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【自治体・広域連合に対する『要望書』の雛型】

保団連政策部作成


後期高齢者医療制度―その問題点と改善方向について―
                      

◆後期高齢者医療制度の制定

 新しい制度が必要な理由として、厚生労働省は、「国保・被用者保険からの拠出金と公費を財源として、市町村が老人医療対象者に医療給付を実施している現行の老人保健は、制度運営の責任主体が不明確、医療費適正化の動機付けが働きにくい、現役世代の老人医療に対する負担が見えにくい」、等を上げています。

 今回の後期高齢者医療制度は、昨年6月に老人保健法から『高齢者の医療の確保に関する法律』への改定の中で設置されたものですが、この目的には、「前期高齢者に係わる保険者間の費用負担の調整、後期高齢者に対する適切な医療給付等を行うために必要な制度」という文言があります。いずれも、財政の安定化を図る目的が色濃く示されており、高齢者への適正な医療確保の立場より「財政優先の立場」が明瞭です。

 また、この制度の運営は、各都道府県の後期高齢者医療広域連合が主体になります。すべての市町村で構成され、市町村自らが実質的な保険者となります。

  

◆保険料の新たな負担

 この制度の問題点の第1は、75歳以上の後期高齢者(生活保護世帯の高齢者は除かれるが、広域連合が障害認定した65歳〜75歳の高齢者は対象となる)は、給与所得者の扶養家族で今は負担ゼロの方に新たに保険料負担が発生することです。

 政府が示している平均的厚生老齢年金受給者の場合の保険料は、月額6,200円で、年間74,400円の負担増となり、2ヵ月ごとに介護保険料と合わせて2万円以上が年金から天引きされていきます(月額15,000円以上の年金受給者の、老齢年金、遺族年金、障害年金から天引き)。基礎年金受給者は1ヵ月900円(年10,800円)の負担となります。

 これまで扶養家族となっていたために保険料負担がゼロの人(厚生労働省の推計では約200万人)には、激変緩和措置として2年間は半額になる措置が取られることになっていますが、新たな負担には変わりありません。保険料決定に当たっては、後期高齢者の所得・生活の状態を踏まえた支払い可能な金額とすべきです。

 また、現役でサラリーマンとして働いている人が75歳になれば広域連合に移らなければな

らず、雇用主の負担のない保険料を支払うことになります。その扶養家族で75歳未満の人は、

新たに国民健康保険に加入しなければならず、この方々も国民健康保険料が丸まる負担増と

なります。少なくとも、この方々に対する経過措置が必要です。

いずれにしろ世帯単位でみれば、サラリーマン本人とその扶養家族という複数人数分の雇用主の負担がなくなることになります。

◆現行制度にない厳しい資格証明書の発行

 第2に、保険料を「年金天引き」ではなく「現金で納める」方々(政府の試算では「2割」と見込まれている)にとっては、保険料を滞納すれば「保険証」から「資格証明書」に切り替えられ、「保険証」を取り上げられてしまいます。

 さらに、特別な事情なしに納付期限から1年6ヶ月間保険料を滞納すれば、保険給付の一時差し止めの制裁措置もあります。

 年金収入の少ない低所得者への厳しいペナルティです。現行制度では、高齢者に対しては被爆者や障害者、結核への医療など公費医療対象者と同様に、資格証明書発行の対象から外してきたことと比較すると、問答無用な冷厳なシステムとなっています。

しかし、少なくない後期高齢者が、年々高くなる保険料を、介護保険料とあわせて支払うことに耐えきれず、生活困難に陥ったり、滞納するなどの事態が生まれることが予想されます。後期高齢者に「適切な医療給付」を行うという法の趣旨からも、少なくとも実質的な無保険者を生み出す「資格証明書」の発行はやめて、支払いが困難な高齢者への懇切丁寧な相談体制を確立すべきです。

