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保団連第47回定期大会活動方針(案)

社会保障と平和を守り、医療・介護充実を地域から

(全国保険医新聞2015年11月25日号より)

2016年1月30、31日の保団連第47回定期大会で議論される活動方針(案)です。

T.保団連第47回定期大会の目的

U.前大会で提起した「運動の基本姿勢」からみた成果と教訓

1.安倍政権の暴走に不安を抱く人々との協力、共同を広げる
2.審査、指導、監査、医業税制など保険医の切実な要求での活動の重視
3.日医、日歯、病院団体など医療関係団体との連携
4.会員、国民の疑問に答える提案を重視する
5.待合室から、医療を守り、政治を変える世論を広げる
6.高齢社会のもとで「健康で安心して住み続けられるまちづくり」をめざし保険医の役割を高める
7.分断攻撃を許さず生活保護を守り、格差と貧困の解消をめざす
8.いのちと健康を守る医師、歯科医師として憲法無視を許さない
9.東日本大震災復興対策 被災地の医療費助成復活の取り組み
10.保団連創立50周年(2019年)に向けた組織拡大目標の到達点 

V.情勢の特徴と今期の活動で重視すべき視点と課題

1.社会保障と平和を守る勢力が多数を占める国会を求める
2.アベノミクスを中止し、社会保障拡充と経済活性化の好循環を作り出す
3.社会保障改悪から拡充への転換を求める運動
 (1)社会保障の全面改悪をねらう安倍政権 プライマリーバランス論のごまかし
 (2)医療・介護充実の建設的提案を重視する
 (3)公的給付抑制の医療・介護の供給体制再編でなく「健康なまちづくり」を
 (4)新たな負担増を許さず、患者負担の軽減を求める声を待合室から高める
4.医科歯科一体、開業医と勤務医の連携で「開業医医療(第一線医療)」のさらなる発展をめざす
5.歯科医療の危機的状況を打開し、保険で良い歯科医療を
 (1)歯科医療の危機打開を以下の3点から追求する
 (2)保険で良い歯科医療の実現を求める運動

W.各分野の重点課題

1.医療へのゼロ税率適用と消費税増税の中止
2.地域の医療・福祉改善と第一線医療の発展をめざす活動
3.審査、指導、監査、適時調査対策
4.マイナンバー、医療のICT化への対応
5.「医療安全」に徹した医療事故調査制度の実現
6.医業税制、税務行政の改善の取り組み
7.東日本大震災から5年 被災地の医療費助成復活、福島原発事故対策
8.原発再稼働中止と原発ゼロの取り組み
9.TPP協定の国会承認・批准を許さない
10.生活保護の老齢加算復活を求める生存権裁判など生活保護を守る取り組み
11.平和、民主主義、人権を守る活動
12.組織拡大・強化、共済制度普及活動、ブロック活動の強化
13.勤務医対策、女性部、文化部の活動



T.保団連第47回定期大会の目的

 本定期大会の目的は、以下の通りである。
 @前定期大会以降の活動の成果・教訓を明らかにする。
 A社会保障の連続改悪、安保法制の強行、消費税増税など国民世論無視の政権運営を続ける安倍政権に対する国民の怒りが沸騰している。この世論をさらに高め、社会保障と平和を守る勢力が多数を占める国会を求める。このことは、安保法制の廃止とともに保険医の要求実現にとっても大きな展望を開くことになる。すでに安保法制反対の世論の空前の広がりを前にして、「骨太方針2015」で提起した患者負担増計画は2016年春の通常国会に提出予定の改悪法案はなく、実施の検討も実質的に7月の参議院選挙後に先送りとなった。また、財務省が強く抵抗していた消費税の軽減税率をめぐっては、安倍首相が突如導入を指示するなど、来年の参議院選挙での支持をつなぎとめるための対策を打ち出さざるを得ない状況である。TPP、「新三本の矢」、原発再稼働など審議すべき課題が山積みの中での臨時国会見送りも、国民世論に安倍政権が追い込まれているからである。安倍政権の暴走に不安を抱く幅広い人々と連携し、待合室から医療、社会保障、国民生活、平和・民主主義を守る世論、政治を変える世論を広げる。こうした視点から、情勢の特徴を明らかにし、保険医の要求実現、地域医療における開業医と勤務医、地域住民との連携など保険医の役割強化、組織の拡大強化をめざす活動方針を決定する。
 B組織の総意で決定した方針を実践する新しい執行部を選出する。

