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カネの切れ目が命の切れ目、薬剤費下げ 患者負担を軽く
―高額療養費 負担上限引き上げ―

全国がん患者団体連合会 理事長 天野慎介さんに聞く
全国保険医新聞2016年9月5日号より)

 

 厚労省は、患者が支払う毎月の医療費負担に上限を設ける高額療養費制度の見直しを進めている。高齢者の負担上限の引き上げを検討し、年内にも結論を得る方針だ。政府が昨年示した社会保障費削減計画具体化の皮切りとなるものだ。患者はどう受け止めているのか、全国のがん患者らでつくる全国がん患者団体連合会理事長の天野慎介さんに話を聞いた。

 

 ―70歳以上の人が外来受診した分の負担上限を入院の場合の約半分に抑える「外来特例」。この廃止が論点になっています。

近年、がん医療は外来での化学療法が増えたことなどによって、患者が在宅で日常生活を送りながら治療を受けられるようになってきています。私自身2000年に悪性リンパ腫を発症しました。その後2度の再発治療を受けた際には、国内未承認であった抗体療法薬「リツキサン」を用いた治療を受けました。当時は入院しながら治療を行いましたが、今はこれらの治療はほぼ外来通院で可能になっています。
政府は「入院から在宅へ」という医療提供体制の改革を進めており、本来なら、在宅療養や外来医療を支援する政策を進めるべきです。外来特例の廃止は国の在宅重視の政策と矛盾していると言わざるを得ません。

 

―70歳以上で一般的な所得であれば、外来の負担上限は月1万2,000円ですが財務省・財政制度等審議会の提案では5万8,000円になります。

 大変な負担になると思います。
 現行の高額療養費制度の下でも、依然として経済的負担が大きいというのががん患者の実感です。例えば慢性骨髄性白血病の患者にはグリベックという高額な薬剤を生涯に渡って飲み続けなければならない人もいます。「カネの切れ目が命の切れ目」になりかねないと危惧します。

 

―高齢者への医療給付の制限はやむを得ないという見方もあります。

 医療費で見たとき、高齢者医療の割合が大きいのは事実です。特にがん医療は高額で医療費に占めるパイも大きく、年齢による医療の制限という論点はこれまでにも提起されてきました。
 しかし、年齢による制限は高齢者の問題に留まらない可能性があります。例えば2013年に開催されたがん研究のあり方に関する有識者会議では、50歳以上のV期とW期の乳がん患者に現行の治療を続けることへの疑問も示されました。

 

―医療費の視点としては1人あたりの年間薬剤費が3500万円になるという高額な抗がん剤の薬剤費適正化が話題です。

 現在、厚労省や関係学会が高額薬剤の適正使用に向けて、医療機関の要件や使用に適した患者などを定めるガイドラインを策定しています。
 ガイドラインは安全性・有効性の面から不可欠であり、薬剤費抑制の方法としても年齢などで一律に制限するよりはるかに合理的だと思います。患者の声が反映されるよう期待します。
 薬剤費の問題では、薬価収載時の値付けに踏み込むことが必須です。
 営利企業である製薬企業が、安全性・有効性が担保される薬を開発するために費やしたコストを回収することは当然ですが、社会に対する説明責任があると思うし、薬価決定プロセスは広く国民に公開されるべきです。
 不合理に高い薬価を正すことで医療費抑制のための患者負担の引き上げを行わずにすむ可能性もあると思います。
 今進んでいる給付削減が本当に避けられないのか、医療を充実させる財源を確保する道はないのか、国民的議論はまだまだ足りない状況だと思います。

がん患者の悩みや負担

治療中の悩みや負担(複数解答)

治療に伴う症状によるつらさ 50.2%

外見の変化(脱毛、傷跡など) 32.7%

治療費・医療費 26.9%

仕事のこと 22.7%

がんと診断されてからの仕事状況の変化

 

【被用者】

 

 

依願退職した 30.5%

 

解雇された 4.1%

 

【自営業】

 

 

休業中である 7.3%

 

廃業した 17.1%

世帯年収が300万円未満の世帯割合

 

診断時 22.5%

 

治療中 32.8%

以上