社会保障制度改革推進国民会議「報告書」の問題点
医療・介護で5兆円削減
(「全国保険医新聞」2013年10月15日号)
安倍内閣は、社会保障制度改革国民会議の報告書にのっとり、8月21日に「プログラム法案」骨子を閣議決定した。10月15日から開会する臨時国会に法案を提出する。国民会議報告書およびプログラム法案の骨子では、医療・介護費の抑制をを目的として、医療・介護の削減が狙われている。その内容を解説する。
厚労省が計画
「プログラム法案」は、「健康管理や疾病予防」や「介護予防」など「自助努力を行うインセンティブを持てる仕組み」を新たに作り、「個人の主体的な取組を奨励する」ことを明記している。さらに、「レセプト等を適正に活用しつつ」、外来受診の適正化などを推進するとしている。
厚生労働省は、「プログラム法案」に基づき、2025年度に向け医療費・介護費を5兆円削減するという目標を掲げ、「重点化・効率化」と称した給付削減・負担増とあわせて、医療費・介護費を抑え込む計画である。
健康が自己責任に
「国民の健康寿命が延伸する社会」と題した施策は、@ICT活用による重複受診・検査の防止などで1兆1000億円、Aレセプトや特定健診など介護・医療データを活用した介護予防や認知症患者に対する早期対応などで1兆5000億円、Bレセプト・健診データを活用した生活習慣病予防の指導などで2兆4000億円―を削減するとしている。2016年に導入される共通番号制度も利用する方向である。
健康増進・疾病予防や早期対応、公衆衛生を充実させ、国民の健康づくりを推進することは必要だが、医療・介護の給付削減・負担増を進めながら、一方で予防や健康づくりを進めていくことは両立しない。個人の健康や疾病には社会的・経済的な要因も大きく影響することを無視して、健康の自己責任論を押し付けようとするものではないか。
公的保険の範囲を縮小し市場原理に委ねる路線では、患者・利用者の重症化が進むなど医療費・介護費は逆に増大するだけである。
都道府県が国保を運営 介護保険は負担2割に
「国民会議報告」は、医療計画の策定者で、医療提供体制の管理・運営に責任を持つ都道府県に、国保運営についても責任を持たせる方針を明示している。都道府県単位での医療費抑制の実効性を増す狙いである。市町村については、医療費に応じた保険料を設定し、徴収責任を持つ方向が示された。
都道府県が新たに国保の保険者となるので、市町村一般会計から国保への法定外繰り入れを廃止する口実を与える一方で、都道府県が繰り入れる根拠もなくなる。保険料の賦課徴収の責任は市町村に残すからである。医療費と保険料が連動する仕組みを構築し、さらなる保険料の引き上げが狙われている。
厚労省は、国保へ約2000億円を投入することにより、低所得者に対する保険料軽減措置を拡充するとしているが、消費税増税と一体で実施する方向であり、保険料軽減分は吹き飛んでしまうことになりかねない。
後期高齢者医療制度については、「十分定着している」として廃止を否定した。75歳以上の高齢者に限った医療費(給付)と保険料(負担)が連動する仕組みが継続することになる。
高齢者の生活 崩壊の恐れ
「国民会議報告」に基づき、厚労省は、「一定以上所得者」の介護保険の利用料1割を2割へ引き上げ、施設入所者の居住費・食費を軽減する補足給付の対象を縮小する計画で、来年の通常国会へ介護保険法改定法案を提出するとしている。
厚労省は「一定以上所得者」は、年金収入で年間280万円以上か290万円以上という2案を示し、補足給付の対象については、固定資産税評価額で2000万円以上の不動産、金融資産で1000万円以上(単身)を持っている人は支給対象から外すことを提案している。
また、特養老人ホームへの入所は「要介護3」以上に制限する。要支援者(約150万人)の 介護予防は、保険給付を廃止し、「新たな地域包括推進事業(仮称)」に段階的に移行させていく方針を示している。サービス内容は市町村任せであり何の保証もない。サービスの切り下げで高齢者の生活が崩壊する事態になりかねない。
以上