【政策解説】さらなる医療費抑制策3
―政府の医療改革を考える―
(全国保険医新聞2015年6月15日号より)
政府の経済財政諮問会議では、経済再生と財政健全化の計画策定に向けた議論が進む。また、財政制度等審議会は「建議」をまとめ、医療・介護の「保険給付額を抑制」して「公的保険から外れた市場を産業として伸ばしていく」よう主張。社会保障費の自然増を5000億円に抑えるよう求めた。毎年3000億円〜5000億円規模の削減となる。社会保障削減と「産業化」の一体改革を進める『安倍医療改革』を検証した。
患者負担増と診療報酬改定で給付の抑制
医療保険給付を抑制する具体策として、第一に、地域医療構想を前倒しすることと、診療報酬改定とリンクさせる方策が示された。高度急性期病床や療養病床の削減を前倒しで実現するため、診療報酬体系を2016年度から「大胆に見直す」ことや、医療費抑制が進まない「地域における診療報酬の引き下げも活用する」とした。
外来では「標準外来医療費」を設定し、医療費適正化計画に反映する。受診や投薬を少なくする仕組みを作るとした。
第二に、患者負担増では、75歳以上の患者負担について原則2割負担に引き上げることや、外来受診時の追加負担や保険免責の「仕組みを工夫」するとした。財政審の建議でも、「受診時定額負担・保険免責制」の導入を求め、「医療機関の適切な役割分担」や「かかりつけ医の更なる推進・包括払いへの移行といった観点から制度設計することも考えられる」と主張した。複数の疾患を同時に抱えている高齢者には大きな負担になる。受診抑制と患者の重症化をさらに深刻化させるおそれがある。
さらに、「後発品がある先発品の保険給付額は、後発品の価格まで」とする「参照価格制度」の導入や、湿布、目薬などの市販類似薬は「公的保険から完全に除外」することが示された。規制改革会議でも湿布薬を対象に「参照価格制度」の適用と保険外しが検討されている。
第三に、診療報酬本体について、「過年度分のデフレ分」についての「段階的なマイナス調整」を実施するとしている。過去に物価が下がった分を、16年度改定から戻してもらうということであり、これまでの診療報酬改定の経緯をまったく無視した暴論である。
第四に、保険者の判断で、受診回数などに応じて「保険料の傾斜設定が可能となる仕組み」を設けるとしている。保険料の差を設け、受診や投薬が少ない加入者に現金給付を行うことは、保険料は所得に応じて、保険給付は平等にするという国民皆保険の原則を崩し、民間保険化につながることが危惧される。
医療法人に営利性業務を解禁
「社会保障サービスの産業化」の具体策では、「医療機関が民間事業者と連携」するため、「一般医療法人に特定の営利性業務を本務として解禁」する方策が示された。医療機関は剰余金の配当が禁止され、非営利原則が徹底されているが、この原則が崩されて、外資を含む営利企業が参入してくる危険性がある。
さらに「産業化促進」の例として、「糖尿病、高圧性疾患、ロコモティブシンドローム、誤嚥性肺炎や胃ろう」を対象に、予防・重症化防止事業を実施した場合、公的保険外サービスの市場創出効果は4兆円規模、保険給付費については1.2兆円削減になると見込んでいる。
『安倍医療改革』は、こうした数字まで示して、医療費抑制と社会保障の「産業化」に突き進もうとしている。
以上