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諮問会議で提言、「デフレ分を診療報酬マイナスに」
―医療崩壊の経験無視した暴挙

(全国保険医新聞2015年6月25日号より)

 

 6月10日に開かれた経済財政諮問会議では、民間議員より、診療報酬本体について「過年度分のデフレ分」について「段階的なマイナス調整」を実施すべきとの提言が出されている。過去に物価が下がった分は、16年度以降の診療報酬改定より戻してもらうというものだ。診療報酬の「高止まり」が指摘されたが、医療崩壊の阻止という過去の経験を省みない暴挙だ。

診療報酬は医療の質に直結

 そもそも、診療報酬は、医業経営の原資であるとともに、患者が受ける医療の「質、量、範囲」を保障するものである。保障すべき医療水準の議論を抜きに財源規模を決めるのは本末転倒である。国・自治体は「国民に対し良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制が確保されるよう努めなければならない」(医療法第1条)と定められるように、不偏的・安定的・継続的に医療が確保される観点から、医療財源は議論されるべきである。
 厚労省も述べるように、これまでも診療報酬の改定率は「物価・賃金の動向、医療機関の収支状況、対応が必要な医療課題(地域包括ケア等)など」を勘案して決定されてきた。物価・賃金が下がっているから、改定率も下げるというのは改定の経緯を無視した乱暴な議論である。

患者負担軽減こそ

 提言では、08年=100として、14年は、食糧・エネルギーを除く消費者物価指数98.7、一般労働者の時給賃金98.7となる一方、診療報酬(本体)はプラス改定が続き、14年は103..6、15年は103.8となっており、「現状では5%程度の高止まり」にあるとして、改革には「国民負担軽減の視点が重要」としている。
 しかし、国民負担軽減を言うならば、先進国でも高い原則3割の窓口負担等を軽減し、国民生活の将来不安を払拭し、購買力を引き上げることこそが求められる。
 提言は08年以降の技術料本体の引き上げを問題にするが、プラス改定は、政権交代にも象徴されるように、医療崩壊を阻止し、医療の再生・充実を求めた国民世論が反映された結果でもある。消費税8%の実施も「社会保障のため」とする以上、診療報酬を引き下げることは、医療充実を願う国民への公約違反といわざるをえない。

デフレ脱却、地方創生へ

 00年以降、医療機関の費用構造は、医薬品・医療材料の比率が上昇する一方、人件費の比率は低下している(日本医師会記者会見資料4月30日より)。わずかな技術料本体の引き上げでは、労働環境の底上げにまで及ばない現状にある。
”デフレ分は診療報酬も下げる”となれば、医療サービスの基盤が縮小し、デフレがさらに進行・拡大する事態が懸念される。
 そもそも、デフレだから診療報酬を下げるという考え方自体、物価・経済政策の失敗を医療にしわ寄せし、失政の責任を曖昧にしようとするものではないか。
 厚生労働白書(平成22年版)も指摘するように、社会保障分野の「総波及効果」は、公共事業より高く、全産業平均を上回る。「雇用誘発効果」も主要産業より高い。医療・社会保障の充実は地方経済を活性化させ、政府が掲げる「地方創生」にも資するものだ。

以上