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U.前大会で提起した「運動の基本姿勢」からみた成果と教訓

 前回大会で提起した8つの「運動の基本姿勢」からみた成果、教訓、および東日本大震災対策、組織の拡大強化の総括は、以下の通りである。
なお、活動の詳細は、別途資料の各専門部報告を参照のこと。

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1.安倍政権の暴走に不安を抱く人々との協力、共同を広げる

 協会・医会、保団連は、安倍政権下での医療制度改悪の推進、保険医の人権を侵害する指導・監査、歯科低医療費政策、TPP交渉推進、安保法制強行といったまさに「暴走」ともいうべき動きに対し、各界・各層との対話と共同行動を旺盛に進めてきた。
 2014年度の医療介護総合法案、医療改革関連法案の国会審議において、本田宏氏(済生会栗橋病院院長補佐・当時)、川嶋みどり氏(日本赤十字看護大学客員教授)、伊藤真美氏(花の谷クリニック院長・千葉協会会員)を呼びかけ人に、医療団体連絡会(医団連)、中央社保協が事務局団体となって、2014年「輝け! いのち4・24ヒューマンチェーン行動」、2015年「いのちまもるヒューマンチェーン会議」が結成された。この2つの組織は、それぞれの法案廃案を求める運動の共同センターとしての役割を担った。保団連は、医団連・中央社保協の構成組織として運動の牽引力を担った。運動の過程で広範な団体との懇談や共同行動を行った。例えば、2014年には日本医師会・日本看護協会との懇談、2015年には日本難病・疾病団体協議会(JPA)、全国パーキンソン友の会、日本リウマチ友の会、全国腎臓病協議会、全国多発性硬化症友の会、東京難病団体連絡協議会との懇談や共同行動を行った。
 各協会・医会も例えば、2015年は、県難病団体連合会、県栄養士会や自治会、老人クラブ連合会、生協との懇談や患者署名への協力などが進められた。今後も患者・難病団体、地域団体などとの継続的な関係を築くと共に、これまで交流の少なかった県内各界・各層との共同を大胆に推進し、医療制度改善の大きな世論づくりを進める必要がある。
 指導、監査の改善では、日本弁護士連合会が「健康保険法等に基づく指導・監査制度の改善に関する意見書」を発表し、意見交換など関係を深めることができた。これは、これまでの生活保護問題での連携、同連合会の人権擁護委員会などとの交流が生かされたものである。
 地域医療の改善では、子ども医療費無料化の自治体助成の拡大、国保料引き下げなど国保の改善、保団連と24協会が賛同団体となっている「子ども支援ネットワーク」のワクチンパレードへの参加・協力などを行った。
 歯科分野の医療改善の取り組みでは、「保険で良い歯科医療の実現」を求める運動で患者団体などへの協力を広げるとともに、自治体意見書採択は、11道府県、597市町村議会(34.3%)に広がり、県下全自治体での意見書採択は大分に続き鳥取でも実現した。歯科技工問題でも、技工士との連携を強め、集会などを協力して開催するとともに、厚労省への要請を通じて技工士の実態調査の検討を促し実現の方向を確認した。
 TPP参加阻止のために、保団連は、「TPPに反対する弁護士ネットワーク」「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」「主婦連合会」の呼びかけに応え、医療・農業・生協・消費者・労働・NGO団体と共に、集会をはじめとする様々な取り組みを行った。協会・医会では、県医師会、県歯科医師会・農協・生協・消費者団体と共同での取り組みを継続的に行った。また、「モンサントの不自然なたべもの」「世界がたべられなくなる日」などの上映活動を県内各種団体と共同で行った。
原発再稼働阻止、原発ゼロの運動では、保団連が参加する「原発をなくす全国連絡会」とともに「首都圏反原発連合」「さよなら原発」の三団体共同の運動の発展に貢献した。
 今期最大の国民運動となった安保法制に反対する運動では、「総がかり行動実行委員会」に結集し、日弁連のシンポへの協力をはじめ、「SEALDs」、安保法案に反対する学者の会、同ママの会、映画人9条の会、芸人9条の会などと連帯して運動を進めた。日野原重明氏、香山リカ氏、全国自治体病院協議会の邉見公雄会長など安保法制に反対する医療関係者との連携も強めた。

