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【政策解説】医療需要つかめるか―地域医療構想に懸念

(全国保険医新聞2015年2月25日号より)

 

 都道府県では4月から、2025年の医療提供体制を見据えて地域医療構想(構想)を策定する。医療需要の将来推計などをもとに、2次医療圏ごとに医療機関の病床機能を高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つに転換、整理する。厚労省で検討中の構想策定のガイドライン案から、構想の問題点が見えてきた。

不正確、過少な見積もり

 構想策定の要は、医療需要の推計だ。DPC病床などでの投薬、検査、処置などの医療資源投入量をもとに、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの病床機能ごとの患者数を推計する。
 検討会では、「入院基本料相当分を除くと、実際の人員の傾斜配置などが反映されず、高額薬剤に偏った分類となる」、「療養病床にも急性期患者は一定数いる」など、急性期病床の必要量が不正確、過少に見積もられかねないとの懸念も出ている。

病床削減で患者が行き場失う

 慢性期の需要については、在宅医療の推進で入院患者数が一定低下するとして、現在、療養病床の入院受療率(*)が高い地域には、全国の最小から中央値の間を目標に低下させるよう求める。
 受療率の格差は、都道府県間で最大5倍、2次医療圏間で最大20倍以上。検討会の資料では、入院受療率が高い背景に高齢単身世帯が多い点が示されている。また、がんの化学療法など、都市部なら通院できるが、交通手段の未整備や豪雪などにより、入院せざるを得ないケースもある。
 地域ごとに事情が異なる中、強引に病床削減を進めれば、行き場をなくした患者や、「老老介護」や「認認介護」の増加につながる。
 全国知事会も「地方の実情に応じた現実的な措置や地域性を踏まえた推計を補正する仕組み」を強く求めている。
(*調査日における人工10万人に対する推計患者数)

知事に指示、要請の権限

 医療提供体制の再編に向けて、病床を有する医療機関は毎年10月、自院の病床機能等の分布とその将来の意向を報告する。このデータと推計された医療需要をすり合わせ、2025年のあるべき医療提供体制に向けて、病床の機能転換、削減を進めていく(図)。

図 地域医療構想の策定プロセス
図 地域医療構想の策定プロセス


構想の実現は、医療機関の自主的な取り組みと相互の協議を基本に進める形である。しかし、協議が調わない場合などには、知事は医療審議会の意見を聞いて、医療機関に不足している病床提供を指示、要請できるほか、正当な理由なく稼働していない病床の削減を命令、要請できる。病床が非稼働の事情として、「患者需要はあるが医師、看護師不足で病床が稼働できない」、「医学部地域枠の卒業生を待っての休眠状態」なども指摘されており、各都道府県の対応が注視される。医療機関が知事の命令、指示、要請に従わない場合、医療機関名の公表、補助金の不交付、管理者の変更命令などが可能とされる。

医療充実の政策に転換を

 国は、医療費の低い県を目標に設定して、構想を運用するよう求める構えだ。今後、構想を地域の医療を充実させるものに転換させていく取り組みが重要になってくる。また、構想策定を手掛かりに、医療・社会保障の充実を、4月の統一地方選挙の争点に押し上げることも必要だ。

以上