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2011年12月16日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

2012年度「税制改正大綱」について

 

12月10日、2012年度「税制改正大綱」が閣議決定されました。
深刻なデフレ、雇用劣化、震災に伴う倒産等の増大の中、内需回復・格差是正など国民生活の再建に向けて、家計への直接・大胆な支援とそれを裏付ける所得再分配機能を十分に発揮できる税制の再構築が求められています。
しかし、「大綱」は、「新成長戦略」の実現に向けて、大企業への優遇税制は延長・新設する一方で、家計に打撃を及ぼす消費税増税は推進するとしました。“大企業・大資産家を支援すれば、経済が良くなり、暮らしも良くなる”という既に破綻した発想であり、これでは内需回復、デフレ脱却から税収増への途は望めません。以下、今回の「大綱」について本会の意見と要望を述べるものです。

税収全体の減収の懸念 消費税増税
消費税について、来年3月末までに増税法案を提出・成立させるとした09年度税制改正法附則104条に従って、税率引き上げなどの「具体化に向けた議論を加速」するとし、増税推進の姿勢を強く打ち出しています。
しかし、09年総選挙では、当時の鳩山代表は、“任期中の消費税は増税しない”と明言して、政権交代を実現しました。次の選挙を待たずに、増税法案を成立させる行為は公約違反といわざるをえません。震災で経済が更に疲弊する下、消費税を増税すれば、一層の景気悪化を招き、税収全体の落ち込みさえ懸念されます。

大企業の減税は容認
減税総額の大半を大企業が占める研究開発減税について上乗せ措置が2年延長され、リストラ促進への公的支援といえる登録免許税の軽減措置も2年延長されています。
自動車業界などが廃止を要求した自動車重量税・取得税については、重量税1,500億円の減税、エコカー減税(一部見直し)の3年延長を盛り込み、第4次補正予算案でエコカー補助金3,000億円を計上します。安住財務相は「自動車産業には日本経済の牽引役になってもらう」と述べ、これらが自動車産業への支援策である点を認めています。
復興増税では、国民には25年に渡り8.3兆円の負担増が課される一方、大企業には5%の恒久的な法人減税を行った上で、3年に限り付加税(1割分)を課すにすぎません。25年間では、むしろ約20兆円の法人減税です。この上、大企業への減税は行きすぎです。300兆円に及ぶ内部留保を蓄積する大企業に対して応分な税負担を求めるべきです。
また、「財源がない」として、国民に社会保障の抑制・削減、消費税増税を迫る一方で、経済界の要求であれば、政府自らが定めた税収中立原則を反故にしても認めるという姿勢も到底容認しえません。

累進課税の強化を 所得税
11年度改正の積み残しとして、所得再分配の機能の回復の視点から、所得税・住民税について年収1500万円超における給与所得控除の上限設定、役職員等(勤続5年以内)への退職手当に係る2分の1課税の廃止が引続き盛り込まれました。他方、減収の主因といえる所得税の最高税率は据え置かれ、11年度大綱に記された相続税の最高税率の引き上げも見送られました。
消費税の導入以降、所得税・住民税を合算した最高税率は76%から50%へ、相続税・贈与税の最高税率は70%から50%へ低下し、税率構造のフラット化による累進度の低下の中、深刻な税収不足を招いています。所得2000万円超の階層における最高税率の引き下げに伴う減税額は2.2兆円といわれています(09年分の確定申告)。所得再分配の強化を目指すのであれば、最高税率を引き上げと累進課税の強化を図ることこそが必要です。

総合課税の徹底を 金融所得課税
2010、11年度「大綱」では、“金融資産の流動化”や“個人金融資産の有効活用”による経済活性化を理由に、総合課税を理想としつつも当面の措置として、「金融所得課税の一体化」を進める姿勢が打ち出されています。
しかし、これでは歴代政権と同様に、総合・累進課税は放棄し、勤労所得は累進税率、金融所得は低比例税率というスタンスと変わりありません。
既に、本来累進的であるべき所得税の負担率は、1億円を超える高所得層では逆に低下する現状にあります。勤労所得=累進税率、金融所得=比例税率の方針は撤回し、応能負担に基づく総合・累進課税の姿勢を明確に打ち出すべきです。