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2.審査、指導、監査、医業税制など保険医の切実な要求での活動の重視

 @審査、指導、監査改善の取り組み
 「行政手続法の主旨に則った懇切丁寧な指導の実現」を求めて、日弁連の「健康保険法等に基づく指導・監査制度の改善に関する意見書」なども活用しながら、厚労省要請を行うとともに、国会の場でも複数の議員からの質問を実現した。
 こうした中で、歯科医師の大きな負担となっている個別指導の中断問題では再開の目途を示すこと、事前通知を4週間以上前にすること、持参物の指定範囲などについて検討するとの回答を厚生労働省から引き出した。
 また、情報開示については各協会・医会の努力により改善が進んだことや、厚生(支)局との懇談も近畿厚生局との懇談が10年ぶりに実現するなど前進と定着が進んだ。
 審査対策では、病名漏れや再審査請求等の取り扱いの改善を求め、国保中央会、基金本部への要請・懇談を実施した。「保険医のための審査、指導、監査対策 日常の留意点」、「カルテ記載を中心とした指導対策テキスト」の作成など各種テキストの普及や学習に取り組んだ。
 施設基準に対する適時調査の件数・自主返還額が大きく増加していることから、適時調査に対するアンケートを実施し、2014年12月に「過去の適時調査で指摘がなかった部分は、教育的な指導に限定し、自主返還を求めないこと。自主返還の期間は最大で過去1年間とすること」などを求める要望書を厚生労働大臣に提出した。
 また2014年2月まで日本看護協会がホームページで公開していた入院料の届出と日常管理に不可欠な「様式9Excel表」について、2014年3月より保団連ホームページで公開。「届出医療の活用と留意点」の各地での学習会開催など、適時調査対策の強化を図った。

 A医業税制改善、税務調査、ゼロ税率適用の運動
 消費税増税の中止とともに、地域医療に携わる医療機関の存続・経営安定に向けて、事業税非課税等の措置や四段階税制の存続、患者負担が生じない「ゼロ税率(免税)」導入を求める取り組みを進めた。
 消費税「損税」問題では、「ゼロ税率」による抜本的解決を求める会員署名を推進し、日本医師会、日本歯科医師会、政党や国会議員との懇談、要請で訴えた。2016年度の日本歯科医師会の税制改正要望にも「ゼロ税率」が解決策の1つとして盛り込まれるなど、「ゼロ税率」による解決策が最善であるとの認識が広がっている。
 税務調査対策については、国税庁や国税局交渉で、国税通則法に基づく調査手続きの実施、納税者の権利擁護を申し入れ、対応を強めた。

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3.日医、日歯、病院団体など医療関係団体との連携

 保団連も参加した2014年「輝け! いのち4・24ヒューマンチェーン行動」実行委員会は、日本医師会を訪問し集会賛同を訴え、同会の賛同を得た。続く秋の2014年10月の「いのちまもる 憲法いかす10.23国民集会」実行委員会も日本医師会を訪問、実行委員会構成団体メンバーが賛同を呼びかけた。その結果、集会に日本医師会の横倉会長、日本歯科医師会の大久保会長(当時)をはじめ多くの医療関係団体や著名人から賛同のメッセージが寄せられた。2013年以降、同実行委員会と日医との懇談が定着している。
 歯科独自の取り組みでも、2015年6月4日の「『“歯は命”健康長寿社会にむけて 保険で良い歯科医療の実現を』国会内集会」には、日本医師会、日本歯科医師会、日本歯科衛生士会、全国自治体病院協議会、日本病院薬剤師会、日本作業療法士協会などかつてない賛同が寄せられた。日本歯科衛生士会と懇談し、冊子「入院・介護と口腔」の活用をはじめ、歯科衛生士と歯科医師が診療現場や地域など様々な場で連携や協力を推進することで一致した。日本歯科放射線学会と歯科診療報酬改善要求で懇談し、要求への理解や関心を高めるとともに、学会側から日常診療におけるカルテ記載上の留意点などの助言を得るなど、今後の協力関係を広げることができた。
 協会・医会でも、会長・理事長の交代の際に新任挨拶で県下の医師会、歯科医師会など医療関係団体を訪問し、相互理解を深める経験が生まれている。

