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【談話】一般診療所の損益差額・率ともに減少
―多くの診療科で経営が悪化
診療報酬マイナス改定に強く反対する

2015年11月24日
全国保険医団体連合会
政策部長(医科) 三浦 清春
政策部長(歯科) 池 潤  

 

 

 厚生労働省は、11月4日の中医協総会で、「第20回医療経済実態調査」を報告した。2015年3月末までに終了する直近の2事業年(度)の数値が示されている(以下、前年(度)を「2014年度」、前々年(度)を「2013年度」と記す)。
 有効回答率は一般診療所52.6%と、前回調査比で+2ポイント増えたが、回答施設数は1,637と前回の1,715を下回っている。歯科診療所51.8%は▲3.3ポイントと前回を下回り、回答施設数も585と前回の645を下回っている。
 今回の調査では、簡素化を図るとして第17回医療経済実態調査(2009年実施)以後に廃止されていた最頻値(「最頻損益差額階級の損益状況」)が公表された。
 保団連は、医療機関の実態を偏りなく明らかにするために、損益差額等の最頻値を示すよう要請してきた(2013年調査への談話)。こうした要請が実り、中医協における議論でも、平均値と最頻値に差が生じているので実態をつかむ上で最頻値の公表が必要との意見が出されていた。調査結果から、これまで示されてきた平均値と最頻値に大幅な開きがあることが改めて明らかとなった。
 一方で、医療経済実態調査は、@定点調査は2年単位でしか比較できない、A集計区分によっては回答施設数が一桁の診療科がある、B事業年度の対象期間が施設によって異なるため診療報酬改定年度通年の影響を反映できない、など多くの課題がある。本調査だけを診療報酬改定の基礎資料とすることは不十分である。

1、全体の概要 一般診療所全体の損益差額は減少 一般病院も赤字傾向

 入院を含む一般診療所全体の医業収益の平均値の伸び率(2013年度から2014年度比。以下同年度比較)は▲0.2%、損益差額率は▲0.6ポイント悪化している。最頻値では、医業収益▲1.5%、損益差額率は▲0.8ポイント悪化となっており、最頻値のマイナス幅が大きい。厚生労働省は「一般診療所全体の損益率は、入院収益の有無に拘わらず悪化している」と指摘している。
 一般病院は消費税負担の増大もあいまって病床規模にかかわらず赤字が継続しており、国公立、医療法人を含む一般病院全体の損益差額率は▲1.7%から▲3.1%へと大幅に拡大している。これでは十分な人材確保や設備改善による地域医療体制の充実は望めない。
14年度診療報酬改定は、消費税対応分を除くと実質マイナス1.26%であった。このため、設備投資が大きく、増税による仕入れコストが増えた大病院ほど悪化したことが考えられるが、その影響は一般診療所にも及んでいることがうかがえる。
 歯科診療所(個人)の損益差額はわずか4千円増と変わっておらず、前回調査でもわずか13万円増で経営改善にほど遠い改定であったが、今回調査も同様の結果となっている。また、有効回答施設数は585施設であったが、平成17年755施設、平成19年711施設、平成21年661施設、平成23年603施設、平成25年645施設と、医科に比べても少なく、年度ごとにも減少してきており、歯科医療現場の実態にはほど遠い調査といえる。

2、診療所(個人・無床診)の損益差額・率ともに悪化 損益率30%未満が半数

 医業・介護収益の平均値は、+0.2%の伸びで14.2万円の微増となったが、前回調査の191万4千円増と比べると大幅に低下している。
 医業収益の平均値でみると、増加したのは「公害等診療収益(労災、自賠責等)」(+6.3%)である。「その他診療収益(自費等)」(+1.1%)と、「保険診療収益」(+0.1%)はほぼ横ばいで、減少したのは「その他の医業収益(健康診断、文書料等)」(▲1.1%)となっている。
 医業収益の最頻値は▲0.8%と悪化している。「その他診療収益(自費等)」は+0.3%だが、「公害等診療収益(労災、自賠責等)」(▲9.6%)、「保険診療収益」(▲0.4%)、「その他の医業収益(健康診断、文書料等)」(▲5.1%)と、のきなみ減少している。
 医業収益の平均値と最頻値では、2000万円近くの差が生じている。

 医業・介護費用の平均値は+0.7%の伸びで、44万4千円増加した。「材料費」(+5.5%)「委託費(検査、医療廃棄物等」(+3.3%)、「給与費」(+1.1%)が増加している一方で、「減価償却費」(▲2.1%)、「医薬品費」(▲0.1%)が減少している。
 最頻値は▲0.7%と34万8千円減少している。最も減っているのは「減価償却費」(▲7.3%)、次いで「医薬品費」(▲2.9%)、「給与費」(▲0.8%)である。増えたのは「委託費(検査、医療廃棄物等)」(+3.5%)、「材料費」(+3.3%)、「その他の医業・介護費用(経費、支払利息等)」(+2.5%)である。
 平均値、最頻値ともに、「委託費(検査、医療廃棄物等)」「材料費」が増えており、「医薬品費」が減少している。委託費と材料費の増加は、消費税8%への増税によるもの、医薬品費は、後発品使用促進と受診延べ日数減少(メディアス)の影響と思われる。また、「給与費」は平均値では増え、最頻値では減っており、多くの診療所では給与費を減らしている傾向が現れている。
 医業・介護費用の平均値と最頻値は、約1000万円の差が生じている。
 損益差額の平均値は、2641万8千円→2611万5千円と30万3千円減少(▲1.1%)している。前回調査の171万2千円増加(+7.0%)と比べ大幅に低下している。最頻値は、1771万7千円→1756万円と15万7千円減少(▲0.9%)している。平均値と最頻値には900万円近くの開きがある。
 損益差額率の平均値は、30.6%→30.2%と▲0.4ポイント悪化している。最頻値は、26.2%で変化なしとなっている。
 診療科別の損益差額率(平均値)では、9科のうち7科(内科、小児科、精神科、外科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科)と8割近くの診療科の経営が悪化している。マイナス幅が一番大きかったのは、皮膚科▲1.0ポイントで、次いで内科▲0.7ポイント、耳鼻咽喉科▲0.6ポイントなどとなっている。保険診療収益では内科(▲0.5%)と皮膚科(▲2.4%)がマイナスとなっている。
 損益率の分布は、20%未満の診療所は26.4%→28.7%と増加している。14年度では損益率30%未満が49.1%と、医科個人診療所の約半数を占めている。最も割合が多いのは、20%以上30%未満療診療所(21.4%→20.4%)である。

