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子どもをダシに消費増税
―「全世代型社会保障」のまやかし―

全国保険医新聞2017年10月5日号より)

 

 安倍首相は総選挙で、2019年10月からの消費税率10%実施を前提に、高齢者向け給付が中心となって社会保障制度を見直し、「全世代型」の社会保障に改革するなどと訴える構えだ。増税分の使い道に乳幼児教育の軽減・無償化や高等教育の一部無償化などにも充てるとしている。しかし、この間、消費税は増税される一方、全世代で医療・社会保障は削減されてきた。引き続き、安倍政権は「骨太の方針2015」などに従って社会保障抑制・削減を進める方針を示している。首相が述べる「全世代型」社会保障論は、消費税増税を押し通すまやかしのこじつけといわざるをえない。

 

全世代に手薄い&ロ障、大企業に減税

大半は予算置き換え

 12年の改正消費税法等は、消費税を5%から10%に引き上げた際の増収分(約14兆円)のうち、社会保障の「充実」に2.8兆円、増税に伴う経費増対応に0.8兆円、基礎年金の財源に3.2兆円、既存の社会保障費に7.3兆円を充てるとしている。
 増収分約14兆円の内、10.5兆円(7.3兆円と3.2兆円)は既存の経費であり、既に所得税や法人税などの税収で財源の手当てがされていたものである。消費税増税で10.5兆円に相当する財源が浮く形となる。予算の置き替えで生れた財源を当て込み、安倍政権は、復興特別法人税の前倒し廃止含め法人3税の税率約8%引き下げ、防衛費増大などを進めてきた。これまで同様、「消費税は増税、法人税は減税」というのが実態だ。
 新規施策となる「充実」分も2.8兆円に過ぎない。その内容(税率8%時点)も、病床機能分化の名による病床削減、医療・介護難民の増加につながりかねない「地域包括ケア」の推進などが含まれる。難病新法は給付後退や認定基準の厳格化などで医療費助成が大幅に抑制され、当初予算を435億円も下回っている。17年末には経過措置が切れて、負担増となる患者がさらに増える。

 

「教育無償」も限定的

 安倍首相は、「全世代型」に対応するとして、“教育の無償化”案を持ち出し、消費税収の「充実」分の組み換えや拡大を述べている。しかし、増税分の大半が予算置き替えに変わりない。国民の多くが切実に願う教育・子育てをダシに国民に大増税を押し付けるものである。
そもそも、自民党は05年の衆院選以来、“幼児教育の無償化”を公約に掲げている。この間ようやく低所得世帯(年収360万以下)の第2子以降の軽減・無償化などを実施したにすぎない。今回も、安倍首相は、ゼロ〜2歳児の保育や高等教育の無償化は低所得者に限定するとしている(9月25日記者会見)。
保育にしても、待機児童が2.6万人を超え3年連続増加し深刻化する中、政府が進める「待機児童解消加速化プラン」は、親たちが求める認可保育園の大増設に踏み出すものではない。力を入れるのは、有資格保育士が少ない企業主導型や詰め込み保育と指摘される小規模事業などである。安全を割り引いた保育の拡大で、子どもの成長と命が危険にさらされかねない。

 

高齢者の貧困、老老介護

 「高齢者偏重の社会保障」という見方も実態を歪めるものだ。1世帯当たりの平均所得を見ると、高齢者世帯は1998年の335.5万円をピークに2015年には308.4万に低下している(厚労省「国民生活基礎調査2015年」)。
高齢夫婦無職世帯の1カ月の家計収支では、収入約21万円、支出約27万円で差引き約6万円が不足し、不足分は貯蓄から取り崩す形となっている。他方、4割以上の世帯は貯蓄額が500万円に満たず、7年弱で貯金が底をつく状況にある。「貯蓄なし」世帯も16.8%存在する(総務省「家計調査報告(2014年)」など)。高齢者の多くが複数の疾病で受療し、介護サービス利用も出てくる中、貯金を取り崩しながら生活しているのが現状である。
老々・認認介護も深刻だ。要介護者がいる65歳以上同士の世帯の54.7%に上り、75歳以上同士でも30.2%と、過去最高になる中、これ以上の、年金カットや医療・介護の負担増は、夫婦共倒れに留まらず、毎年50件を超える介護心中・自殺の悲劇をさらに加速しかねない。
社会保障は高齢者中心どころか、高齢者も含めて全世代にわたり手薄いのが実態だ。
また、高齢者の負担増は、育児と介護のダブルケア・多重介護やヤングケアラー世帯の負担増など「働く世代」も直撃する。現役世代の負担増によって、年10万人以上に及ぶ介護離職のさらなる増加や年1万6,000件で高止まりする親族間の高齢者虐待も増加しかねない。

 

「骨太2015」の撤回を

 政府は、「骨太の方針2015」などを通じて、16〜20年度の医療・社会保障の抑制・削減工程表を定め、年3,000億〜5,000億円の社会保障費削減を進めてきた。現役世代に手厚い保障と言うが、実際には、一般病床の食事代値上げ、大病院の受診時定額負担の導入、中堅・大企業の勤労者の介護保険料負担増(総報酬割導入)など現役世代に負担増を強いてきた。安倍首相は、引き続き今後も5,000億円の毎年カットを進めると明言しており、全世代に及ぶ患者負担増計画が進行中である。安倍首相の「全世代型社会保障」論は、教育・育児を引き合いに、消費税増税を押し付けた上、全世代に社会保障の負担増を強いるものにほかならない。「骨太の方針」の撤回、消費税増税の中止とともに、応能負担に基づく税制改革、正規雇用の原則化などを通じた経済・税財政の建て直し、社会保障の拡充こそが求められる。

以上