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【談話】 国民皆保険の充実に逆行する
医療保険制度改革法案の撤回を求める

2015年3月4日
全国保険医団体連合会
政策部長 三浦 清春

一、政府は3月3日、国民健康保険法、健康保険法、高齢者医療確保法などを一括した医療費抑制策を柱とする医療保険制度改革法案を閣議決定した。
 改定案では、@在宅医療との公平性を理由に入院時食事代の自己負担を2倍近く引き上げ、A大病院に受診せざるを得ない場合でも、紹介状がなければ通常の窓口負担に追加して5000円〜1万円までの定額負担を義務化する、B75歳以上の高齢者の6割、865万人の保険料値上げなど、全ての世代に負担増を押し付けるものとなっている。経済的理由で患者になれない病人≠ェ増加しているなかで負担増を強行すれば、重症化が進み医療費はかえって増大することが懸念される。

一、看過できないのは、保険外併用療養の制度に患者の自己責任による「患者申出療養(仮称)」を創設することである。現行の先進医療と同等の有効性・安全性を確保するとされているが、先進医療の対象外の患者や、先進医療で実施されていない治療法や未承認薬も対象とされている。安全性・有効性が未確立なまま実施されている自由診療や、なんらかの理由で先進医療として実施できない臨床研究にまで保険外併用療養の範囲を広げ、医療保険の財源が流用される危険性を抱えている。患者の安全性が脅かされることが懸念される。

一、国保制度については、都道府県を保険者にして財政運営に責任をもたせるとしている。県は年間の医療費見込みをたて、それに見合う市町村ごとの納付金の額を決定する。
 市町村は割り当てられた納付金を100%納めるため、収納率実績を踏まえ、納付金の額より多めに保険料を徴収することが想定される。今でも高い保険料がさらに値上がりすることが懸念される。 
 納付金の額の決定には、市町村ごとの医療費水準を反映させ、医療費と納付金がリンクする仕組みを導入する。医療費抑制に取り組む自治体への財政支援も行うなど医療費抑制の新たな仕組みをつくるねらいである。

一、都道府県が策定する医療費適正化計画では、医療費水準や病床再編、後発医薬品の使用割合などの目標値を設定し、医療費の実績が「医療に要する費用の目標」と乖離した場合の要因分析と対策強化を求めている。都道府県を医療費抑制の推進役にするものだが、厚労省の審議会では、「目標として設定し、都道府県に結果責任を負わされても責任は持てない」との反対意見が出されている。

一、「社会保障プログラム法」が規定した「自助努力が喚起される仕組み」を具体化し、保険者が医療機関を一定期間受診しなかった加入者に対して、「保険料への支援」や現金の支給を実施できるようにする。財政的な増減を生じさせない仕組みとされており、健康づくりを怠り、疾病リスクが高くなった加入者にはペナルティーを科す方向である。国民を医療費抑制に駆り立てる仕組みを作ることが懸念される。保険料は所得に応じて、保険給付は平等にするという国民皆保険の原則を崩すものである。

一、法案は、@保険給付の範囲、A患者負担、B医療費適正化に関する施策について、「さらに検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる」という検討規定を盛り込んだ。さらなる給付縮小・負担増の道筋をつけようとするものである。
 「必要な医療が公的保険で受けられる」という国民皆保険の本質を守り、充実させるべきである。それに逆行する医療保険制度改革法案は撤回することを強く求める。   

以上