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損税はゼロ税率で解消を

               (全国保険医新聞2012年10月15日号)


 今年8月、消費税増税法案が国会で可決、成立した。デフレ下での増税はさらに消費を冷え込ませることや、中小の小売、卸売り業には仕入れにかかった税を価格に転嫁できないといった問題があり、経済や国民生活に大きな打撃となる。医療界でも、損税問題が強く懸念されている。

保険診療では「損税」が避けられない
消費税は、原則として全ての商品販売・サービス提供等の取引に課され、消費者が税を負担し、納税は事業者が行う。
事業者は、課税売上に係る消費税から課税仕入れ等に係る消費税を差し引き計算して納める(図1)。事業者に税負担は求められていない。
医療機関は、仕入れに際して、保険診療に必要な医薬品・医療機器等に係る消費税を支払う。他方、医療は命と健康に直接かかわるため、保険診療等は「非課税」とされ、医療機関は患者から消費税を受け取らない。
しかし、現在の「消費税を課さない」とする非課税規定では、保険診療を行う医療機関は患者から消費税を受け取れない上、かつ、非課税ということにより卸売業者などからの仕入れ等に係る消費税を控除することができない。その結果、仕入れ部分の消費税を負担する形となる。消費税「損税」の発生である。
保険診療は公定価格より、独自に価格を値上げして「損税」を回収することはできない。「損税」発生は避けられない。

増税で医療機関は経営破綻
現在の消費税5%段階で、医療機関の「損税」は、医科1件当たり年間で、無床診療所260万円、 有床診療所562万円、病院1億円弱と報告されている(日本医師会調査・2007年度分)。歯科の個人立診療所は1件につき年39・7万円と試算される(第16回医療経済実態調査より)。
同様に、自治体病院では、平均で年間1・24億円、500床以上の病院では約3・2億円の負担となっている(全国自治体病院協議会調査)。また、日本私立医科大学協会(大学数29、病院数82)は、1病院で約4億円、1大学では約11・4億円としている。
「損税」による経営圧迫は、人件費・設備などの費用圧縮を招き、医療の質の維持・向上に影響を及ぼすことになる。
消費税が増税し「損税」が増大すれば、急性期部門や設備投資規模が大きい病院の経営破綻が現実味を帯びる。診療所も存亡の危機となり、地域医療全体が地盤沈下する。

政府案は医療機関と患者に負担押し付け
社会保障・税一体改革では、医療機関の「損税」について、消費税10%までは高額投資に係る特別な手当てを含めて診療報酬など医療保険制度で対応するとしている。
しかし、診療報酬への上乗せは、事実上、患者に消費税負担を求める形となる。
また、国は、「医療機関にも適切なある程度の消費税負担はお願いしたい」(安住財務相・7月25日国会答弁)として、医療機関にも負担を求める構えである。
患者・医療機関の双方で「損税」を甘受せよという国の方針には、責任をもって「損税」を解消しようとする姿勢は見られない。

「ゼロ税率」による解消が合理的
税制上の欠陥である「損税」は税制で解決するのが合理的である。
保団連は、医療の公益性と社会保障の観点から、医療にかかる消費税を免除する「ゼロ税率」を求めている。
具体的には、医療機関が仕入れ等で払った消費税を税務署に申告し、還付を受ける形となる。患者負担が生じず、病医院も還付により「損税」が解消される。患者・医療機関の双方に適切な解決策である。

医療界の幅広い共同を
日本医師会、四病院団体協議会も「ゼロ税率・軽減税率を適用するなど患者負担を増やさない制度に改善する」ことを求めており、「ゼロ税率」を視野に入れている。