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2016参院選 識者の視点
立憲主義に反する安保関連法―弁護士 川上 詩朗

全国保険医新聞2016年7月5日号より)

 

 各分野の識者に、参院選で問われる課題をシリーズで聞く。最終回は、昨年9月に可決・成立した安保関連法について。今回の参院選では、安保関連法の成立をきっかけに始まった野党共闘が広がりを見せるなど、これまでにない政治状況が生じている。

 昨年9月19日に強行可決された安保関連法は,本年3月29日に施行されました。
 安保関連法は,「存立危機事態」の名の下に,歴代内閣が一貫して憲法違反としてきた集団的自衛権の行使を容認するなど,日本国憲法前文及び第9条による恒久平和主義に違反しています。また,憲法改正手続を経ることなく,閣議決定や法律により実質的に憲法を改変することは,立憲主義に反しています。
 そもそも立憲主義とは,国民が憲法を制定し,その憲法に人権保障と権力分立を定め,すべての国家機関をその憲法に従わせることにより,国家権力の濫用から国民の自由や人権を守ろうとするものです。国民の基本的人権を守るために国家権力を縛るということ,天皇、国務大臣,国会議員,裁判官,その他の公務員が憲法尊重擁護義務を負っており,憲法に違反してはならないというのが立憲主義の基本的な考え方です。

多くの憲法学者が違憲を指摘

 ところが,安保関連法の採択に至る過程をみると,法の番人といわれていた内閣法制局が従来の憲法解釈を改め集団的自衛権の行使を容認しました。これにより,憲法破壊の動きを事前に抑制することができないまま,安保関連法が閣議決定され国会に提出されました。国会審議では,安保関連法の根拠とされている砂川事件判決や昭和47年政府見解などが根拠にならないことが明らかになりました。また,外国領域における集団的自衛権行使の適用場面とされたホルムズ海峡の機雷掃海も立法事実となり得ないことが明らかになりました。憲法学者をはじめ様々な方々から安保関連法は憲法違反であると指摘され,また世論調査などでも今国会で成立すべきではないとの声が多くを占めていたにもかかわらず,国会では採決が強行され安保関連法が可決されました。憲法違反の安保関連法が、言論の府であるべき国会において、十分な説明が尽くされないまま採決が強行されたことは,代表民主政の機能不全といわざるを得ません。
 そして、安保関連法が本年3月29日に施行されたことにより、日本は、集団的自衛権の行使や、海外における武力の行使に踏み出しかねない段階に至りました。立憲主義及び民主主義の危機はより一層深刻であり、平和国家としての日本の国の在り方が変わろうとしています。

一人一人の行動で止める

 安保関連法が施行され、全国で違憲訴訟が提起されています。司法が果たすべき責任は重大です。また、安保関連法の立法化の過程では、若者、母親、学者その他の市民各界・各層が、自発的に言論、集会等の行動を通じて政治に参加するという,民主主義の大きな発露がありました。そのような政治参加の声を国政に反映させることは、立憲主義及び民主主義を回復するうえで大変重要です。行政及び立法機関による憲法破壊を止めることができるのは、最終的には、主権者である私たち一人一人の行動にかかっているのではないでしょうか。

以上