3、医療従事者の給与等

 14年度の診療所(医療法人・無床診)院長の給与等は▲0.7%と減少し、勤務医は+3.4%となっている。
診療所(個人・無床診)の勤務医の給与等は、▲0.5%と減少している。
 医療経済実態調査は無作為抽出による調査で一般診療所の回答施設数も1,637施設しかない。厳しい経営の医療機関は調査に協力できかねる傾向があるにもかかわらず、診療所(個人・無床診)の最頻値だけでなく、平均値の損益差額も減少しており、多くの医科個人診療所の経営は厳しい状況であることがうかがえる。
 診療所の損益差額、院長給与等がともに減少しているにもかかわらず、診療報酬本体のマイナス改定を行えば、さらなる地域医療の崩壊を招きかねない。2025年に向けて在宅医療充実をめざす政府の方針とも逆行するものと言わざるを得ない。
 国民皆保険制度のもとで、地域医療を支える診療所や中小病院の存続のためにも、診療報酬を引き上げることが必要である。

4、歯科個人診療所(個人)について

 医業収益の平均値は、+0.3%の伸びで11.8万円の微増となったが、前回調査の33万円増と比べると大幅に低下している。
 医業収益で増加したのは、「労災等診療収益」」(+26.7%)である。「その他診療収益(自費等)」(+1.5%)と、「保険診療収益」(+0.0%)はほぼ横ばい、「その他の医業収益」(+3.8%)は微増となっている。
 最頻値の伸びは+1.2%とほぼ横ばいである。増加したのは「その他の医業収益(健康診断、文書料等)」(+17.3%) 、「その他診療収益(自費等)」(+2.5%)で、「保険診療収益」(+0.8%)はほぼ横ばいであった。
 医業収益の平均値と最頻値は500万円近くの差が出ている。

@ 医業・介護費用

 平均値は3万9千円、+0.4%の微増であったが、前回調査と比較すると、▲332.4万円と大幅に減少した。「医薬品費」(+5.8%)、「歯科材料費」(+4.6%)などが増加し、「委託費」(+0.7%)、「給与費」(+0.3%)は微増であった一方で、「減価償却費」(▲4.2%)が減少している。
 最頻値は0.7%、17.7万円増加している。増加したのは「歯科材料費」(+8.2%)で、「給与費」(+1.4%)は微増であった。減ったのは「減価償却費」(▲3.1%)、「医薬品費」(▲1.6%)、「委託費」(▲1.0%)、「その他の医業費用」(▲1.0%)である。
 平均値、最頻値ともに、「歯科材料費」が増え、「給与費」は微増であった。「減価償却費」、「その他の医業費用」が減少している。
 医業・介護費用の平均値と最頻値は、330万円前後となっている。

A 損益差額

 平均値は、1274万2千円→1274万6千円と4千円増のほぼ横ばいとなっている。前回調査の13万増加(+1.2%)と比べ大幅な低下といえる。最頻値は、1085万8千円→1111万円と25万2千円(+0.4%)増加している。平均値と最頻値には170万円近くの開きがある。

B 損益差額率

 平均値は、31.3%→31.3%と横ばいである。最頻値は、30.6%→31.0%で+0.4%となっている。
 損益率の分布は、20%以上30%未満療診療所の割合が最も多い(18.2%→19.1%)。

C 医療従事者の給与等

 14年度の歯科診療所(個人・無床診)の歯科医師は、+3.5%と増加しているが、前回調査と比較すると▲13万5千円と減少している。

 2013年度の「実調」をふまえ、「歯科医療機関の実態と乖離する医療経済実態調査〜医療保険データベース(MEDIAS)との比較・検討〜」(2013年12月18日。PDF)を示した。そこでは、「実調」の数値をもって、すべての状況を反映しておらず、次期診療報酬改定の基礎資料とするとはならないと指摘した。そのうえで、「実調」の集計に当たっては今後「全体」の表示とともに、5分位階級区分など実態を偏りなく表示するなどのさらなる工夫と改善が望まれる。また保険診療収益、損益差額等の中央値、最頻値(平成21年度以降示されていない)を提示すべきであると指摘した。この点では、くりかえし保団連が要請した結果、改善はみられるが、「最頻損益差額階級の損益状況」の回答施設数が60施設と歯科医療機関の実態を反映したものとなっていない。
 歯科医療の現状を打開し、安心、安全、良質な歯科医療を確保するためには、医療費を総枠拡大し、次期診療報酬改定での技術料を中心とした大幅引き上げとともに、患者負担の軽減を早急に実現することが強く求められる。

以上