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地域医療の再生に逆行する財政制度等審議会の議論に対する見解

                    2009年5月21日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇


  財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会は、6月の「建議」で社会保障費の一律抑制からの転換を提言する方向であると報じられている。医療・介護崩壊が大きな社会問題となる中、世論と運動がつくり出した変化といえる。
 看過できない問題が、医師の偏在是正を巡る審議会の議論である。審議会では最大の課題とされ、「規制的手法」として、自由開業医制への「公的な関与」を強めることが示された。診療科ごとに開業できる枠を設ける案を検討するとの報道もある。また、「経済的手法」として、診療報酬の配分の見直しが示され、特定の診療科への配分や診療所から病院への振り向け、地域別の診療報酬の導入も示唆している。

 医師偏在の大元は、OECD水準に13万人不足している医師の絶対数の不足である。政府による長年の医療費抑制政策とその帰結である医師不足がもたらしたものである。臨床研修医に行ったアンケート調査(東大先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座 調査研究班)では、医師不足地域で「短期間」または「長期間」の就労をしてもいいと回答した研修医は91.2%にのぼり、就労条件で最も多かったのは「休暇がとれる勤務体制」であった。このことからも、医師の本格的な養成と医師が安心して働ける環境改善に思いきって公費を投入することが、地域医療の再生への大道といえる。

 診療報酬の配分見直しでは、収入格差に議論をすり替え、開業医と勤務医の対立をことさら煽り、医療費総枠拡大で一致している医療界にくさびを打ち込もうとする意図が窺える。しかも、医療費総枠は増やさない「財政中立」に過ぎないとみられる。しかし、中医協の「医療経済実態調査」では、開業医(個人立医科無床診療所)の収支差額は01年以降減少傾向にあり、07年調査では開業医の収支差額(最頻値)と病院勤務医の年収はいずれも1400万円台で同じ水準である。また、労働時間についても、保団連が行った「開業医の経営・労働実態調査」では、週当たりの平均労働時間は40歳代から70歳代までどの年代でも50時間を超え、60歳代、70歳代でも病院勤務医の平均従業時間を大きく上回っている。時間外労働時間に至っては過労死ラインの月60時間をどの年代も超えている。さらに、全国の医科診療所数が07年で約700、08年は約130程度の純増にとどまり、従来と比べて大幅に落ち込んでいる。こうした医療現場の実態を踏まえ、地域医療を支える開業医の役割を診療報酬で正当に評価する必要がある。

 わが国の国民皆保険制度をフリーアクセスとともに支えているのが自由開業医制である。強制的な開業規制による地域別、診療科別の事実上の定員制の導入は、地域医療の崩壊を加速させ、地域間の健康・医療格差を助長するものであり、断じて容認できるものではない。さらに、全国一律の公定価格である診療報酬に、都道府県によって公定価格が異なる診療報酬を導入されるならば、同じ医療サービスの費用が地域によって変わることになり、地域医療を支えている医療機関、そして患者、住民に大きな混乱をもたらすことになる。

 医療費総枠拡大をせずに、診療報酬の配分だけの見直しに終始すれば、医師不足であえぐ病院だけでなく歯科診療所を含む医療界全体が崩壊の危機に立たされる。地域医療の崩壊が大きな社会問題となり、麻生首相も地域医療の再生をわが国の飛躍の糧にすると表明している中、これに逆行する財政制度等審議会の議論はただちに改めるべきである。

以上