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「一体改革」が狙う医療提供体制再編

(「全国保険医新聞」2012年10月25日号)


政府は、社会保障・税「一体改革」が示した医療・介護再編シナリオを、「今後の施策の根幹」に位置付け、医療提供体制から、医療給付費の抑制を強化しようとしている。本紙10月5日号で解説したように、今後の医療再編は、第6次医療法改定と第2期都道府県医療計画・医療費適正化計画を通じて具体化し、診療報酬改定で誘導していくシナリオである。

再編の中心は 一般病床
医療提供体制の再編の中心は、病床と入院患者の集約化である。
いわば「川上」に位置付けられる「急性期病床群(仮称)」を医療法に位置付け、それをてこにして一般病床・患者の集約化を進めようとしており、2012年4月にはこうした再編を誘導する診療報酬・介護報酬同時改定が行われた。
厚労省は、第6次医療法改定法案を2013年通常国会へ提出することを目指している。
医療再編シナリオに沿って、約33万床ある「7対1」一般病床は、高度急性期に再編し、18万床に絞り込む方向である。当面、各医療機関が病棟単位で「自主的に選択」し、都道府県に報告する仕組み(「医療機能情報提供制度」)を導入する。次の段階で、新たに「急性期病床群(仮称)」を医療法に位置付ける方針である。
厚労省が社会保障改革に関する集中検討会議に提出した参考資料では、「100床当たり従事者数と平均在院日数の間には、高い相関関係がみられる」としている。
1990年の平均在院日数は41・8日で100床当たり医療従事者数は86・7人だったが、2008年には医療従事者数118・8人で、平均在院日数は28・2日に減っている。
医療資源(医師や看護師などのマンパワーや財源)を集中投入し、急性期における平均在院日数の短縮=患者の稼働率を高め、病床を絞り込んでいく。そこで余った病床は、亜急性期や慢性期の病床に振り向けることで、必然的に病床削減は進行する、というのが厚労省の目論みだ。
病院関係者からは、「急性期病院として生き残ろうとするなら、病床数を減らしてでも手術部門の体制を強化すべき」との声が上がっている。
厚労省が示した「医療・介護に係る長期推計」では、一般病床をターゲットにして、現在の107万床・平均在院日数19〜20日を、2025年には、高度急性期18万床・同15〜16日、一般急性期35万床・同9日、亜急性期・回復期リハビリ26万床・同60日、地域一般病床24万床・19〜20日に再編する。一般病床全体では129万床が必要になると推計しながら、26万床を削減し、103万床に抑制しようとしている。

地域医療を担う病院切り捨て
入院患者数についても、1日162万人に増加するが、病床の稼働率を高め、平均在院日数を短縮し、1日33万人=約2割の入院患者を減らすことを打ち出している。
医療提供体制の再編の第一歩として、2012年診療報酬改定では、一般病床の「7対1」入院基本料病棟の算定要件が、平均在院日数は18日以内、看護必要度(重症患者の入院数)15%以上にそれぞれ変更された。
『日経ヘルスケア』(2012年4月号)は、平均在院日数18日以内をクリアできない病院は数%に過ぎないが、15%以上を達成できないところは30%近くもあると言われ、かなりの移行対象病院が出るのを見込んで、次回の改定までの経過措置も設定していると指摘している。
さらに、「13対1」と「15対1」の入院基本料を算定する一般病棟に90日を超えて入院している患者(特定患者)に適用されていた特定除外制度が外され、平均在院日数のカウントに組み込むか、療養病床の点数を算定するかいずれかの対応を迫られることとなり、長期入院患者については転退院を迫られるケースも発生する。
こうした再編シナリオが具体化されるならば、長期入院患者の比率の高い病床・病棟はどんどん苦しくなっていき、地方で二次救急を担っている病院、急性期医療以後を引き受ける後方病院に厳しい規制をかけるものである。人員確保に苦労しつつ地域医療を担ってきた病院の切り捨てにつながることになる。

「低コスト」提供体制づくりへ
厚労省は「日常生活圏で適切な医療・介護サービスを受けられる体制」を構築する方針を打ち出している。これに沿って地域の医療提供体制を方向づけるのが、都道府県が策定する医療計画と医療費適正化計画である。
2012年度から2017年度の第2期医療費適正化計画の策定に向けて、厚生労働省は基本方針を改定した。第2期計画の目標として、「医療機関における入院期間の短縮を目指す」とともに、「患者の早期の地域復帰・家庭復帰が図られることが期待される」としている。
第2期医療計画においても、「在宅医療に積極的な医療機関」を計画へ位置付け、「在宅医療の体制構築に係わる指針」に基づいて、都道府県が達成すべき「在宅死亡率」の数値目標を記載する。「精神疾患の医療体制構築に係る指針」では、「できる限り短期間で退院できる体制を構築する」としている。
厚労省は、精神科に新たに入院する認知症患者のうち半数は2カ月以内に退院させることを数値目標とする方針である。
病院から生活の場へ、増加している認知症のケアを地域でカバーするとしているが、このことは、入院時に行っていた医療・看護サービスを、在宅でも同様に行わせることではないか。
在宅医療における医療の安全を確保し、24時間365日のシームレスな医療・介護サービスとともに食事、入浴なども必要だが、支える地域の崩壊が進行し、退院した患者を受け止めることが困難な状況である。
厚労省は、「地域性に留意する」としているが、病院・病床と患者の集約化による「入院から在宅へ」の強化と、「在宅看取り」を担わせる「低コスト」の提供体制づくりが進行するならば、患者が受ける医療サービスの質と量の低下が危惧される。
在宅医療を支える医療機関全体の底上げを図り、診療所・中小病院の外来機能=早期発見、早期治療、慢性疾患管理を評価し、地域医療の基盤強化につながる施策を行うべきである。