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「医療の国際交流」(医療ツーリズム)は医療崩壊に拍車をかける

                               2010年12月14日
全国保険医団体連合会
政策部長 三浦 清春

 

 政府が進めている「医療の国際交流」(医療ツーリズム)は、外国人を受け入れる医療機関のネットワーク化、国による認証制度の創設、支援会社(官民出資)の設立、外国人向けの医療ビザの創設、「医療特区の認可」などが具体策として示されている。営利企業も投資などを通じて関与することになる。
国籍や人種を問わず患者を診察、治療することは、人道的見地からも医師の当然の責務である。また、国民への保険診療を適正に行った上で、保険外診療の外国人患者を受け入れることまで、否定するものではない。

しかし、公的保険外の医療市場を拡大する「医療の国際交流」(医療ツーリズム)は、旅行代理店など営利企業が、富裕外国人に狙いを定めて日本に誘致することになる。しかも、政府が受け入れ医療機関の認証制度など全面的にバックアップすることは明らかに行き過ぎである。

公的保険外で高額な治療費を支払う外国人患者を受け入れることが拡大・定着するならば、受け入れ医療機関において利潤追求のための患者の選別や医師の過度な確保・集中が危惧される。わが国の医師不足や地域医療崩壊の現状に拍車がかかることになる。また、公的保険外の医療市場が拡大することは、原則禁止とされている混合診療の原則解禁を後押しすることにもつながる。

さらに、「医療の国際交流」(医療ツーリズム)の中には、いわゆる「移植ツーリズム」も含まれると考えられる。すでに、神戸国際フロンティアメディカルセンター(2012年開業予定)では、移植医療患者の受け入れを準備している。

外国人を対象とした臓器移植による利潤追求を、官民一体で成長牽引産業と位置付けることは、「一歩間違えば臓器売買につながるおそれがある」(神戸市医師会長・神戸新聞2010年9月24日付)。生命倫理を脅かす「移植ツーリズム」は、WHOや国際移植学会の見解など国際的な流れに反しており、容認できるものではない。

そもそも我が国の医療提供体制(人的・施設的資源)は、国民皆保険制度の下、国民の長年にわたる税金や保険料を原資にして築かれてきたものである。そして、非営利を大原則にしている。政府や財界の医療の「成長牽引産業」化政策のもと、国民が犠牲になったり、医療が儲けの対象になったりしてはならないのである。

以上