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共通番号制の問題点B
番号制度で社会保障は充実しない



弁護士 坂本 団(さかもと まどか)
(「全国保険医新聞」2011年9月25日号より転載)


  番号制度の導入で、社会保障が充実するかのように言われることがある。しかし、「番号」を付けただけで社会保障が充実するわけがなく、「社会保障・税番号大綱」(6月30日政府公表)もそのようなことは言っていない。
  「大綱」は、「社会保障給付を適切に受ける権利を守る」あるいは「低所得で資産も乏しい等、真に手を差し伸べるべき者に対して、給付を充実させるなど、社会保障をよりきめ細やかに、かつ、的確に行う」という言い方をしている。

  「大綱」は前提として、今の社会保障に関しては、「制度上利用できるサービスであってもそれを知らないためにみすみす受給の機会を逃してしまう」あるいは「国民それぞれの実情にあったサービスを提供するための前提としての正確な本人特定ができず、したがって、真に手を差し伸べるべき者に対するセーフティネットの提供が万全ではな(い)」という問題があるとして、番号制度でこれを解決すると言っているのである。
  しかし、そういう問題だろうか。
  例えば生活保護の分野では、収入のない男性が、役所の生活保護の窓口に足を運んだのに申請を受け付けてもらえず、「おにぎりが食べたい」と言い残して餓死した事件が、数年前に北九州であった。この男性に「番号」がついていれば生活保護は受け付けてもらえたというのだろうか。この男性が生活保護を受給できなかったのは、制度のことを知らなかったからでもないし、行政が本人特定できなかったからでもない。生活保護の予算があまりに乏しいために、多くの自治体で、生活保護の窓口で申請をできるだけ受理しないなどの「水際作戦」が実施されている結果なのである。

  番号制度を採用すれば、生活保護水準以下の所得しかない世帯を把握することも容易になるが、該当者に対して、積極的に生活保護受給の呼び掛けをするつもりがあるのであろうか。その結果、生活保護受給者が数倍にも増加する可能性があるが、そのための財源はどこに求めるというのであろうか。
  番号制度によって、社会保障給付を受ける権利を守る、というのであれば、その結果として社会保障のための支出が増加するのが自然であり、社会保障予算の増額とセットでなければならないはずである。しかオ政府はそのような議論はまったくしていない。予算の増額を伴わないとすれば、番号制度は、よりきめ細やかに社会保障給付を削減するための道具になってしまうであろう。

                                         (つづく)