医療・介護総合法案…患者の負担で安上がりの医療・介護に
(「全国保険医新聞」2014年3月5日号)
安倍政権は、2025年度を目標年度として、医療費・介護費の抑制を前提に、医療・介護サービスの供給元を再編する計画である。今国会に、医療法と介護保険法改定を一本化した「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する」法案(以下、医療・介護総合法案)を提出した。
法案には、患者・利用者に医療・介護サービスの利用を制限し、負担増を強いる内容が盛り込まれた。国民の責務条項も新設され、「医療提供施設の機能に応じ」、「選択を適切に行い」、「医療を適切に受けるよう努めなければならない」ことを義務付けている。
昨年成立した「社会保障プログラム」法を根拠に、医療法改定は今年10月から、介護保険法改定は来年4月から順次施行する方針だ。本来なら個別の法案として審議すべき改定案を一括した法案は極めて異例であり、国会の十分な審議を確保すべきである。
「地域医療構想」を策定…医療機関にペナルティも
医療提供体制再編への新たな方策が、病床数を始めとした量的コントロール、医療機能ごとのコントロールで、地域の「医療需要」に応じた「医療の必要量」=医療提供体制とのマッチングを図るというものである。
各都道府県が2025年の「医療需要」を推計し、それに応じた医療機能ごとの「医療の必要量」を「地域医療構想」として策定の上、2018年度から開始する第3期医療計画に盛り込むとしている。
「医療需要」の項目には、入院・外来・疾患別の患者数が示され、医療(レセプト、特定健診等)や介護のデータを活用する計画である。
経済的理由による受診の手控えが増えている中、こうした人の「医療需要」が反映されるのか疑問だ。受診抑制や有訴率を考慮して潜在的な「医療需要」も加味した形での「医療需要」を把握すべきである。
「医療の必要量」については、二次医療圏ごとの医療機能別の病床数、市町村単位の在宅医療などが対象で、医療提供体制の「必要量」を実現するために、各都道府県に新設する「基金」(来年度予算案に904億円を計上したが、既存事業の看板の掛け替えが3分の1近い280億円ある)を活用するほか、医療機関と保険者等が参加する「協議の場」を設置し、「協議の場」への参加と、合意事項に協力することを医療機関に義務付けている。合意事項に従わない場合には、当該医療機関に対するペナルティを科す方針である。
「協議の場」で、まず取り組まれるのが、二次医療圏ごとに各病院の役割分担を決めて病床を再編することだ。医療・介護確保法案には、「病床機能報告制度」の創設が盛り込まれている。一般病床がある病院(有床診療所も対象)が、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4つの区分から「自主的に選択」して都道府県に報告する制度を導入する。病床を4段階に分け、そのデータを集め、二次医療圏ごとの「医療の必要量」に応じた、4段階の病床数に「収れん」させようとしている。いわば川上≠ノ位置付けられる急性期病床へ特化し、川下≠フ医療機関で、退院患者の受け入れや在宅医療、訪問看護を行うという構図だ。医療資源の分布、人口密度、地勢などの諸条件は千差万別である。病床機能を4区分に当てはめようとすると地域の実情に合わなくなることが懸念される。
医療から追い出される…平均在院日数短縮で
厚労省の2025年モデル≠ナは、病床全体で202万床が必要になると推計しているが、43万床を削減し、159万床に抑制するシナリオである。特に急性期の病床のうち、看護配置の手厚い7対1病床(36万床)は、「高度急性期」として18万床へ絞り込み、2014〜15年度の2年間で約9万床減らす方針を打ち出している。
1病床当たりの稼働率を高め、平均在院日数を短縮することで、入院患者を地域に押し出していく計画だ。しかし、厚労省の統計によれば、DPC対象病院では平均在院日数が短縮すると「治癒」割合も低下している。2004年度と2012年度の平均在院日数と「治癒」割合を比較すると、04年度の「15・01日、8・72%」から、12年度は「13・43日、4・3%」となっている。平均在院日数の短縮によって、「治癒」割合が半減している。
平均在院日数を短縮するために必要な入院が制限され、急性期の病床の削減により、それ以外の病床に重度の患者が移れば、それらの病床や在宅、外来において重度患者が増加する。低所得層の高齢者を中心に多数の行き場のない入院難民∞看取り難民≠ェ増大するおそれがある。
市町村に責任押し付け…地域包括ケア
提供体制再編へのもう一つの方策が地域包括ケアで、医療・介護の提供体制をネットワークで結んで地域単位のシステムを構築していく。これは市町村に責任を持たせる計画である。
厚労省の2025年モデル≠ナは、▽病院で8割が死亡することを減らし、在宅での看取りを4割へ増やす▽介護施設入所者を161万人から131万人に30万人減らし、在宅に押し出す▽外来患者数は5%削減し、要介護認定者数は3%削減する―などの数値目標が示されている。
社会保障プログラム法は、「地域包括ケアシステム」とは「地域の実情に応じて高齢者が自立した生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい、自立した日常生活支援が包括的に確保される体制」であるとしている。厚労省は、「地域包括ケアの要をつくる」ことを目的に、今次診療報酬改定で「主治医機能」を強化する点数(地域包括診療料、地域包括診療加算)を新設。「在宅医療を支えていく看護師の養成」を目的に、看護師に医行為を委ねる研修制度(医療・介護総合法案)を導入する。しかし、「包括的に確保される体制」を作るのは当事者の責任に委ねられており、「地域の実情に応じて」ということは、当事者である市町村に事業を丸投げすることである。
医療・介護総合法案には、介護予防給付のうち要支援者の約6割が利用している訪問介護(ホームヘルプ)と通所介護(デイサービス)を市町村が行う事業へ移すことが盛り込まれている。提供するサービス内容や価格は市町村の裁量で決めるとされており、市町村間の格差が生まれることが懸念される。
訪問看護の看護師は看護師全体の2%、約3万人しかいないのが現状だ。介護職員についても、厚労省の試算では毎年約7万人確保する必要があるという。国の責任で、人材の育成・確保と公費の大幅投入が必要である。
地域のネットワーク作り必要
今日、「治す医療」だけでなく、「生活を支える医療」の重要性が増している。一人ひとりの心身・生活の状態に即した多様な受け皿づくりは、日常生活の圏内で途切れない∴纓テ・介護サービスの厚い体制があって初めて成り立つ。住まいの状況を改善することも大事である。健康なまちづくり≠フ実現に向けた、地域のネットワークづくりが求められている。
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