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4.会員、国民の疑問に答える提案を重視する

@宣伝、学習と政策提言
 第2回代議員会で「いつわりの財源論をうちやぶり、社会保障改悪阻止の取り組みを進める」ことを提起するなど、宣伝、学習活動の中で財源論を重視した。応能負担で財源を確保し、社会保障充実させること、経済にも好影響をもたらすことができることを提起し、プライマリーバランス黒字化のために社会保障費を徹底して抑制しようとする政府の「骨太方針2015」に対置した。
 医師・歯科医師の役割や地域医療の今後に影響を及ぼす「新専門医制度に対する運動と対応≠フ視点」「地域包括ケアシステムへの見解」などの政策提言を発表し、政府のねらいの批判とともに、こうしたものにすべきという提案を行った。医療事故調査制度に対しても、WHOドラフトガイドラインに基づき、本法律の目的である「医療安全」に徹し、患者・国民と医療担当者が理解し合える制度として機能するよう提起した。
 こうした保団連の提案、見解は随時『全国保険医新聞』、『月刊保団連』やホームページなどを通じて会内外に広く知らせた。

Aマスコミ対策
 保団連は、この2年間に6回のマスコミ懇談会を行った。近年は、全国紙を含め毎回10人〜20人の報道関係者が参加している。例えば、2014年度診療報酬改定直後のマスコミ懇談会では同一建物減算問題を取り上げた。その後、複数の新聞が追加取材を行い、協会の調査や主張を取り上げた形で報道がなされるなど一定の影響を与えることができた。
 協会・医会でも定期的なマスコミ懇談会を行うなど地元マスコミとの関係を強める努力を行っている。

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5.待合室から、医療を守り、政治を変える世論を広げる

 この大会方針にもとづき、2014年9月より「ストップ患者負担増」待合室キャンペーンが推進した。同キャンペーンは、医療改革関連法の廃案を求める取り組みとして位置づけられ展開された。具体的には「患者負担増をやめ、窓口負担の大幅軽減を求める請願署名」をはじめ、会員署名、リーフレット・クイズチラシ・署名付きポケットティッシュの活用、国会行動などを展開してきた。待合室キャンペーンそのものは2013年からはじまったが、保団連キャラクター「イツでもん、ドコでもん、ダレでもん」を活用し、ユーチューブ1分動画コマーシャルなど、「手にとりやすい、身近に感じる」宣伝物の企画・作成を進めた。
 患者署名は47協会が取り組み、宣伝物の活用や国会行動などを含めればほとんどの協会・医会がこの取り組みを進めてきた。署名の到達点は26万4418筆(2015年10月現在)となった。この間実施してきた2013年の「保険で良い歯科医療」約13万筆、「70〜74歳の患者窓口負担1割継続を求める」7.5万筆、2012年の「患者窓口負担大幅軽減」12.5万筆、2011年の「安心して受けられる医療の実現」約17万筆などと比較しても、一定の前進を勝ち取ることができた。
 一方で、キャンペーン推進の過程において、保団連理事会で「筆数の追求だけでなく、会員参加率をいかに高めるべきか」が提起され、各協会・医会でも会員参加率を高める努力が進められた。その到達点は、全国平均で約6%である。近年2〜4%で推移していた会員参加率を一定高めることができた。この背景には、いくつかの協会で目的意識的な追求が進められたことがあるが、全国的には十分な成果をあげたとはいえない。会員参加率の向上は、克服すべき課題となっている。過去最高の到達点は、2002年の「健保本人3割負担等の医療改悪阻止」署名の30%である。
 「骨太方針2015」をもとに2020年をみすえ、さらなる医療・社会保障削減計画が推進されようとしている。このような情勢のもと、会員参加率を高め、私たち保険医が牽引力となってさらなる医療制度改悪阻止と「社会保障改悪から拡充への転換を求める運動」のために、壮大な国民運動を構築していくこと必要がある。
 歯科分野の活動では、「保険で良い歯科医療」の実現を求める請願署名が、他団体とも協力して2013年度に34万筆(保団連集約分は13万筆)と過去最高に達した。患者、歯科衛生士、歯科技工士、歯科医師など国民各層が参加して取り組む「保険で良い歯科医療」の実現を求める請願署名運動は、日本小児科学会ホームページでも紹介されるなど支持と賛同を広げた。

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6.高齢社会のもとで「健康で安心して住み続けられるまちづくり」をめざし保険医の役割を高める