◆保険料自動引き上げの仕組み

 第3に、後期高齢者が増え、また医療給付費が増えれば、「保険料値上げ」か「医療給付内容の劣悪化」か、というどちらをとっても高齢者は「痛み」しか選択できない、あるいはその両方を促進する仕組みになっています。

 2年ごとに保険料の見直しが義務付けられ、保険でまかなう医療費の総額をベースにして、その10%は保険料を財源にする仕組みとなっています。さらに後期高齢者の人数が増えるのに応じてこの負担割合も引きあがる仕組みです。2015年度では10.8%が保険料を財源にします。

 これらのことが受診抑制につながることにもなり、高齢者のいのちと健康に重大な影響をもたらすことが懸念されることです。

  

◆独自の保険料減免が困難に

 第4に、保険料は、「後期高齢者医療広域連合」の条例で決めていくことになりますが、関係市町の負担金、事業収入、国及び県の支出金、後期高齢者交付金からなる運営財源はあるものの、一般財源を持たない「広域連合」では、独自の保険料減免などの措置が困難になってきます。

 これまで、地域の医療体制や被保険者の健康状態の違いが反映した自治体ごとの医療保険制度であったために、保険料水準にはおのずから違いがありましたが、県内統一の保険料になれば、大都市部と山間部での医療体制の大きな相違等で新たな医療格差が発生する恐れが強くなります。

 広域連合ごとに弾力的な制度運営を可能とするためにも、各種の減免規定を設けることや、都道府県・市町村の一般会計からの財源投入を認めるべきです。

 保険料の負担按分は、応益負担と応能負担の比率=50対50を標準とするとされています

が、このような規定を設けることはやめ、広域連合の判断で、応能負担の比率を高めること

を認めるべきです。

 

◆へき地医療の改善は放置されたまま

 第5に、保険料の水準は、広域連合の医療給付費の実績を反映して設定されるので、医療給付費が多い広域連合は、保険料も連動して高くなります。したがって、各都道府県ごとに設立された広域連合ごとに保険料は違ってくるものの、一つの広域連合には一つの保険料というのが原則です。

ところが、離島など著しく医療の確保が困難な地域では、恒久的な措置として、他の市町村とは異なる保険料を設定することが認められました。※

 憲法と地方自治法に照らせば、「著しく医療の確保が困難な地域」だからこそ、公的責任を明確にして地域医療を確立していくことが、国と地方自治体の責務のはずです。

しかし、広域連合に導入された「恒久的な措置」は、劣悪な実態に置かれている地域の高齢者に対して、その改善対策は放置したままで、その代わりに保険料を最大2分の1まで割り引いてあげようというものです。そこには、高齢者の健康と医療を守ろうという姿勢を見ることはできません。へき地の医療体制の充実を図る施策を優先すべきです。

  注)「不均一保険料」を設定する場合は、「均一保険料」の50%を下限とする。

◆保険給付を切り縮める『差別医療』の導入

 第6に、医療機関に支払われる診療報酬は、他の医療保険と別建ての「包括定額制」とし、

「後期高齢者の心身の特性に相応しい診療報酬体系」の名目で、診療報酬を引き下げ、受けられる医療に制限を設ける方向を打ち出しています。

後期高齢者に対する独自の医療保険・医療提供内容・診療報酬ということは、国民皆保険の抜本的な改編を意味します。まず「後期高齢者の心身の特性」を具体的に示すべきですが、示されているのは、あらかじめ特定の「かかりつけ医」に登録し、主な疾患や治療方法ごとに、通院と入院ともすべて一定金額と決めてしまうことです。こうした「登録人頭定額払い制」となれば、フリーアクセスが制限され、積極的に治療すればするほど医療機関の持ち出しとなるなど、高齢者に対する医療内容の劣悪化と医療差別を招く恐れがあります。

