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改めて居住費・食費の全額自己負担化に反対する


2005年1月23日
全国保険医団体連合会


厚生労働省は、2006年度の介護保険制度の大幅「改正」の中で、施設利用に係る居住費・食費の全額自己負担化を正式に打ち出し、社会保障関係費の自然増を圧縮する意図から、2005年10月より前倒しで実施することで財務省と合意し(2004年12月18日)、来年度予算原案に盛り込みました。これにより、介護給付費は1,300億円削減(うち、国庫負担420億円)される見込みとなりました。

即ち、介護保険3施設について、居住費(減価償却費及び光熱水費)、食費(食材料費及び調理コスト相当)を介護保険給付から外し、全額が自己負担とされます。また、ショートステイ等の通所系サービスの食費についても保険給付から外し、同様の扱いとされます。居住費・食費の額は、利用者と事業者との契約で取り決められることになり、居住費・食費の額に上限はなく、青天井です。

ただし、低所得者(生活保護受給者等及び住民税世帯非課税者=現・保険料第1段階及び第2段階のみ)については、負担上限額を設定し、補足的給付の基準額(下記)との差額を介護保険から給付する扱いとしました。

  補足的給付の基準額

居住費(月額) 個室・ユニット型:6万円 大部屋:1万円
食 費(月額) 4万8千円

 なお、2004年分からはじまる一連の税制「改正」により、住民税世帯非課税者(現・保険料第2段階)が第4段階になるなど、低所得者対策の対象者が大幅に減少することが見込まれます。

介護保険3施設に係る居住費・食費を保険外とする「改正」に対し、以下の理由から改めて反対を表明します。

第一に、在宅介護の困難が何ら改善されないことです。

施設への入所が増加するのは、「施設では居住費や食費負担がなく、在宅に比べて割安感がある」からではなく、介護保険制度があっても在宅での生活が成り立たないからです。

介護保険制度見直しに当たって必要なことは、在宅系サービスの区分支給限度額の撤廃あるいは引上げ、利用料負担の軽減、マンパワー及びサービス量の充実等を図り、在宅における十分なサービスを保障することこそ必要です。

第二の問題は、介護施設の役割を覆すものだという点です。

居住費・食費の保険給付からの除外は、介護施設を「介護ケア付き賃貸住宅」とみなすべきとする規制改革・民間解放推進会議の意向に沿ったものであり、住まい(居住)の保障を含む社会福祉としての介護施設の役割を覆すものです。

また、施設入所者に対する食事の提供は、厚生労働省通知で「施設介護の一環として提供されるべきもの」と位置付けられており、摂食機能の維持、誤嚥性肺炎等の予防、治療食、食堂での実施による自立支援等々の多様な意義を持っており、健康人の日常の食事と同列に論じることはできないものです。

第三の問題は、現行の年金水準からみて介護施設への入所が極めて困難となるという点です。

(1) 1号被保険者の34%を占める住民税世帯非課税者(現・保険料第2段階)については、低所得者対策として費用を減じていますが、国民年金の満額受給者(月額6万7千円)でさえ、手元に1万円程度しか残らない過酷な負担となります。

     世帯非課税者の負担額(居住費+食費)

       個室・ユニット型  月額4万円
       大部屋       月額2万5千円
      ※ 他に、1割負担、雑費負担あり。

   特別養護老人ホームにおいては、低所得者対策の対象となる生活保護受給者等、住民税本人非課税者(現・保険料第1段階及び第2段階)が入所者の8割を超えており、個室・ユニット型が広がっていく中で、負担に耐えられない利用者の入所制限が拡大していきます。

(2) また、1号被保険者の約40%を占める住民税本人非課税者(現・保険料第3段階)については低所得者対策から除外し、居住費・食費の費用設定を利用者と施設との契約に委ねてしまい、負担額は青天井となります。

   老人保健施設及び介護療養型医療施設においては、低所得者対策から除外される層(現・保険料第3段階以上)がそれぞれ6割以上を占めており、医療的措置を要する利用者の入所が著しく抑制されます。

(3) 厚生労働省は、「年金給付と介護保険給付の重複を是正する」との理由で居住費・食費の自己負担化を打ち出していますが、受給者数のピークが月額3〜4万円台という低額な国民年金の現状を無視するものであり、憲法25条のもとでは許されない問題です。

 第四の問題は、居住施設ではない施設に居住費負担を導入することです。

居住費とは本来、そこを生活の拠点としている場合に成り立つものであり、在宅復帰支援を目的とする老人保健施設や、長期の療養を提供する介護療養型医療施設は居住施設とすることはできないものです。また、これらの施設に入所している者が賃貸住宅に入居している場合は、家賃を二重に支払うことになり、極めて不合理です。

従って、医療系の2施設については、「居住費」の概念を持ち込むべきではなく、居住費の徴収は行うべきではありません。

特別養護老人ホームにおいては、住居を含めた生活保障の立場から、入所費用については、応能負担を原則とした費用体系とすべきです。

第五の問題は、居住費・食費の保険給付外しが、医療機関にも波及しかねないことです。

日本経団連は、「社会保障制度等の一体的改革に向けて」(2004年9月21日)と題する提言において、「短期的対策」として、入院時や介護保険施設入所時の食費・居住費用相当部分は、医療・介護保険の給付外とするよう求めています。

今回の「改正」で、医療系の2施設に「居住費」の概念が持ち込まれ、これが保険給付から外されるならば、医療機関における入院にも波及する危険性があります。

また、医療機関における「居住費」は、介護保険3施設より高く設定される可能性があります。厚生労働省は、今回の居住費モデル(月額6万円)は一番低額な特別養護老人ホームの額を採用したと説明しています。同省の居住費調査の結果によれば、医療機器等が減価償却費を押し上げるため、老人保健施設の居住費は月額7万8千円、介護療養型医療施設の居住費は月額11万2千円と高い水準となっています。

医療保険において居住費・食費の給付除外が行われるならば、社会保障としての医療保障を突き崩す重大問題です。

以上