病院への過度な集中を適正化するためにも、開業医の役割強化が必要」と強調している。

 この動きと平行して、次期診療報酬改定では、開業医の診療報酬について、時間外診療を手厚くする代わりに、初・再診料を引き下げて夜間や休日診療に誘導する意向が示されている。また、「総合医」構想の具体化として診療科名を20程度に整理し、幅広い病気を診断できる医師に公的資格を与え(当面、厚労省が認定)、その医師がいる医療機関には「総合科(仮称)」を認め、医療機関ごとに初期診療と専門医療の役割分担を明確にする動きも出ている。

これらの基本的な狙いは、新高齢者医療制度の創設と合わせて開業医の「登録医制」への条件を整備し、患者の初期診療を「総合医」に限定するなどの供給体制再編をめざすものである。

 問題点の第一は、「医療崩壊」の根本要因の解決には手をつけないで、その要因を患者の過度な病院集中と開業医の役割不足にあるかのように患者と開業医に責任転嫁していることである。現在起きている「医療崩壊」の要因は、厚労省が「医療費抑制」を至上のものとして、不足している医師養成を抑制し、診療報酬の削減などで医療機関を経営困難に追い込んできたことによるものである。この失政を反省し、イギリスの教訓に学んで医療費総枠を拡大することなしに「医療崩壊」の問題を解決することにはならない。

 第二は、開業医の実態からいえば、24時間体制での時間外診療を求められても困難な状況に置かれていることである。現在の開業医は、長年続いてきた低医療費政策とも相まって、「職住一体」の開業形態が減少している。医療従事者についても「常勤雇用」が困難となり「パート雇用」が増えている中で、時間外でいつ受診するか分からない患者のために医療従業者を待機させるなどの診療体制を確保することは困難である。さらに、地域の中核病院が急患さえ受けられない状況が進行し後送体制が崩壊している中で、在宅患者などを安心して診ることはできない。医療費総枠の拡大で、崩壊している地域医療体制を立て直すことこそ急務の課題である。

なお、夜間・休日の診療体制は、自治体の援助を含め各地区医師会・歯科医師会を中心に休日急患診療所など、開業医の輪番で対応している(全国で在宅当番医制677地区、休日夜間救急センター512地区)。このような努力にこそ、国はもっと支援すべきである。

第三は、時間外診療の優遇を口実に、初・再診料の引き下げを誘導するもので、初期診療の重要性を軽視するものである。初診は、患者の診察、診断、治療方針を立てるもっとも重要な基礎的診療行為である。また、再診については、併発疾病の発見や治療方針の見なおしなど、治療継続に関わる重要な診療行為である。この初期診療での適確な診断と治療こそ、患者の不安を解消し、早期発見・早期治療を保障するものであり、医療費の効率的活用につながるものである。この初・再診料を引き下げ、それを時間外診療に振り向けるのは本末転倒である。もともと低い初・再診料の基本診療部分を高く評価しつつ、時間外の診療にも対応できるよう手当すべきである。

 第四は、患者が選ぶ「在宅主治医」の方向は、後期高齢者医療制度の具体化とも関連し、国保中央会などが出している「人頭払いの登録医」を前提としたものである。「総合医」を「在宅主治医」として初期診療に限定するなどで患者のフリーアクセスを制限することにもなる。「総合医」認定の制度化は、診療科に新たな格差と分断を広げ、医師の管理強化につながるものである。

保団連は、第一線医療を担う開業医の団体として、患者の要求に応え総合的に診ることのできる診断能力の向上は当然であり、「開業医宣言」でも全人的医療の実践を目標に掲げ、患者との対話を重視するとともに、病院と診療所、医科と歯科、医療機関と福祉・介護施設などの連携を強める立場から活動してきた。今後とも、地域住民が安心して医療が受けられるよう各地でのネットワークづくりや、研究会活動などで「開業医宣言」による医療の実践に努力するものである。

しかし、「総合医」構想が「在宅主治医」に連動し人頭払いの「登録医」で、患者のフリーアクセスを制限するなど医療費抑制の手段として行われることには反対する。保団連は、開業医と勤務医、各診療科の連携を強めて、次期診療報酬改定での具体化などを許さず、医療費の総枠拡大による社会保障としての医療制度の改善をめざし、運動を強めるものである。