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【解説】監視社会まねく「共謀罪」

日弁連共謀罪法案対策本部副本部長 海渡 雄一
全国保険医新聞2017年3月25日号より)

 

かいど・ゆういち
 1981年弁護士登録、東京共同法律事務所所属、日弁連共謀罪法案対策本部副本部長。2010年から12年まで日弁連事務総長、NPO法人監獄人権センター代表、脱原発弁護団全国連絡会共同代表、著書に『共謀罪とは何か』(保坂展人と共著 岩波ブックレット 2006)、『新共謀罪の恐怖』(平岡秀夫と共著 緑風出版 2017)。

 犯罪の計画段階での処罰を可能とする「共謀罪」の趣旨を含む組織的犯罪処罰法改正案の議論が、国会で始まろうとしている。共謀罪については、内心を処罰する危険性や監視社会を招くおそれが指摘されており、日弁連は2月に法案の国会上程に反対する意見書を出した。日弁連共謀罪法案対策本部副本部長の海渡雄一氏(写真)に、共謀罪の問題点を解説してもらった。


組合活動や平和活動の弾圧に濫用されてきた歴史

 第2次安倍晋三政権のもとで、2013年に特定秘密保護法、15年に安保関連法が成立し、16年5月には、盗聴捜査の拡大を含む刑事訴訟法改正が成立しています。安倍首相は改憲の発議の意向を示しています。そして、17年1月に首相と官房長官が、20年東京オリンピックのテロ対策のため、テロ等準備罪が不可欠だと表明し、3月21日にも、政府は共謀罪法案の名前を変えて国会に上程しようとしています。

処罰対象あいまい

 合計277もの犯罪について共謀の段階から取り締まろうとする共謀罪法案になぜ反対しなければならないのでしょうか。もともと共謀罪は、イギリスで国家反逆罪として制定されましたが、19世紀には労働組合や借家人組合の弾圧のために猛威を振るった法律です。20世紀のアメリカではベトナム戦争やイラク戦争などに反対する活動に濫用されました。
 どのような行為が刑罰の対象とされるかを定める要件を犯罪の「構成要件」と呼びます。刑法は犯罪構成要件にあてはまる行為だけを処罰すると定めています。つまり、犯罪構成要件に当たるような行為をしない限り、人は処罰されることはないのです。我が国の刑法では既遂処罰が原則であり、重大な犯罪は未遂処罰を認めています。さらに重大な犯罪、殺人や強盗、放火などは予備段階(40余り)から、さらに限定された爆弾犯罪や内乱罪などは共謀段階(20余り)から処罰が可能です。
 今回政府は合計277の犯罪について共謀の段階から処罰できる「共謀罪法案」を提案しようとしています。その本質的危険性は、犯罪が成立する要件のレベルを大幅に引き下げ、犯罪として取り締まりの対象とされる行為があいまいにされるところにあります。

日常の電話やメールも監視の対象に
テロ対策とは無関係

 もう一つの危険性は、警察の捜査権限の拡大にあります。共謀罪は人と人との意思の合致によって成立します。したがって,会話,電話,メールなど日常的に市民のプライバシーに立ち入って監視するような捜査がなされる可能性があり、監視社会がもたらされる危険性があります。
 予算委員会の質疑で金田法務大臣は、共謀罪を通信傍受の対象とすることは、将来の検討課題だと述べました。警察が市民生活のすべてを監視しようとする監視社会は、目の前に来ているのです。

国連のテロ対策条約はすべて批准

 テロ行為は未然に防がなくてはなりませんが、日本は国連のテロ対策条約はすべて批准済みで、政府はどのような対策が欠けているのか説明できていません。最近のテロ行為は単独犯行のものも多く、むしろ、テロとは無関係の多くの犯罪の共謀を取り締まることが、テロ対策になると信ずる方が危険です。
 共謀罪法案は、国連の越境組織犯罪条約を批准するために立案されたのは事実です。この条約はすでに187か国が批准しており、その批准は進めるべきです。世界各国の状況を見る限り、日本の政府案のような広範な共謀罪を立法した国としてはノルウェーとブルガリアしか報告されていません。そして、この条約は、物質的利益のための越境組織犯罪について、取り締まりを求めたもので、テロ対策とは関係がないのです。

「準備行為」を要件としても危険
適法な団体も犯罪集団と認定可能

 それでは、政府の修正によって危険性はなくなったといえるでしょうか。
 まず、組織的犯罪集団の定義は、対象とされる犯罪を共同で行う目的のある団体とされ、もともと適法な会社や団体でも、罪を犯したときに、共同の目的があれば、組織犯罪集団という認定は可能です。普通の会社の経営が厳しくなり、詐欺に手を染めれば、会社全体が組織犯罪集団になるという判例もあります。
 例えば、いま高江ではヘリパットの建設に抵抗して、市民が座り込みを続けていますが、これに対して警察は全国から機動隊を動員し、多数の市民を負傷させ、またリーダーの山城博治さんをはじめ多くの仲間を逮捕・勾留しています。クラブにおける深夜のダンスが風営法違反に問われたり、福島原発の見学のためにバスを仕立てて行った行為が白タク行為に問われたり、市民の些細な活動が警察によって検挙されるようになってきています。
 政府に抵抗する行為を未然に一網打尽にする意図が今の政府には明らかにあるのです。
 また、新法案では、準備のためにする行為を要件としています。しかし、預金を下ろしたり、メールを送っても準備のためと言われかねません。これらの修正によっても、濫用の危険性がなくなったとは到底いえないのです。
 日弁連では、市民の皆さんと力を合わせ、この法案の制定に反対していきます。ご協力をお願いします。

以上