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福島県立大野病院の医療事故による産婦人科医師の逮捕、起訴に抗議します


2006年3月12日
全国保険医団体連合会 第2回理事会

 まず最初に、今回の医療事故で亡くなられた患者さま、ならびにご遺族の方々に心から哀悼の意を表します。

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開した女性が死亡した医療事故で、執刀した加藤克彦医師が逮捕された事件について、福島地検は、3月10日、業務上過失致死と医師法違反容疑で加藤医師を起訴しました。

 そもそも、事故発生から1年2カ月が経過し、逃亡の恐れや証拠の隠滅などは想定されず、この時期の逮捕は異常とも言えるものであり、逮捕に抗議し即時釈放を求める医療関係者の声が多数にのぼっています。本会も、人権侵害とも言える不当な逮捕に抗議し、即時釈放を求める川崎副会長の「談話」を発表しましたが、起訴にあたって、再度、厳重に抗議の意思を表明します。

 マスコミ報道でも指摘されているように、今回の医療事故は、深刻な産婦人科医不足や県立病院全体の安全体制の問題に深く根差しており、一産婦人科医の責任として矮小化することは許されません。加藤医師は、年間200例近くを担当する大野病院でただ1人の産婦人科医で、福島県内で「産婦人科」がある4つの県立病院も医師1人体制です。加藤医師の逮捕を契機に、福島県立医大産婦人科が、大野病院をはじめ3つの県立病院への医師派遣を取りやめるとの報道もあり、産婦人科医療の確保を一層困難に陥れています。

 また、逮捕の理由となった医師法違反についても、「異状死」の定義は、日本法医学会や各学会等で独自に定めるなど極めて不明確で、今回の医療事故による死亡が「異状死」かどうか医療界でも判断が分かれています。今回の件では、医療事故として直ちに上司、県への報告がなされており、執刀した医師にのみ責任を押しつけることは責任転嫁とも言えます。

 医療事故の対応の基本は、被害者救済と再発防止です。厚労省は、医師への聴取やカルテなどの提出、医療機関への立ち入りを、任意から強制に切り替える医師法「改正」を検討していますが、行政処分の強化による医療事故の再発防止策は本末転倒です。深刻な産科、小児科等の医師不足や医師の地域偏在の解消、勤務医の労働環境改善、診療報酬の改善等の課題に早急に取り組むことこそ、医療事故防止のために国や自治体が為すべき第一義的な責任です。

 本会は、加藤医師の逮捕、起訴による医療現場での萎縮診療の広がりや地域医療の弱体化に強い危惧を抱かざるを得ません。同時に、医療過誤事件における被害を速やかに救済し医療の質と安全性を確保するためにも、中立的な専門家等で構成される第三者機関の設立及び無過失補償制度の創設を求めます。