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規制改革・民間開放推進会議が唱える「保険医の再登録」制について

―新たな「医師の管理統制」策より、既存の制度で医師のサポート策の充実をー

2006年12月3日
全国保険医団体連合会


規制改革・民間開放推進会議(以下規制改革会議と略)は7月31日に重点検討事項の一つとして「07年度中に『保険医の再登録』等の所要の施策を講じるべき」と中間答申しました。規制改革会議の任務からすると権限を越えた提起と思われますが、これに対する厚生労働省(以下厚労省と略)や医療団体等から強い反対の声があがらなければ12月の最終答申に盛り込まれるものと思われます。

中間答申では「保険医の再登録」制を「医師の資質維持・向上のため」の取り組みのひとつとして提起していますが、かつて規制改革会議が「医師免許更新制」の導入を唱えた時と同様に、診療に従事するすべての医師に対して管理統制を強める狙いがあるものと思われます。そしてそれは、今政府が押し進めている医療構造改革、すなわち公的医療費を抑制する一方で、医療分野を規制緩和し営利・市場化を拡大する改革と無関係ではないと思われます。

そもそも保険診療と、保険医療機関及び保険医との関係はどうなっているのでしょうか。またそれぞれの更新制ないし再登録制はどうなっているのでしょうか。健康保険法によると、医師が医療機関で保険診療を行なうには、厚生労働大臣(社会保険事務局に委任)に申請し保険医として登録される必要があり、かつ厚生労働大臣(社会保険事務局に委任)から保険医療機関として指定を受けた医療機関の中でなければなりません。いわゆる「二重指定制度」といわれ文字通り二重に網がかけられている状態です。そして「保険医療機関の指定」は6年に1回更新を受けなければなりません(一部例外あり)。一方保険医は定期の更新制はありませんが、関係法令に違反した場合は保険医登録が取消され、その後原則5年間は再登録ができません。

このように国は現行法の中でも、保険医療機関や保険医に対して保険診療に問題あるとみなせばいつでも指定や登録の取り消しができ、また同じように更新時や再登録時に拒否もできます。また保険医療機関や保険医は、このことは別に健康保険法に基づいて国から保険ルールなどの指導を受けるものとなっています。このような現行制度を考えると、今回厚労省が規制改革会議への回答として、「重ねて、『保険医の再登録』制度を創設することは不適当である」と反対の意思を示したことは賛同できるところです。

しかし大事なことは、現行制度の中で行われている保険診療や保険医の向上のための指導や講習が、医学医療の発展に対応して充分かどうかということです。今回、規制改革会議の中間答申の中でも、またそれに対する厚労省の回答の中でも、「保険医の再登録」の部分を除いて医師に対して次のような認識と指摘が行われたことは注目に値するところです。その部分を引用すると、「医師は、医師免許取得を起点として生涯に渡る職業人としての自発的な修練、研鑽が求められる。医師の知識・技能の水準は患者の生死に関わることでもあることから、特に臨床に当たる医師については、医師として一定水準以上の知識技能の維持は絶対的な条件であり、さらにはその向上を図ることは利用者の信頼にもつながる。そのため、医療制度や医療安全等の最新情報のための講習の受講の促進、医療安全等に関するガイドライン等を提供し必要に応じ、改定・周知することによる医師の自発的な知識・技能と資質向上をサポートするための取組を講じるべきである。」と述べています。

まさにこの方向で、国は予算化をはかり、そして医師の参加条件や参加保障も考慮して「医師の資質維持・向上のため」の取組みを進めるべきです。これは私たちが「医師免許更新制」に反論した時に提起した方向と基本的に同じです。さらに私たちは、医療ミスを繰り返す「リピーター」医師へはそれとは別に公的に「再教育制度」の確立をはかるべきだと提起していましたが、これは既に厚労省のもとで始められている状況です。

日本の「国民皆保険制度」が、このような公的責任による「医師の資質維持・向上のため」の不断の取組みで裏打ちされるならば、国民の医療への信頼は一層高まっていくものと思われます。医療は日進月歩でかつ多様性、複雑性、不確実性を内包しています。一方医師はその中でかけがえのない命と健康を守ることを使命とした高度な専門職です。こういった特徴を持つ医療の現場において不断に高い倫理性と自律性、自発性が求められている医師に対して過度の管理統制策は国民医療の発展上逆効果と思われます。