4章 混合診療-医療の構造改革-










 自己負担が増加することにより、受診が抑制されたり、民間保険の加入が増えたりしています。さらに保険外診療が広がれば、これに拍車がかかることになります。
 混合診療の一番の問題は、お金のある無し、つまり経済力によって受けられる医療に差が出ることです。
 混合診療を推進する人たちは、保険で認められていない新しい医療技術や薬の例を持ち出し「混合診療が解禁されれば、これらが使えるようになり、患者の選択肢が広がる」などとさかんに宣伝していますが、これは全くの逆さまの議論です。安全で効率のある治療法は、保険に適用すれば良いことです。混合診療は、保険給付と自由診療を組み合わせるものです。たとえ診療の基礎部分が保険給付されたとしても、保険外である自由診療の医療技術や薬の価格は一切規制されないため、法外な値段がつくことさえも予想されます。
 混合診療を推進する人たちの本当の狙いは、決して患者さんの選択肢を広げることではなく、本来公的医療保険で扱うべき医療の範囲を縮小し、その分を自由診療に移し変えようというものです。こうなると、お金のない人は、はじめからこの上乗せ部分の医療をあきらめざるをえません。経済力のある人や、民間保険で備えようという人でも、それがどの程度の経済力か、どんな保険に入っているかによって、受けられる医療に格差がつきます。
 しかも、保険給付の範囲がどんどん縮小され、公的保険では必要な医療まで受けられなくなる危険性があります。これでは、患者さんの選択肢を広げるどころか、逆に「今よりも選択の幅が狭まる」ことになります。













 健保本人3割負担、高齢者への負担増など相次ぐ医療改悪で、ただでさえ日本の患者負担は先進国一高くなっており受診抑制が広がっています。「企業健診で異常が指摘された人の割合と受診率」の調査をみると、健診の「異常」が過去最高の伸びを示す一方、受診率は96年比で約6ポイントも下がっています。01〜03年度に厚労省の政策科学推進研究事業の補助金を受けた研究によると、健保2割への負担増によって、高血圧症患者、糖尿病患者ともに受診率の低下が有意にみられたほか、その後の負担増でも、糖尿病患者では負担増の度に有意な受診行動の抑制がみられたとしています。また、健保3割負担では、高血圧症、糖尿病それぞれ合併症の有無によりグループ分けして分析。糖尿病で合併症がないグループで、有意な受診の減少があったとしています。同報告書では、「自覚症状の乏しい慢性疾患に関して、自己負担を上げることは勤労者の健康を損ない、社会のコストが増大してゆく可能性がある」と指摘しています。
 また、同研究では、健保3割負担実施前に健保本人を対象に意識調査を実施。この2疾患で受診する場合の月当たりの自己負担限度額を尋ねたところ、60%強が5千円までとしました。糖尿病の医療費は高血圧症より高い傾向にあり、「特に軽症糖尿病に対する診療費を低くし、受診を継続し易くする保険医療政策を推進する必要がある」と指摘しています。(「医療費の自己負担増による高血圧症患者と糖尿病患者の受診行動の変化」〔政策科学推進研究事業01〜03年度総合研究報告書〕)大企業の収益は98年から03年にかけて9兆円拡大し、家計収入は19兆円減少しています。企業の法人税負担と社会保険料負担を国民所得比で比べてみると、90年から2000年の10年で負担が減少してたのは日本だけです。この上、患者さんに保険外負担を求める混合診療が解禁されれば、このような状況が一層悪化することは明らかです。
 患者さんの選択肢を広げる方策は、保険で必要かつ十分な医療を受けられるようにすること、そのための負担を出来る限り軽減し、安心して受診できるようにすることに尽きます。
 混合診療解禁は、「お金のない人には医療の選択肢がなくなる」ことであり、経済力によって受けられる医療の上限が決められる、まさに「命の沙汰は金次第」という状況を生み出すことにほかなりません。