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シリーズ 患者申出療養@


保険給付外し、給付抑制…2015年通常国会に関連法案

(「全国保険医新聞」2014年9月15日号)


 安倍首相が6月10日に新設を表明した患者申出療養(仮称)は、2015年の通常国会に関連法案を提出し16年実施を目指すとされている。今秋には中医協の案が取りまとめられる予定だ。患者申出療養による保険外併用療養費制度の拡大と一体で、保険給付外し、給付抑制を進めることが懸念される。本号からシリーズで問題点を解説する。

保険外併用療養の新たな仕組み
 患者申出療養は、保険外併用療養費制度の「評価療養」「選定療養」と並ぶ、3つ目の新しい仕組みに位置づけられる。国内未承認・適応外の医薬品、医療機器の使用などを迅速に保険外併用療養費制度として使用できるようにするとされる。
 実施できる医療機関は臨床研究中核病院のほか、基準を満たせば、この他の病院や診療所でも申請を行うことができる。これまで平均6、7カ月かけていた審査期間を原則2週間または6週間に大幅に短縮する。
 患者からの申し出が起点で、原則として申請対象に制限は設けないところまでは規制改革会議が提案した「選択療養」と同様だ。その先の仕組みは保険収載に向け治験等に進むための判断ができるよう実施計画を策定し、国が安全性・有効性などを確認する点が異なる。

制度の概要と問題点/安全性、有効性に懸念 
 患者申出療養は、「前例がない診療」と「前例がある診療」に区分される。 「前例がない診療」については、患者から臨床研究中核病院に申し出る。臨床研究中核病院が国へ申請し、国は安全性や有効性、実施計画の内容を原則6週間で判断する。国の審査は「専門家の合議で確認する」とされており、必ずしも顔を合わせた会議ではない可能性が高い。
 「前例がある診療」は、患者からの申し出を受けた地域の医療機関が、前例を取り扱った臨床研究中核病院へ申請し、同病院が原則2週間で審査する。
 日本難病疾病団体協議会は、審査期間をいきなり大幅に短縮することで安全性、有効性が担保できるか懸念はぬぐえないとして、患者申出療養の新設に反対の立場を表明している。想定外の薬害や医療事故が起きる危険性が高まることが危惧されるが、厚労省は、民間保険に入ってもらうことなども含め検討すると述べている(6月16日参議院厚生労働委員会)。

保険収載への道筋、あいまい
 臨床研究中核病院は、治験等に進むための判断ができるよう、患者から申し出のあった医薬品や医療技術の実施計画を作成するが、現在の「評価療養」の先進医療B(国内未承認・適応外の医薬品、医療機器の使用を伴う医療技術など)と同程度とする模様だ。
 保険収載が前提とされる「評価療養」と異なり、治験に進むための判断材料とするとのあいまいな位置づけとなっている。 「保険収載のための長期的な評価が必要なものも対象とする」としており、保険外に留め置かれる可能性も高い。保険収載を前提とするのであれば、「評価療養」の仕組みの中で対応することができるのではないか。

患者の経済力により医療に格差
 患者申出療養は「患者の治療の選択肢を拡大する」とされている。
 しかし、国内未承認のがん治療薬41種類のうち半数以上の24種類の薬代は円換算で月に100万円を超える(国立がん研究センター調査)。経済的に負担可能な人は限られ、患者の経済力によって受けられる医療に格差が生じる。

具体的な制度案中医協で検討
 患者の申し出が起点であるが、臨床研究中核病院が先進医療Bと同程度の実施計画を作成することが条件となれば、診療所で実施できるようなものは少ないことが想定される。また、安倍首相の提案では、「困難な病気と闘う患者」とされており、対象患者が実質的に限定される可能性もある。
 具体的な制度案は今後中医協で検討が行われる。厚労省や中医協委員への働き掛けが必要である。

以上