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「事業仕分け」に反論する


*「全国保険医新聞」2009年12月5日号を一部修正

  行政刷新会議は11月30日、「事業仕分け」の結果を大筋了承したが、本当に国民目線に立ったものだったのか。大型公共事業は温存され、防衛予算では主要な兵器装備には手をつけなかった。高速道路無料化予算など、初めから対象外におかれた事業も多い。一方で、医療、保育など国民生活にかかわる大事な予算が「縮減」と判定された。「仕分け人」には小泉構造改革を推進してきたメンバーが多数参加するなど、「構造改革」路線と共通するものがある。

財務省主導の事業仕分けに厚労省が反論
事業仕分けの第2ワーキンググループは、医療関係者、患者団体代表がメンバーに入っていない中で、次期診療報酬改定について、@公務員人件費のカットやデフレ傾向を反映させる、A収入が高い診療科の報酬を見直す、B開業医の報酬を勤務医と公平になるように見直す―ことを挙げ、診療所の診療報酬を削って、病院勤務医対策に充てるという、財政中立のもとでの診療報酬の配分見直しを結論とした。
また、「市販類似薬は保険適用外」とされるなど保険給付を制限する判定を行っている。
財務省主導の事業仕分けに使われた、同省主計局が作成した説明資料と、同省が11月19日に公表した『医療予算について』に対して、厚生労働省は「診療報酬イコール医師の報酬ではありません」「さまざまな医療従事者が協働してよりよい医療サービスを提供する」ために使われていることを強調し、医師の収入部分は多くないと反論した。
また、「配分の見直しで生み出される財源は大きくありません」「医療再生のためには、もう一段の検討や努力が必要です」と、診療報酬の引き上げを求めた。
さらに厚生労働省は、事業仕分けへの対応として、独自に事業の見直しを行っている。

診療所医師の給与は病院医師の0・93倍
「実調」で示された、医科診療所院長の給与平均月額「208万円」には、個人診療所の院長収入は含まれておらず、医療法人や、「その他」に含まれる市町村立等の診療所のデータのみとなっている。個人開業医の「院長給料」は、存在しないためである。回答施設数をみると、医科診療所の回答総数は1047件で、そのうちほぼ半数の510件が個人診療所であることから、前述の「208万円」は、医療法人の診療所院長の給与平均額といえる。
病院と診療所の経営実態を、給与を通じて比較するのであれば、同じ職種で行うことも必要であり、この場合「診療所医師」の給与は、病院医師の0・93倍となっている。(図1)


経営者である開業医には経営責任がある。病院においても、経営者である病院長と勤務医とでは給与水準は異なっている。むしろ、他の職種等と比べて病院勤務医の給与が低いことが問題である。

損益差額は、すべてが開業医の収入ではない
「実調」結果は、有効回答率の低さや非定点調査であることなどの問題点をはらんでいるが、その調査でさえ損益差額は、医科診療所(全体)で前回より22・4%も低下し、歯科診療所(全体)は2・1%と、いずれも大幅に下がっている。損益率も減少傾向にあり、開業医の経営状況の厳しさが表れている。
そもそも、損益差額には、医師、歯科医師の収入以外に、事業に係る税金や借入金返済、将来の建物・設備を整備する積み立て、退職積み立てなどの費用が含まれており、経営リスクも背負っている。
また、勤務医の平均年齢と開業医の平均年齢による差も加味されていない。勤務医給与には大きな格差がなく平均を用いてよいが、開業医は、自営業者であり勤務形態などを含めて大きく異なるため、平均値ではなく、最頻値でみるべきである。開業医の損益差額の最頻値は約1500万円で、勤務医とほぼ同じ水準である。

開業医も厳しい長時間労働
さらに、財務省は事業仕分け資料で「開業医は病院勤務医より平均勤務時間が少ない」と説明しているが、保団連が実施した「労働実態調査」では、開業医の週当たりの労働時間は60時間前後である。従って、月当たりの時間外労働時間の平均は、過労死ラインといわれている月80時間を超えている。開業医も、長時間働く厳しい状況である。(図4)


勤務医問題の解決には、過重労働や時間外手当不払いの改善などさまざまな問題があり、この状況を改善するためには診療報酬の大幅な引き上げが不可欠である。しかし、この間の診療報酬抑制によって、勤務医だけでなく開業医も窮地に陥っており、開業医の報酬を引き下げて病院勤務医に回すやり方では、医療崩壊は食い止められないばかりか、かえって地域医療の崩壊を悪化させかねない。

整形外科のデータ変動が極端に大きい
事業仕分けでは「収入が高い診療科の報酬見直し」として、整形外科が指摘されている。
しかし、整形外科は2008年診療報酬改定で大きな変化がなかったにもかかわらず、03年からの調査と今回の結果を比較すると、損益差額などが極端に高くなっている。回答数もわずか40施設(入院収益なし)であった。前述の「労働実態調査」結果では、整形外科の平均所得は低いという結果が出ている。(図6)




「医療費の動向」(厚労省)による、主たる診療科別、医科診療所1施設当たり医療費の伸び率(対前年度比)をみると、2002年度は、診療報酬マイナス2・7%の改定と、老人の窓口負担引き上げの影響を受け、医科診療所全体でマイナス4・4%、整形外科はマイナス7・2%と大幅に低下した。
また、眼科は02年度のマイナス5・0%に加えて、06年度はマイナス3・6%。皮膚科も02年度のマイナス4・2%に加えて、06年度マイナス2・4%、07年度マイナス2・2%という状況である。

医療費総枠を増やす政権合意の実現を
財務省は11月20日、次期診療報酬改定の改定率について、薬価を医療費ベースで3%程度引き下げる。技術料など本体部分の改定率はプラスマイナス・ゼロとし、診療所から病院へのシフト=配分の見直しで対応する。診療報酬全体で3%のマイナス改定とすることを厚生労働省に求める方針を決めた、と報じられている(『メディファクス』11月24日5769号)。
しかし、長妻昭厚生労働大臣は11月19日の参議院厚生労働委員会で、「薬価を下げて本体部分の上げ幅を大きくしていく」と述べ、足立信也政務官も「少なくとも本体部分については2006年のマイナス3・16%を超えなければ病院経営は無理ではないか」と表明した。
厚生労働省が11月26日に公表した「2008年医療施設調査」によると医科診療所は前年より449施設減り、1987年以来、21年ぶりに減少した。特に小児科の診療所は2815施設減少し、産婦人科・産科の診療所も67施設減っている。
小児科、産婦人科などの診療報酬を引き上げる必要があることはいうまでもないが、地域医療を支えている医療機関全体の底上げが必要である。
三党連立立政権合意では、「医療費(GDP比)の先進国(OECD)並みの確保を目指す」とされているが、この政策の実現が厳しく問われている。