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【政策解説】TPPで薬価高止まり―保団連が意見提出

(全国保険医新聞2015年6月5日号より)

 

 TPP交渉は、米国議会でTPA(貿易促進権限)法案の審議が開始されるなど緊迫した動きを見せている。こうしたなか日本政府は5月15日に都内で一般市民を対象としたTPP協定交渉に関する説明会を開催した。政府は、交渉分野の中で一番難航しているのは知的財産分野であり、中でも最も難航しているものは医薬品に関する新薬のデータ保護期間であり、「日米対それ以外の国」との対立という構図になっていると説明した。保団連はTPP協定によって、日本の薬価が高止まりすることが強く懸念されることを指摘し、一貫して反対してきた。保団連が政府募集のパブコメに対し、5月20日に提出した意見の概要を紹介する。

知的財産権データ保護で対立

 特許期間とは別に臨床試験データの保護期間が設けられた場合、ジェネリック医薬品メーカーの参入に対する新たな障壁となることが懸念される。
 米国では、新薬に対して5年間、バイオ医薬品は12年のデータ保護期間が設けられており、臨床試験データの保護期間を12年とするよう提案していると報じられている(内部発サイト「ウィキリークス」が2014年10月16日公開)。
 日本では、特許法においてデータ保護規定の条項は設けられておらず、薬事法で新薬の再審査期間中(8年)は、ジェネリック医薬品の承認に新薬と同等の資料が必要と定められている。再審査期間が事実上のデータ保護期間として機能している(図参照)。

図 新薬の臨床試験データ保護期間を設ける
図 新薬の臨床試験データ保護期間を設ける

※臨床試験データの保護とは、製薬会社が医薬品当局に提出する臨床試験データ等を一定期間保護するもの。特許権とは別の独立した制度。

「人命が左右される」

 ジェネリック医薬品メーカーが先発医薬品の臨床試験データを使えなくなれば、新しくデータを取る費用がかかり、ジェネリック医薬品の価格が先発医薬品とほぼ変わらなくなってしまう。
 世界で活躍している「国境なき医師団」は、途上国で使われるエイズ治療薬の8割以上がジェネリックだと指摘し、「知的財産権の保護」によって、医薬品価格を高止まりさせる米国の「誤ったビジネスモデル」で、「人命が左右される事態になる」と批判している。

制度的事項―薬価算定が米国流に

 制度的事項(法律的事項)の分野において交渉されている医薬品関連のルールでは、医薬品の承認制度や、保険給付する価格制度などが課題とされている。
 日本の医療保険制度に試行導入された「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」は、新薬の特許が切れて、ジェネリック医薬品が発売されるまでの間は、発売時の薬価が維持されるものであり、大手製薬企業には大きなメリットがある。TPP協定交渉の窓口である米国通商代表部は、日本政府に対してこのシステムの恒久化を要求している(「外国貿易障壁報告書」)。恒久化が実現すれば薬価を高止まりさせることになる。保団連と厚生労働省がそれぞれ実施した薬価の国際比較調査結果では、日本での売上高の上位100品目中77品目(厚労省は67品目)の患者購入価格(2010年)の平均値を、米国、英国、フランス、ドイツの4カ国と比較したところ、双方の調査とも最も価格が低かった英国を100とした場合の各国の相対価格は、英国の次にフランスが高く、米国が最も高い点で一致し、米国は日本の1.3〜1.7倍になることが示されている。

薬価上昇で保険―財政も悪化

 TPP協定によって、薬価の算定ルールに米国流のルールが持ち込まれ、新薬の価格が米国内での水準に近づいていくならば、さらに薬価は上がり、患者の自己負担が増えるだけでなく、公的医療保険の財政は一層悪化することになる。

以上