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公的医療の縮小につながる“先進医療”“制限回数を超える医療行為”の選定療養への追加に反対します


2005年6月23日
全国保険医団体連合会
診療報酬改善対策委員会
担当副会長 宇佐美 宏

 6月15日の中医協総会において、“先進医療”の「特定療養費選定療養)」への追加が諮問・答申されました。また、同日開催された中医協診療報酬調査専門組織・医療技術評価分科会において、“制限回数を超える医療行為”のうち、一部の検査、リハビリ、精神科専門療法の28項目を、「保険給付との併用を認めることが適当」として「特定療養費(選定療養)」の対象とする報告書を6月29日に開催する中医協基本問題小委員会にあげることが確認されました。

 そもそも、特定療養費導入にあたり厚生省の吉村仁保険局長(当時)は、1984年5月10日の衆議院社会労働委員会で「‥‥現在のところ、差額徴収の方式を利用して技術料にかかわる差額徴収をやろう、こういう考えはございません‥‥」と答弁しています。

 これまでも、金属床総義歯や、200床以上病院の紹介なし初診料、180日を超える入院等、政府答弁に反して技術料の「特定療養費(選定療養)」化が行われてきましたが、今回の“先進医療”や“制限回数を超える医療行為”の「特定療養費(選定療養)」化は、その範囲が格段に大きく、国会審議における確認事項を根底から覆し、皆保険制度の根幹である「現物給付原則」を突き崩すことにつながるものです。

 したがって、“先進医療”や、“制限回数を超える医療行為”を「特定療養費(選定療養)」とすることは、絶対に容認できません。同時に、特定療養費の対象拡大は、保険給付の内容に大きな影響を与えることから、厚生労働大臣の告示のみで拡大するやり方を改め、国会審議に付すよう求めるものです。

 なお、“先進医療”の告示案は、「別に厚生労働大臣が定める先進医療(先進医療ごとに別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合する病院又は診療所において行われるものに限る。)」とされています。これまでの「特定療養費(選定療養)」とは異なり、対象となる医療の一つ一つが告示されず、「先進医療専門家会議」の討議で対象が拡大され、“先進医療”ごとに定めた基準を満たした医療機関が届出をして実施することとなります。

 これは、「特定療養費(高度先進医療)」で行ってきた手法ですが、高度先進医療が、医療行為も高度なものに限られ、取扱う医療機関も大学病院等に限られていたのに対して、“先進医療”は、2,000程度の医療機関が対象ともいわれ、保険制度に対する影響は格段に大きく、機能評価とも連動して医療機関のランク付けに利用される危険性も高いといえます。

 また、“先進医療”の対象の多くが、外保連や内保連、患者などから「保険給付の対象にしてほしい」と要望されていたものであるにもかかわらず、医療費の影響等から保険導入されなかったものが大半を占める可能性が高く、新規の医療技術がいつまでも保険導入されない危険性もあります。

 “先進医療”を「特定療養費(選定療養)」に追加する理由の一つに、新規技術の保険適用に至るルールの不透明さや、あまりにも時間がかかりすぎることがあげられるが、そもそも、安全性・有効性が確立した医療技術等を速やかに公的医療保険に導入できるよう、ルールの透明化と迅速化を図るべきです。

 “制限回数を超える医療行為”については、6月15日の医療技術評価分科会に事務局から、@保険給付との併用を認めることが適当な項目(28項目)、A患者要望よりも医療上の必要性の観点が優先され実施される蓋然性が高く引き続き審議すべき項目(113項目)、B制限回数を超える場合に悪影響が懸念される項目(1項目)の3分類が報告されました。 

 分科会は、リハビリと精神科療法について@とAの両論併記、検査は@として6月29日に開催される中医協基本問題小委員会に報告することとしたが、分科会の石原謙委員(日医総研研究部長)からも、「(保険給付との併用を認めることが適当な項目は)患者さんの立場に立てばどれも切実であり、『患者要望よりも医療上の必要性の観点が優先され実施される蓋然性が高く引き続き審議すべき項目』にすべき」との発言がされたように、リハビリと精神科専門療法等を含めた28項目は全てAに分類されるべきです。

 “制限回数を超える医療行為”は、保険診療として認められていない医療行為ではなく、保険請求で算定回数が制限されているに過ぎません。すなわち、健康保険法の「療養の給付」の範囲と「保険医療機関又は保険薬局が療養の給付に関し、保険者に請求することができる費用の額」を意図的に混同するという論理を展開した結果です。これは、保険給付の範囲を規制し、必要な医療を保険で給付する健康保険制度を質的に転換することを目的としたものです。

 事務局が整理した@28項目、A113項目は、医学的に必要性が認められることが指摘された項目であり、そもそも、医学的に必要なのに制限回数を導入することこそが大問題です。これらを特定療養費化するのではなく、制限回数の廃止や緩和の検討を直ちに行い、保険で給付すべきです。