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【政策解説】財源はつくれる
―医療への公的支出を増やす3つの提案―

(全国保険医新聞2015年9月15日号より)

 

 政府は「財政危機」を口実に、診療報酬を含む医療、社会保障への支出を大幅に切り捨てる方針だ。しかし、貧困と格差が拡大している下での負担増と給付の削減、医療費の抑制は、患者・国民のいのちと健康にかかわる。保団連は「医療再建で国民は幸せに、経済も元気に―医療への公的支出を増やす3つの提案」(2009年7月発表)で、大企業に社会的責任を果たさせ、大資産家に公平な税負担を求めることで、消費税に頼らずに社会保障の安定財源を得ることができるとしている。「提案」の要旨を紹介した(数値は現時点のものに置き換えた)。

はじめに

 政府は、08年末に閣議決定した「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた『中期プログラム』」以後、社会保障の安定財源として消費税を充てることを基本方針としている。
 しかし社会保障には所得の再分配により不公正を正す機能が必要であり、逆進性の強い消費税は、社会保障財源としてふさわしくない。また、消費税は大企業の負担が大幅に軽減される税制のため、財界は消費税を引き上げて法人実効税率を引き下げるように求めている。15年度までの27年間における消費税収は304兆円で、法人3税(法人税、法人事業税、法人地方税)の減収分263兆円を補った勘定になっている。
 保団連は、消費税増税に頼らない安定財源として、主要国と比べて法人税負担・社会保険料事業主負担が低い大企業に社会的責任を果たさせ、大資産家には公平な税負担を求める(図1参照)。すなわち、応能負担原則に基づき法人税、所得税、社会保険料を主財源とする。公共事業費や防衛費、特別会計をはじめとした国の歳入・歳出を抜本的に見直すことと併せれば、社会保障の安定財源を確保することは十分可能である。

図1 社会保障財源の対GDP比の国際比較

 社会保障は国民生活を安定させるだけでなく、経済波及効果や雇用誘発効果が高く、内需を拡大し、実体経済とりわけ地域経済への貢献度が大きい(図2参照)。税収の増収にもつながる。戦後最大の経済危機だからこそ、社会保障拡充政策に転換し、医療・介護をはじめとした社会保障への公的支出を増やすことが必要である。

図2 社会保障分野の経済波及効果・雇用誘発効果1 図2 社会保障分野の経済波及効果・雇用誘発効果

【基本的な考え方】大企業の税と保険料負担を増やして財源を創出

 日本の社会保障給付費の対GDP比は23.1%(OECD09年)。これをドイツ、フランス並みの30%に引き上げれば、社会保障全体で32兆円増、医療でも10兆円の給付費増となる。その財源として、大企業の税と保険料負担を増やす。
 企業の法人税、社会保険料の負担の合計額(GDP比10年)で比べると、日本8.3%に対して、ドイツ8.2%、フランス13.4%、スウェーデン12.0%。日本の企業負担は決して高くない。

【第1の提案】企業負担を増やして保険料収入を増やす

■被用者保険加入者を増やし、賃金を引き上げる

 正規雇用労働者を増やし、賃金を引き上げることで、被用者保険加入者と保険料算定報酬を増やすことができる。

■被用者保険の保険料率を10%に引き上げる

 保険料率が10%未満の健保組合は79.4%(15年度)を占めている。事業主負担を増やして、少なくとも10%(協会けんぽの保険料率)とすることを提案する。中小企業には事業所規模による調整や公費負担を行う。

■保険料は給与収入や所得に応じた負担に

 保険料を給与収入や所得に応じた累進制とする。被用者保険は保険料算定の報酬上限を撤廃し、国民健康保険は応能割を7割に高めた上で、国保料算定の報酬上限(賦課基準)を引き上げる。併せて一定以下所得者の保険料軽減と免除を計る。
 以上を通じて、少なくとも国民医療費の事業主負担を20.3%(12年度)から25.1%(1992年度)の水準まで戻す。

【第2の提案】法人税課税を先進7カ国並みに

 法人所得税課税の税率は、消費税が導入された89年に42%から40%に引き下げられた。以後30%(99年)、25.5%(12年)となり、15年には23.9%となった。さらに大企業は研究開発減税などさまざまな政策減税を受けており、法人事業税を含めても実効税率は30.7%(経常利益上位100社)にしかならず、先進7カ国では低い水準である。課税ベースを拡大し、少なくとも消費税導入前の法人税率42%、法人事業税率11%に戻すべきである。
 資本金1億円以上の利益計上法人の法人税率を42%に戻すだけでも、約6兆4071億円の財源創出が可能になる。

【第3の提案】所得に応じた所得税課税に

 所得税の最高税率は消費税導入の89年に、60%から50%に引き下げられた。07年以降は40%、15年以降は45%となった。所得税の最高税率は、少なくとも消費税導入前の60%に戻し、所得の再配分機能を高めるべきである。
 また、株式配当に係る分離課税を廃止し、総合所得課税にすること、資産所得課税の税率を引き上げることを提案する。

歪んでいるのは歳入の構造

  安倍内閣の「骨太方針2015」は、「経済・財政一体改革」を掲げ、この間の「社会保障・税一体改革」以上の医療制度改悪を推進しようとしている。
政府が至上命題としているのが、基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の黒字化だ。「骨太方針」では、財政健全化目標として、2020年までに黒字化実現を掲げている。そのために社会保障をターゲットに「徹底した歳出抑制」を掲げる。財政危機の原因は、もっぱら社会保障費の増大というのだ。
しかし、財政危機の原因は、高度成長が終えんしても無駄な公共事業を続けたことに加え、とりわけ1990年代以降、大企業や富裕層を中心として法人税や所得税の減税を進めたために税収不足が続き財政赤字を拡大させたことにある。
安倍政権の「骨太方針」は、財政赤字の原因を社会保障費に押し付け、大企業・資産家優遇の歪んだ歳入構造には手をつけず、さらなる優遇を進めようとするものだ。

以上