 厚生労働省は、『居宅』で高齢者の終末期医療を行って、最期まで看取れる体制づくりを課題にしていますが、終末期医療は75歳以上の人びとのみに特異的に出現する状態ではありません。75歳という暦年齢で機械的な線引きを行って、保険が利く医療の内容や範囲に差別を持ち込むことはやめるべきです。

◆健康の保持増進は努力規定に

 第7に、老人保健法の第1条の「目的」に明記されていた「健康の保持」の文言が削られ、代わりに、「医療費の適正化」の文言が加わりました。厚生労働省は、後期高齢者の「健康の保持増進のために必要な事業(保健事業)を行うよう努めなければならない」としていますが、そうであればこそ、法律の目的に健康の保持増進を明文化し、厚生労働省の責任を明記して、実施すべきです。努力規定ではあまりにも頼りないです。

国と都道府県、市町村の責任で、すべての後期高齢者が健診等を受診できるようにすべきです。

◆現役世代には「支援金」の負担が

第8に、財源の一つである、各種の被用者保険や国民健康保険が拠出する「支援金」には、サラリーマンなどの加入者(介護保険第二号被保険者が対象)から徴収する保険料が充てられます。

 保険料は、基本保険料と特定保険料に区分され、基本保険料は医療保険からの保険給付費と特定健診等の保健事業に充てられ、特定保険料は、後期高齢者医療保険への「支援金」だけでなく、前期高齢者医療への「納付金」、療養病床の廃止・削減に伴う「病床転換支援金」等に充てられます。つまり、現役世代のサラリーマン(被用者医療保険に加入)や住民(国民健康保険に加入)が、特定保険料を通じて、政府が進めている医療「改革」政策を財政面で担わされる形なのです。

 厚生労働省は、被用者保険と国保の加入者数が減少した割合の2分の1の割合で、後期高齢者の保険料率を引き上げるとともに、支援金を拠出する割合が引き下がる仕組みを導入したので、支援金は4割を上限に除々に減少していくと説明しています。

しかし、高齢者の医療給付費が増加し、その財源に充てる支援金や納付金が増えていけば、支援金の総額は増えていくことになります。

◆公費負担の引き上げを

第9に、公費負担は、「現役並み所得者」に区分された高齢者については、その対象にはならないため、公費で負担すべき五割の水準を実際には下回ります。厚生労働省の試算では、制度発足時の実質的な公費負担率は46%で、その分「支援金」の負担率が44%に増加します。今後、団塊世代といわれている人々の高齢化が進めば、「現役並み所得者」に区分される高齢者も増加することが予測されます。実質的な公費負担がさらに低くなります。

安定した財源としての公費割合を引き上げていくとともに、「現役並み所得者」に区分された高齢者も、公費負担と保険者支援金の対象とすべきです。

◆高額医療費が自動償還から申請償還へ後退

 第10に、医療と介護の利用料の支払い上限額を決め、それを超えた金額は返還するという、「高額医療・介護合算療養費」の償還制度を設けますが、今の「医療費自動償還」から「申請償還」に変わってしまい、本来返されるべきお金も「申請」しなければ返されなくなり、大損する人も出てきます。しかも、同一世帯で他の医療保険と混在する場合、支払い上限額を合算できないため、この点からも負担額が大きく増えることになります。

◆当事者の声が直接届かない

 第11に、○○県の場合、広域連合議員の定数は○○となっており、半数以上の市町から議員を出すことができません。しかも、その議員は「各市町の長及び議会の議員」のうちから選ばれることとなっており、当事者である後期高齢者の意見を、直接的に反映できる仕組みとしては不十分なものになっています。

 この問題での国会審議で(06.6.8参議院厚生労働委員会)、「75歳以上にとって切実な保険料や条令や減免規定が、高齢者の実態からかけ離れたところで決められる懸念がある。」との質疑に、厚生労働省の保険局長は「75歳以上の方々のご意見を踏まえて運営すべきことはその通り、何らかの形でそうした努力をしていきたい」と答弁しました。

