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TPPここが問題―大筋合意を検討するA
米製薬企業の関与強化

(全国保険医新聞2015年11月5日号より)

 

 TTP交渉は10月5日、交渉参加12カ国による閣僚会合で「大筋合意」に達したが最終合意には至っていない。政府対策本部が公表した「TTP協定の概要」で明らかになった医療分野への影響について解説した。

薬事行政に介入

「法的制度的事項」分野の「透明性及び腐敗行為の防止」(26章)では、「透明性について、締結国は、TTP協定の対象となる事項に関する法令等を公表すること、意見提出のための合理的な機会を与えること」などについて「規定している」と説明している。政府が公表した「概要暫定版仮訳」では、「附属書」において、「医薬品又は医療機器の一覧への掲載、償還に関する透明性、手続の公正な実施を促進することに合意する」と具体的に説明している。
 新薬の薬事承認制度や医薬品の保険償還価格(薬価)制度などに、利害関係者である米製薬企業が関与を強化することが予想される。米国通商代表部は、新薬の特許が切れても、ジェネリック薬が発売されるまでの間は、高薬価を維持する「新薬創出加算」の恒久化を要求している。今後、薬価算定ルールに米国流のルールが持ち込まれ、新薬価格が高騰するならば、患者負担増と医療保険財政の悪化を招くことになる。

ISDS条項を導入

 「投資」では、「投資家と国との間の紛争の解決(ISDS)のための手続も規定している」と説明している。ISDS条項とは、外国企業や投資家が投資先の国や自治体が行った施策や制度改定によって、不利益を被ったと判断した場合、その制度の廃止や損害賠償を投資先の相手国に求め、国際仲裁法廷(世界銀行の投資紛争解決国際センター等)に提訴できる国際法上の枠組みである。
 公的医療保険の制度改定によって、米国の保険会社や製薬企業が不利益を被ったと判断された場合、ISDS条項を発動することで、その廃止を求めることが可能となる。発動を回避するため、萎縮効果が生じる懸念もある。
 ただし、「濫訴抑制につながる規定」が置かれ、▽申立て期間を一定期間(3年半)に制限する、▽判断内容を原則公開することなどが規定されたと説明している。さらに、「投資受入国が正当な公共目的等に基づく規制措置を採用することが妨げられないことが確認されている」と説明している。「正当な公共目的」に関しては、投資受入国がISDS条項に規制をかけることが可能になると見られる。

ネガティブ・リストを採用

 「越境サービス」では、「原則全てのサービス分野を対象とした上で、適用されない措置や分野を付属書に列挙する方式(いわゆるネガティブ・リスト方式)を採用している」と説明している。「自由化しない」と協定で明記しない限り、自動的に自由化されてしまう方式だ。営利企業の病院運営を禁止することを協定で明記することを各国が合意しない限り、日本でも自由化される可能性がある。米国、豪州、ニュージーランド、シンガポールなどは営利目的の病院運営を禁止していない。ネガティブ・リスト方式の適用範囲を情報提供すべきである。

一部に歯止め

 「越境サービス」では、いわゆる「毒素条項」の一つであるラチェット条項(逆進防止条項)が導入される。ただし、「包括的な留保をした分野にはラチェット条項は適用されない」と説明している。ラチェット条項とは、協定を結んで自由化した分野に対して、後で規制を行って条件を変更することや、再国有化することを禁じたものだが、「日本は、社会事業サービス(保健、社会保障、社会保険等)…略…について包括的な留保を行っている」と述べ、導入を制限していると説明している。
 「金融サービス」においては、「公的年金計画又は社会保障に係る法律上の制度の一部を形成する活動・サービス(公的医療保険を含む)…略…には適用されないこととなっている」と説明している。公的医療保険や公的年金、社会保障制度を貿易自由化の対象とすることには、歯止めがかけられたと見られる。
 一方で、保険サービスは貿易自由化の対象となっている。米国通商代表部は、共済に対して保険会社と同様のルールや税制を適用すべきと要求しており、共済が対象となる可能性がある。

内容の公表を

 今後、協定文書の作成と調印、各国の批准という段階がある。消費者、農業者など国民各層と連携し、国会承認の前に交渉内容を明らかにさせ公的医療保険制度への影響など問題を追及することが重要となっている。日本が批准を行わなければ、TTPは発効しない。

以上