TPPの危険な正体 国民皆保険が危機に
(「全国保険医新聞」2013年4月5日号)
安倍首相は、「聖域なき関税撤廃が前提でない」、「協定のルール作りに参加する」などとして、TPP交渉への参加を表明した。交渉参加の問題点を検討する。
再交渉はできない
TPP交渉に新たに参加する国は、@現行の交渉参加国が既に合意した条文はすべて受け入れ、再協議は行わない、A交渉の進展を遅らせない、B包括的で高いレベルの貿易自由化を約束する、という3つの条件が付されていることが判明した。
政府が昨年3月1日に公表した「TPP交渉参加に向けた関係国との協議の結果」でも、新規参加国に求められる条件として、「包括的で質の高い協定への約束」「合意済みの部分をそのまま受け入れ、議論を蒸し返さない」「交渉の進展を遅らせない」と明記している。
4年間は非公開
TPP交渉の内容は非公開である。各国の提案文書も交渉で決まった事柄も、TPP協定発効後4年間は隠される。「国民皆保険は守る」「公的医療保険は交渉の対象になっていない」などと政府が言っても、分かったときには手遅れとなりかねない。
関税ゼロが目的
日米共同声明では、「日本がTPP交渉に参加する場合には、全ての物品が交渉の対象とされる」としており、2011年11月12日にTPP交渉参加国の首脳が表明した「TPPの輪郭」の達成が求められている。
「TPPの輪郭」には、「関税並びに物品・サービスの貿易及び投資に対するその他の障壁を撤廃する」と明記されている。関税分野は即時ゼロでなくても5〜10年かけて撤廃することになる。
非関税障壁の影響を試算せず
TPPの影響について内閣官房が発表した「政府統一試算」は、農林水産分野で生産額が約3兆円減少するとした。その結果、日本の食料自給率は、試算の基準にした2009年度の40%から27%へ低下する。
関税分野だけでなく、非関税分野も貿易制限が撤廃されるが、政府の試算は非関税分野の影響を考慮していない。
日米両政府間の事前協議には、自動車関税と保険に加え、保険以外の「その他の非関税措置」も対象となる。
医療を規制緩和
TPP交渉では、医薬品の特許保護の強化や、各国政府の公定薬価決定過程に製薬会社を参加させることが焦点になっている。
保団連が行った「薬価の国際比較調査」では、日本より米国は高い結果であった。米国は国民皆保険制度がなく、ほとんどが自由診療のため、薬価も製薬会社の言い値で付けられている。TPPに参加すれば、米国の薬価が押し付けられ、日本の薬価が米国並みに高騰することになる。
さらに、米通商代表部は、「診断・治療及び外科的方法」を特許の対象にするよう求めている。先進医療が特許保護の対象になると価格が上がる。それを保険適用すれば公的医療保険財政を圧迫するため、いつまでも保険外に留め置かれる危険がある。
既に、政府の規制改革会議は「保険外併用療養費の更なる範囲拡大」を検討し、経団連も「一部の高度医療の適用除外・保険免責制の検討」を提言している。
価格が上がったうえ、全額患者負担のままにされれば、庶民はますます使いづらくなる。
他方、先進医療をカバーする「特約」を販売している民間保険会社は、「特約」に加入する人が増え、有利になる。
また、営利企業の病院経営への参入は、米国、ニュージーランド、シンガポールなどTPP交渉参加国では普通である。 日本が参加した場合、営利企業の参入禁止は「非関税障壁」とみなされ、撤廃の対象とされるおそれがある。
形式的に全国民が公的医療保険に入るという意味で「国民皆保険」が看板として残っても、実質的には機能しなくなっていくおそれが強い。
主権を制限する条項
TPP協定に盛り込まれる条項で、企業の主張が認められれば、国内法やルールを変えさせられることになる。
例えば、日本の政府が先進医療を保険適用した場合、民間保険会社の先進医療特約の売り上げに影響が出るという理由で、提訴することも可能となる。保険会社が商品販売のために、公的医療保険への適用自体をやめさせることができるわけである。
また、厚労省が薬価を引き下げようとした場合、製薬会社が損害を被るとして提訴することも可能である。
TPPを熱心に推進しているのは民間保険会社と製薬会社で、医薬品価格を引き上げ、公的医療保険を縮小することで利益を得る業界である。
結局、TPPの本質的な目的は、参加国の国内制度やルールを米国のグローバル企業にとって有利な基準に変えてしまおうということなのである。
以上