 広域連合議会には、住民による請願や、条例制定の直接請求などが地方自治法で保障されています。福岡県の介護保険広域連合の「議会」には、住民団体が議会傍聴を系統的に行い、その内容を住民に知らせながら制度や運営の改善を求める運動を続けています。

 住民との関係が遠くなる一方、国には「助言」の名をかりた介入や、「財政調整交付金」を使った誘導など大きな指導権限を与えています。このままでは、広域連合が、国いいなりの“保険料取立て・給付抑制”の出先機関になる恐れがあります。厚生労働省保険局長のいう「何らかの形」を実現することが大事ではないでしょうか。

◆均等割―この不平等なしくみの改善を

 第12に、広域連合の共通経費(事務費)の負担割合に均等割を認めることは、数十万人を超える大きな市と1万人未満の小さな町が、この部分では同じ負担を課せられることで、小さな町ほど重い負担をさせられるのです。きわめて不平等が生まれ、改善されなければなりません。

 独立した新たな医療制度を制定することでそれに係る経費負担は、役職員・議員の給与・報酬や、事務所費・運営費など軽くありません。これまでの老人保健制度にはなかったこれらの支出は、「行財政改革」に逆行するだけでなく、今後も増え続けることが予想され、格差も拡大していくのです。

 「小さな町でも事務費はかかるのだから均等割は当然」という考え方がありますが、自治体が協同して事業を進めるようなときには、まさに「協同の精神」からいっても悪しき慣例になっているこうした格差はなくすべきです。

 厚生労働省のモデル規約案では、共通経費の負担割合について、@高齢者人口割、A人口割、B均等割を示していますが、均等割は導入すべきではないと考えます。高齢者人口割と人口割としても、理論的整合性はとれる筈です。

◆都道府県に「給付費削減」を競わせる

 『高齢者の医療の確保に関する法律』をはじめとした「医療改革法」では、公的保険給付範囲を削減・縮小することとあわせて、都道府県が「医療費適正化計画」を策定し、5年毎に結果を検証していくことが決められました。

 都道府県は、「適正化計画」に、「平均在院日数の短縮」、「在宅みとり率の向上」などの数値目標を定め、その達成を求められます。

数値目標の達成が困難な都道府県に対しては、厚生労働大臣の指示で、その県だけに適用される診療報酬を導入するなど、ペナルティとなりかねない仕組みも導入されています。

 「医療費適正化」とは、都道府県を国の出先機関とし、「いかに患者に保険医療を使わせないか」を競争させることではないでしょうか。

亡くなるまで高齢者本人から保険料を取り続け、「心身の特性にみあった給付」の名の下に格差医療を提供するにとどめ、保険料を支払うことのできない場合のペナルティーは現役世代並みという、世界に類を見ない、過酷な高齢者医療保険制度を、このまま実施することは認めることはできません。

 

◆広域連合の改善方向―規約の是正を

 国にこれらの問題点を是正していくよう強く求めていく必要があるとともに、当面、広域連合の規約に次の3点を盛り込んで是正すべきです。

@広域連合議会で重要な条例案の審議を行う場合、高齢者等から直接意見聴取する機会、例えば公聴会などを実施し、広域連合議員にはそこに出席することを義務付けること。

また、被保険者の声を直接聴取する恒常的な機関として、市町の国民健康保険運営協議会に相当する「協議会」の設置について、積極的に検討すること。

A一定の基準を設けて、業務報告や財務報告等の各市町議会への報告を義務付けること。

B住民に対する情報公開の徹底を義務付けること。

 自治法により自治体として扱われる「広域連合」に対して、住民による請願・陳情権や

条例制定の直接請求権は保障されていますので、今後は、住民の声と広域連合議会での審議

を結びつけて、抜本的な是正を図っていくことが必要だと考えます。

 以上、国民皆保険制度を維持・充実するためにも、多くの問題点を含む後期高齢者医療制度を、より良いものに改善する立場で、主な問題点と改善方について要望いたします。

以上