適切な精査と慎重な検討を 4段階税制 
社会保険診療報酬の所得計算の特例(4段階税制)について、会計検査院の指摘に留意しつつ、「小規模医療機関の事務処理の負担を軽減する」という特例の趣旨に沿ったものとなるよう、「課税の公平性」の観点を踏まえ、厚労省で適用実態を精査した上で、13年度税制改正で検討するとしました。
しかし、本特例は、小規模・高齢の医療機関の記帳負担軽減を図るとともに、低診療報酬を税制面で補完することで、地域医療提供体制を整備する政策税制として導入された経緯があります。
診療報酬の水準等を考慮しないまま、事務負担軽減の観点から、「課税の公平性」を強調した見直しを行えば、記帳はしているが経営が厳しい小規模医療機関などへの課税強化が懸念されます。診療報酬の水準も踏まえつつ、現場の実際の声や診療実態も含めた精査に基づく慎重な検討が必要です。

医療の公共性を守る 事業税非課税
社会保険診療報酬に係る事業税の非課税措置は、「国民皆保険の中で必要な医療を提供する」、「税負担の公平を図る」観点を考慮しつつ、地域医療を確保するために必要な措置について検討するとされました。
事業税は、収益事業の追求に際しての行政サービス享受に対する経費負担とされ、原則上、所得に課されています。
他方、医療は、国民の命と健康を守る、診療報酬は公に定められ、国民皆保険制度と密接不可分の関係にある点、非営利性、応召義務、健診・予防接種等の地方自治体サービスに主体的に携わるなど、極めて高い公共性・公益性を持っています。保険医療は、収益事業ではなく、公共サービスの一翼を担う以上、非課税措置は当然です。今後とも、全国一律の形で非課税措置を存続させるべきです。
医療法人への軽減税率について13年度改正で検討とされましたが、助産師業(個人)が非課税とされる点を考慮し、正常妊娠・正常分娩に係る所得は非課税とすることを求めます。

早急な制定を 「納税者権利憲章」
「納税者権利憲章」の制定が、当初の2011年度税制改正関連法案には明記されていましたが、民主・自民・公明の3党協議を通じて項目が削除され見送られています。今回の「大綱」でも、具体的な「憲章」制定の記述は盛り込まれていません。
11年度改正では、税務調査における帳簿類等の提示・提出の罰則付きでの強要、税務調査の遡及期間の5年への延長(現行3年)、調査官による修正申告の強要の合法化、調査終了後の再調査権の創設、小規模零細事業者への記帳の義務化など納税者の義務強化という驚くべき改正が行われました。    
現在、医療機関での税務調査(一般の任意調査)では、安易な反面調査、帳簿類等の持ち帰り、カルテ開示、修正申告の無理強いなど行き過ぎた調査が依然として行われています。自主申告制度の理念を尊重した納税者と税務行政の間の相互信頼に基づく調査を行う上で、先進国では当たり前とされる「納税者権利憲章」の実効性のある形での早期制定を求めます。

租税回避規制、総合累進課税を 共通番号
社会保障・税の共通番号では、税務分野で必要となる対応について「社会保障・税番号大綱」を踏まえ、「番号法案」の具体化を受けて検討するとしています。
しかし、導入目的の一つとされている正確な所得等の把握では、「事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界がある」としています(「番号大綱」)。しかも、金融資産への低率の比例分離課税を構築する方向が示される中で、番号制度を導入すれば、担税力の弱い庶民の勤労所得だけが捕捉される事態が懸念されます。
本会は「共通番号」導入に反対ですが、仮に「正確な所得把握」のための番号制を導入するのであれば、利用目的を限定し、公平・公正を期すために、どのような租税回避手段も許さない厳格な規制や総合累進課税の強化こそが必要です。

以上より、私たちは、国民の生活と医療、医業経営を守る立場から、応能負担に基づく直接税中心の総合・累進課税、生活費非課税など民主的税制の確立・徹底を要望するとともに、2012年度「税制改正大綱」の見直しを求めるものです。