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ねらいは医療の市場化……世界の潮流に逆行するTPP参加

(『全国保険医新聞』2011年9月15日号より転載)


  貿易障壁を取り除き、日本の市場開放に拍車をかけることがねらいとされるTPP。TPPの参加は、日本の医療、国民皆保険制度にどのような影響を与えるのか、解説した。

  政府は「新成長戦略」において、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を示し、2010年11月9日に閣議決定された「包括的経済連携に関する基本方針」で、「看護師・介護福祉士等の海外からの人の移動」と「海外の優れた経営資源を取り込む」ことを掲げている。
  一方、アメリカのオバマ大統領は、来年11月の次期大統領選挙に向け、TPPという枠組みを国内の雇用拡大のてこにすると報じられている。「TPPを通じて、貿易障壁を取り除き、市場を開放するようアジア諸国を説得する」(「経済報告2011年版」)として、「日米経済調和対話」(年次改革要望書―2008年まで日本に提示―に代わる対日要望)で、医療や保険など10分野にわたる規制緩和を要求している。
  人や資金の国際移動、例外品目を認めない関税撤廃によって、サービス(医療や介護を含む)や物品の貿易自由化となれば、医療分野にも人が流れ込み、あるいは流出し、医療関連への投資に拍車がかかる事態が想定される。

混合診療、医療法人への剰余金配当の解禁へ
  政府は「抜本的な国内改革を先行的に推進する」方針で、行政刷新会議「規制・制度改革分科会」の中間報告(10年11月)では、国民皆保険制度について、「真に国民に必要な医療を整理し、公的保険の適用範囲を再定義する」と踏み込み、@「事前規制から事後チェックへ転換し、実施する保険外併用療養費の一部を届出制に変更」して、原則禁止の混合診療をなし崩し的に拡大する、A条件付きで営利企業の役職員が医療法人の役員となることや、医療法人への剰余金配当等を認める―ことを打ち出している。
  また、海外から患者を国内の医療機関に招いて治療を行う「医療ツーリズム」や、日本の医師や病院、医療機器をパッケージで輸出を行うことも計画されている。
  シンガポールの「ラッフルズ・メディカル・グループ」(2009年度の売上高は約140億円)は、JR大阪駅周辺に進出予定し、1000平方メートル規模の診療所を開設し、海外の患者を招き、検診と診察を行う計画である。
  また、経済産業省は「病院丸ごと輸出プロジェクト」を立ち上げ、がんや循環器の治療、内視鏡施術などについて、日本から医師や看護師らを派遣するとともに、医療機器やベッドなどの病院設備、食事などを含む運営システムを一括して提供する事業で、ロシアや中国などが輸出先として挙がっている。

米製薬企業の高収益構造を維持
  TPPには「知的財産権」条項が盛り込まれているが、アメリカがTPP交渉で、医薬品の特許尊重義務について、現行の基準を超える条項を提案している問題を、ワシントンに本部を置く「ナリッジ・エコロジー・インターナショナル」などの14団体・個人が訴えている(NGOnetworkJapan)。
  現在、世界貿易機関(WTO)の「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」では、ジェネリック医薬品企業は、既存医薬品の臨床データを使用することが認められている。
  これに対し、TPP交渉でのアメリカの提案では、独自に臨床実験をやり直さなければならなくなり、実質的にジェネリック医薬品を製造できなくなると指摘している。アメリカの製薬企業の高収益構造を維持することが狙いである。
  TPP参加で「ヒト、モノ、カネ」がアメリカから医療分野になだれ込む、あるいは流出するようになれば、国民皆保険の土台が崩れることになる。TPP参加は医療を守り育てようとする世界の潮流に逆行する道でしかない。