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【政策解説】医療保険制度改革2
都道府県を「推進役」に─国保改革で医療費抑制狙う

(全国保険医新聞2015年2月5日号より)

 政府は、市町村国保の財政運営を都道府県へ移行し、医療提供体制と国保制度の双方の責任主体を都道府県に一体的に担わせることで、医療費抑制策の実効性を高める計画である。病床削減など提供体制の再編策である医療・介護総合法に続いて、国保の都道府県単位化など医療保険制度改革関連法案の提出が準備されている。

保険料がさらに高く

 政府の医療保険制度改革骨子では、市町村国保の財政運営を都道府県単位で行う体制を作り、都道府県は財政運営の責任主体(保険者)を担うとされている。
 加入者の資格管理、保険給付、保険料率の決定、賦課・徴収、保健事業などの国保業務はこれまで通り市町村が担当する。
 都道府県は「統一的な国保の運営方針」を設定し、@市町村ごとの「分賦金」の決定、A市町村ごとの標準保険料率の設定、B市町村が行った保険給付の点検、事後調整、C市町村が行う事務の平準化、効率化、広域化の促進などを盛り込む。
 大きな変更点は、分賦金方式が導入される点である。都道府県が国保医療費の推計を行い、その金額に見合う「保険料収納必要額」を算出し、各市町村から都道府県に納める金額(分賦金)を決定するという流れである。
 市町村は、都道府県から示された「標準保険料率」と収納率目標を参考にして、分賦金を賄うために必要となる保険料総額を計算し、保険料率を定め、加入者に保険料を賦課・徴収することになる(図1)。

図1 国保の財政運営の仕組み

 2012年度の全国の保険料収納率は約90%なので、市町村は分賦金より多い保険料総額を設定し、加入者の保険料を算出することが考えられる。現在でも高い保険料が、さらに高くなることは明らかだ。
 分賦金の決定には、市町村ごとの医療費実績などが反映される。医療費支出の高低によって割り当てられる分賦金が上下し、保険料総額にも連動するという仕組みを導入することで、医療費抑制の実効性を高めることがねらいである。

「責任もてない」と懸念の声も

政府の支援は「国費のつけかえ」

 政府は、国保の保険者を都道府県へ移すことに伴って、市町村が一般会計から繰り入れている約3500億円を解消するとして、2017年度までに3400億円の公費を追加投入する方針だ。
 財源は消費税から1700億円を充てるほか、高齢者医療に対する健保組合と共済組合の「支援金」負担を増やすことで浮いた国費2400億円から、2017年度時点で約1700億円を国保に回す計画だ。厚労省の審議会では、「国費のつけかえでしかない」として反対意見が相次いだ。

大規模自治体ほど国保会計厳しい

保険者の規模を大きくしても、国保の年間収支との間には相関関係はなく、政令市・中核市、県庁所在地などの大規模な地方自治体ほど国保会計は厳しいのが実態だ。全国最大の国保の保険者である横浜市の収支決算はマイナス204億円(2010年度)。仮に都道府県が保険者になっても、37府県は横浜市国保より規模は小さい。
住民や国保の加入者にとっては、身近で顔が見えて、払える保険料で、安心して使える国保であることが重要だ。財政問題を理由に広域化するならば、全国規模で財政を一つにした方がより改善が図られるのではないか。

住民の医療を守る自治体に

政府は、@「地域医療構想」による病床削減など提供体制の再編、A国保の都道府県単位化、B医療費適正化計画において都道府県単位で医療費水準などに関する目標を設定するという3つの柱で、都道府県に権限を与えて医療費抑制策を強化する計画である(図2)。

図2 都道府県に権限を与え医療費抑制へ

これに対して厚労省の審議会では、「都道府県は結果責任を負わされても責任は持てない」、「都道府県を拘束する懸念がある」などの意見が出されている。地方自治体を医療費抑制の推進役にさせないことが大事である。

以上