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次回診療報酬改定どうなる?  後期高齢者診療報酬

 

医療費抑制を目的に「医療の効率提供」
厚労省は4月17日、「今後の医療政策の検討の方向性」を公表し、医療費抑制を目的とした「地域で完結した医療が効率的に提供できる体制を構築する」という政策方向を打ち出した。
そのキーワードは、「医療機能の分化・連携」と「在宅生活への早期復帰」である。辻哲夫厚労省前事務次官の言葉を借りれば、「病院中心を生活の場中心にシフトし、医療費も少なくて済むシステムをつくる」、「生活の場で、医療や介護の提供が受けられる体制を基本とする」ということである。
こうした医療体制における開業医の役割として、厚労省は大きく2つの点を求めている。 第1は、プライマリケア医をしながら、専門医療機関へ紹介する機能(診断力の優れた医師)、第2は、在宅医療への取り組み(コーディネートできる資質が必要)である(9月4日、宮島俊彦厚労省総括審議官)。
厚労省は、各都道府県の責任で作成し、実施する「医療費適正化計画」と「医療計画」を通じて、在宅への強制的な誘導による入院の抑制と、開業医の裁量の縮小をめざす考えだ。
具体的に想定しているのは、地域単位で運営責任を持つ医療連携体制づくりで、「予防(特定健診・特定保健指導、介護予防トレーニング)→外来医療→急性期入院(2週間程度)→回復期入院(回復期リハビリ180日まで)→療養期入院(「長期治療病床」に変更予定)→在宅医療(自宅・居住施設)→在宅終末期医療」というシステムをつくることである。
そして、後期高齢者については、この連携体制の中で、「主治医」をコーディネーターに、他の医療機関や介護事業所と連携し、在宅医療、在宅終末期を24時間体制で診る取り組みを行う―これが厚労省の描いている姿である。
そのために、平均在院日数の短縮と病床削減を強引に進める計画だ。厚労省は、現在の全国平均在院日数の36日を2012年度末までに3日短縮し、33日にする方針だ。また、在院日数が長期にわたる療養病床37万床を、2012年度末には15万床程度に削減する。精神病床約35万床も2012年度までに7万床削減して25〜28万床程度にする。さらに、平均在院日数を25%短縮できれば、病床も25%が不要になるとの考えにそって、一般病床についても現在の90万床から60万床程度へ削減していく方向である。

「生活支援医療」に
厚労省は、2030年には75歳以上の後期高齢者が、今の1300万人から2260万人に増加、2040年には年間死亡者数が約166万人になると推計している。
高齢者が増えても医療費抑制を確実なものとするために、高齢者医療確保法の「目的」には、「医療費の適正化の推進」が明記された。同法に基づく後期高齢者医療制度は、都道府県単位で運営されることになり、患者負担を除いた医療給付費の財源構成については、1(後期高齢者の保険料):4(現役世代の特定保険料):5(公費)で法定化された。
こうした財源構成は、後期高齢者から徴収する保険料総額に基づいて、残りの9割の総額も決まることになる。つまり、その県の医療給付費(見込み)が確定するということを意味する。都道府県単位で、高い保険料負担に耐えるのか、医療給付費を抑制していくのかという選択を迫るシステムが本格的に発動することになる。保険料引き上げが困難になれば、給付抑制に向かわざるを得ない。年齢差別の“姥捨て山”医療制度になることが危惧される。
厚労省は、後期高齢者医療制度の実施と並行して、医療の提供形態と診療報酬を一体として改編し、暦年齢で区分する診療報酬体系を導入する方針だ。「生活を支援する医療」の提供が柱となっており、「薬剤の投与のあり方などを含む高齢者への診療の標準化」とあわせて、「総合的に診る主治医」を新たに導入する。

診療報酬の方向性
厚労省は、後期高齢者の特性として、@治療の長期化と複数疾患があること、A認知症が多いこと、B新制度の中で死を迎えることの3点を挙げ、診療報酬については、「在宅(および居住施設)を重視した医療」と「安らかな終末期を迎えるための医療」に焦点を当てた体系とする。
外来医療には、「後期高齢者を総合的に診る取り組みを行う主治医」を新たに導入する。「主治医」の要件として、@患者の病歴や受診歴、服薬状況、他の医療機関の受診状況などを「管理」する、A患者の日常生活能力(例えば、風呂に入れるか、外出できるか)、認知症の有無等を「評価」する、B専門の医療機関との連携・紹介ができる、の3項目を示した。
「主治医」は、受け持ちの後期高齢者の1年間の診療計画を作成し、外来、在宅における医療管理を行う。病歴や受診歴、服薬歴などの重要な患者情報は、すべて「主治医」に一元化されることになる。
また、診療報酬については、高血圧性疾患など主な疾患や治療方法ごとの「包括定額制」を導入するとしている。こうした報酬体系を通じて、「主治医」による受診と服薬の抑制を促し、「包括定額制」で医療行為も抑制していくというのが厚労省のねらいである。
厚労省は後期高齢者1人に対して1人の「主治医」を想定している。後期高齢者は居住地の周辺で開業している「主治医」をあらかじめ選択しておく形になる。 受診に際しては、まず初めに「主治医」にかかることになり、ゲートキーパー的な役割を担うことになると見られるが、後期高齢者のフリーアクセスに一定の制限が加えられることが懸念される。
厚労省の原徳壽保険局医療課長は、外来診療へのアクセス制限に対する質問に対して、「病院に行くことを制限することは、今すぐやる方策ではない」との考えを示し、アクセス制限自体を否定しなかった(2007年7月6日「後期高齢者の医療の在り方に関する特別部会」『日本医事新報』<CODE NUMTYPE=SG NUM=8B02>4342)。
また、各地域で「主治医」が受け持つ後期高齢者の人数に上限を設けるのか。逆に、地域ごとに「主治医」の人数に下限と上限を設けるのかなど、肝心な点がいまだに不明である。地域によっては、症状が比較的軽い患者の“囲い込み”が先行し、「在宅生活への早期復帰」を余儀なくされた重い症状の患者に対応できないという事態も懸念される。(続く)