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2016参院選 識者の視点

全国保険医新聞2016年6月5日号より)

 

 7月に迫る参院選は社会保障改革計画をはじめ、安倍政権の経済政策と国民生活、安保法施行による集団的自衛権の行使、沖縄・米軍基地問題など幅広い分野に影響を及ぼすものになる。各分野の識者に参院選で問われる課題を聞いた。

アベノミクスからの脱却を

京都大学教授 岡田知弘

◆失策は明らか

 2012年末の総選挙で、「景気」と「TPP反対」を前面に押し出し、民主党政権を批判し圧勝した自民党は、公明党と連立を組み、09年以来の政権の座についた。第二次安倍晋三内閣の打ち出した「アベノミクス」は、政権発足前後から円安・株高局面に転じたことにより、大手マスコミによって大いに賞賛されることになった。
 あれから3年半。今や、「アベノミクス」の失政は、誰の目にも明らかになっている。当初、安倍首相は、政治の「最優先課題」を〈「デフレ脱却」と日本経済の再生〉におくと表明し、大幅金融緩和、財政動員、成長戦略を「三本の矢」とする政策を積極的に展開するとした。
 だが、金融緩和による通貨供給量が政権発足時と比べ2.5倍を超えたものの、土地や株の投機がすすみ、自動車等の輸出企業の増益と大企業の空前の内部留保を生み出しただけで、実質賃金は下がり続け、「デフレ脱却」は今も果たされていない。
 財政動員は、大規模投資や都市再開発をすすめたものの、国債残高を1割も増やしてしまっただけでなく、消費税増税によって一気に消費購買力が冷え込み、不況が一段と深化している。
 成長戦略をすすめるためにTPP反対の方針を簡単に反故にし、あらゆる商品の関税を原則撤廃し、医療や福祉を含む非関税障壁の撤廃を将来にわたり約束するTPP協定を、交渉内容を秘密にして無理矢理国会で批准しようとしている。

◆「新・三本の矢」も空文句

 15年9月に、安保関連法強行採決への国民的反発に対応するために、安倍首相は「新・三本の矢」を新たに打ち出した。すなわち、@20年のGDP600兆円、A合計特殊出生率1.8回復、B介護離職ゼロの3つであるが、「旧・三本の矢」との関係が不明であるうえ、その後のGDPの低迷や「保育園落ちた」の抗議運動、介護福祉分野での休廃業、離職の増加に象徴されるように今や空文句となっている。
 その原因は、明白である。安倍政権は、多国籍企業を中心とする大企業の利益を第一にした政策を財界からの要望で続けているからである。武器輸出や原発再稼働・輸出を積極的に行い「富国強兵国家」づくりに狂奔するのも経団連からの要望による。法人税を減税しながら消費税や社会保険等の国民負担を増大させる一方、社会保障給付や予算を削減するなかで国民の購買力は減少し、生活は悪化し続けている。この間の「格差と貧困の拡大」は、他の国の追随を許さない。
 さらにパナマ文書の公表によって明らかになった大企業や富裕層の税金逃れは70兆円を超える。それに対する安倍内閣の対応は極めて鈍く、国民の感情を逆なでしている。そのなかで、安保関連法反対運動に引き続きTPP反対運動も急速に広がり、TPPの今国会での批准を阻止することになった。戦争法廃止・改憲ストップとともに、国民の生活を第一にした政策への転換を求める市民連合の運動の力により、安倍政権の暴走を止め、政策を転換させる現実的可能性が高まってきている。7月の参議院選挙は、その点で極めて重要な歴史的意味をもっているといえよう。

市民の成熟が突きつける憲法の全面実施

神戸女学院大学教授
石川康宏

―7月の参議院選挙では、戦争と平和だけでなく、保育所、奨学金、賃金なども大きな争点になりそうです。

 そうしていきたいものです。昨年の安保法成立をきっかけに、若者からベテランまで、さまざまな市民運動が手をつなぎました。その中での最初の全国的な選挙です。安倍政権は危険な政権ですが、「憲法どおりの日本」をめざす大きな力が沸き上がっていますから、これまでにない面白い選挙になるでしょう。
 戦争と平和の問題ですが、安保法の強行とそれにもとづく国づくりは、明らかに憲法に反しています。憲法が戦争を禁じているにもかかわらず、安保法は海外での米国との共同戦争や、国連平和維持活動での武力行使を可能にしました。どこかの敵国になってしまえば、日本でもテロが起きかねません。
 北朝鮮や中国があるから仕方がないと言う人がいますが、軍事力に軍事力で対抗すれば、緊張は高まる一方です。すでに北朝鮮はそうした意識をもっています。その悪循環にブレーキをかけ、話し合いで平和と安全を確保するのが外交の力です。安倍内閣には、それを行う意思と能力がありません。

―平和主義、民主主義にくわえて立憲主義が強調されます。

 それが近代政治制度の根幹ですからね。ブルジョア革命で王政を倒した市民は、新しい国づくりの宣言を発しました。アメリカ独立宣言やフランス人権宣言が有名ですが、それが近代憲法の最初です。そして、その後の政府には、憲法を実施する努力を義務づけます。これが権力は憲法にしばられるという、立憲主義の成り立ちです。
憲法があることと立憲主義という考え方は、最初から一体のものでした。安倍政権による立憲主義からの逸脱は、民主主義の充実を求める人類史の成果に対する反逆です。

―経済や社会保障の問題は。

 北海道5区の衆院補選(4月24日投票)で、野党統一候補の池田さんが大善戦しました。出口調査によると、社会保障、雇用・景気などの経済問題への関心がトップでした。つまり、この結果は、アベノミクスへの期待の低下を示すものでもあったわけです。消費税増税の再延期が取り沙汰されるのも、そのことへの危機感が政府にあるからです。
 「立憲主義の回復」をめざす運動が、平和の問題だけでなく、「個人の尊厳」に視野を広げていることはとても重要です。憲法は9条だけではありません。国が国民の健康で文化的な暮らしを守る(25条)、教育を受ける権利を守る(26条)、はたらく者の勤労条件とたたかう権利を守る(27、28条)などの点に、市民運動の注目が集まっています。これは憲法の全面実施を求める運動に進むでしょう。

―さまざまな分野で発展の可能性を開く選挙でもあるのですね。

 市民と野党の共闘という新しい運動の経験も重要です。これは選挙にとどまらず、今後のさまざまな社会運動に大きな力を発揮するでしょう。市民の政治的成熟が、かつてない速度で進んでいると見ています。

 第2次安倍政権が発足した2012年以後、物価変動の影響を考慮した勤労者の賃金(実質賃金)は年々下落。最新の16年3月の確報では、10年比で84.5と、5年連続でマイナスを記録した。一方、金融・保険を除く資本金10億円以上の企業の内部留保(利益剰余金)は、14年度で170兆円で、実質賃金の動きとは逆に増加傾向だ。
 「アベノミクス」は、大企業の利益を増やせば国民の消費が増えるとの触れ込みだが、成功しているとはいえない。

 参院選では医療、年金など社会保障への関心が高い。「毎日」の世論調査(5/30付)では、4人に1人が「医療・年金」を重視する争点に上げた。「アベノミクス」のもと国民の暮らしの見通しが立たない中で、政府の社会保障政策のどこが問題か、今後の医療・社会保障をどのように充実させていくかに関心が集まっている。
 参院選は医療者の立場から国民に広くアピールする絶好の機会だ。

以上