 協会・医会が地域社保協などと一緒に行う自治体要請や、協会単独での自治体要請が多様な形態、要求内容で実施された。
医療・福祉改善を自治体に求める社保協主催の「自治体キャラバン」は34道府県で取り組まれた。こうした共同の取り組みは、国保、子ども医療、介護、生活保護をはじめとした社会保障に対する各団体や住民の要求を把握し、自治体を変えさせ、社会保障拡充を自治体から政府に迫る大事な機会となっている。また、国保料や介護保険料の独自減免の実施、滞納者への緊急時の短期保険証交付等の実現、子ども医療費無料化の拡大などの具体的な成果も広がっている。
歯科独自の取り組みでは、保険で良い歯科医療の運動、「イレバデーからイイハデー」の取り込み、冊子「よりよく生きるはより良く食べる」「入院・介護と口腔」の活用、「要介護高齢者の口腔内状況調査」の結果などを通じて、歯科治療と口腔ケアの重要性を広く訴え、市民への啓発と運動参加を呼びかけた。学校歯科健診後の歯科受診実態調査に取り組み、貧困問題・健康格差解消の必要性、子ども医療費助成制度の拡充を訴え、医療費助成制度への関心を広げた。各協会・医会が取り組んだ「歯科技工士アンケート」を通じて、技工士の現状と診療報酬上の問題等を明らかにし、会内外に保険の補綴を守る意義を知らせ、改善運動への協力を訴えた。
医科歯科連携で保険医の調査を地域医療に生かす活動として、骨粗鬆症治療薬(ビスフォスフォネートなど)による顎骨壊死・顎骨骨髄炎の調査に取り組み、今後の課題を提起した。

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7.分断攻撃を許さず生活保護を守り、格差と貧困の解消をめざす

 生活保護の老齢加算廃止を違憲・違法とする生存権裁判は、2005年から全国10都道府県でたたかわれてきた。保団連は「生存権裁判を支援する全国連絡会」の構成団体として、各地の取り組みを支援するとともに、最高裁に対し「生活保護老齢加算廃止取消訴訟を大法廷に回付して審理をつくし、違憲・違法と判断すべきである」とのアピール賛同署名などに取り組んだ。最高裁要請署名は保団連分も合わせ、青森訴訟分として現在までに合計29,548筆を提出している。また、最高裁への要請行動、生活保護に対する正しい世論形成のため街頭宣伝にも参加した。協会・医会でも地域の「支援する会」と共同し、様々な活動を行った。生存権裁判が重大な段階に至っている情勢下で生存権裁判勝利のための大きな運動として2015年「10.28生活保護アクションin日比谷」へ結集した。
生活保護費の半分を占める医療扶助への圧力が強まっている。大阪市では、医療扶助利用者を訪問し受診抑制を促す、取り扱い医療機関への行政指導などが市をあげて実施され、協会が市および区へ要請を行った。大阪市の生活保護行政については、北九州、札幌に続いて、全国調査も行われた。

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8.いのちと健康を守る医師、歯科医師として憲法無視を許さない

 秘密保護法、安保法制に反対する運動では、医師・歯科医師の団体にふさわしく、新たな国民運動の広がりに貢献する活動を行った。安保法制の廃案を求めるアピール賛同署名は、36協会で取り組まれ、5000人を超えた。協会・医会の声明、談話などは、32協会で発表された。発表の仕方は、理事会名、会長・理事長名、担当専門部長名など役員会での合意を尊重した様々な工夫がされた。声明発表までの合意が得られなかった協会でも、会員アンケートを実施し、反対が5割を超えマスコミ発表で注目を集めたところもある。また、立憲主義に反する法案であることの理解を広げる上では、弁護士会との協力が有効であった。
安倍政権の憲法蹂躙、立憲主義の破壊に対しては、「九条の会・医療人の会」とも協力して、取り組みを進めた。

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9.東日本大震災復興対策 被災地の医療費助成復活の取り組み
 震災から2015年9月11日で4年半を迎えたが、被災地ではいまだに約20万人が避難生活を余儀なくされている。特に深刻なのは、住まいの再建の遅れである。災害公営住宅は、建設予定の3万戸に対して、完成したものは4割弱にとどまっている。こうしたもとで、2年程度の使用しか想定していない仮設住宅での生活を多くの人が強いられ、健康悪化や孤独死などの事態を招いている。
 国は震災後1年半で岩手県、宮城県の被災者医療費無料化を打ち切り、2012年10月以降は無料化を行う自治体にはその8割を給付する制度に改悪した。岩手、宮城の各協会では、仮設住宅の住民などへのアンケート調査を行い、無料化継続を訴えてきた。この結果、岩手県では県と市町村がそれぞれ1割を負担して国保と後期高齢者の無料化が継続している。宮城県では2013年3月末で打ち切りとなったが、住民運動もあり1年後に復活した。しかし、県の負担はゼロで市町村が2割分を負担していることもあり、対象者は「市町村民税非課税世帯で大規模半壊以上」に限られ、同県内の被災者の2割弱程度である。
 保団連は、全国災対連、被災地支援組織(岩手、宮城、福島、広島)とともに、「被災者の声を聴け!国会総行動」(2015年2月)、「国の責任で震災復興を行え!国会行動」(同6月)、「災害対策全国交流集会inみやぎ」(同11月)を実施し、国による被災者医療費無料化の復活と、被災者本位の復旧・復興を求めて活動した。

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10.保団連創立50周年(2019年)に向けた組織拡大目標の到達点 

 第42回定期大会(2010年1月)において、保団連結成50周年に向けて、会員拡大の目標として、「開業医会員の組織率を医科7割、歯科6割とすること」等を掲げた。5年後の2015年1月1日付会員数をもとに第2回代議員会で中間総括を行った。
 直近の10月1日付会員数では、医科開業医会員数は、わずかではあるが増加したものの組織率としては、64.9%と0.7ポイント減少となっている。歯科開業医会員数では、885人の増加となり、組織率も59.8%と目標の6割まであともう少しとなった。
 創立50周年目標達成に向け、協会・医会の目標を持つとともに@理事会、役員、事務局が一体となって会員拡大に取り組むこと、A「頼りになる」「役に立つ」「魅力ある」活動を推進すること、Bとりわけ、若手、女性の入会と組織の継承・発展させることなどを重視して取り組む。

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V.情勢の特徴と今期の活動で重視すべき視点と課題

1.社会保障と平和を守る勢力が多数を占める国会を求める

 安倍政権は、国民の過半数の反対世論を無視して安保法制を強行成立させた。安保法制に反対する運動は、青年、子育て世代、学者、弁護士など幅広い人々を結集して広がり、1人ひとりが自主的に参加する新しい形態の運動となった。法案は成立したが、運動の輪と怒りの声はいっそう高まっている。安保法制は、平和と立憲主義を蹂躙するものである。
 平和と立憲主義だけでなく、安倍政権は、憲法が定める社会保障に対する国の責任を放棄し、「自立、自助」を掲げて社会保障の連続改悪を進めている。
 保団連は、アメリカによるアフガニスタンへの報復戦争が始まった2002年1月の定期大会で「社会保障と平和を基盤とする国づくり」をスローガンに掲げた。今日、社会保障を守ることと、平和を守ることは、当時以上に一体の課題となっている。安保法制だけでなく、社会保障切り捨て、消費税増税、派遣法改悪、原発再稼働、秘密保護法制定、辺野古の米軍新基地建設、TPP推進など安倍政権の暴走に対する広範な人々の怒りを結集して、社会保障と平和を守る勢力が多数を占める国会を求める。

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2.アベノミクスを中止し、社会保障拡充と経済活性化の好循環を作り出す

 アベノミクスは、3本の矢(金融緩和、財政出動、成長戦略)によって大企業の利益拡大を図り、それが賃金引き上げ、中小企業の経営改善に波及し、国内消費の向上、デフレ脱却につながるという経済政策である。確かに、大企業の経常利益はバブル期を超える過去最高の水準に達し、内部留保はこの1年間で26兆円増加し354兆円(2014年度法人企業統計・財務省)となった。しかし、賃上げは一部企業に限られ中小企業や非正規労働者にまでは広がっていない。消費税増税や円安による輸入品の値上がりによる物価高に追いつかず、実質賃金は低迷している。雇用者数は増えているが、そのほとんどは非正規労働者である。「格差と貧困の拡大」はいっそう深刻になっている。
 「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる」というトリクルダウン理論の誤りはすでに証明済みである。この理論の焼き直しであるアベノミクスは、その破綻が明らかになりつつある。こうした状況を取り繕うように、安倍首相は「新3本の矢」(@希望を生み出す強い経済・GDP600兆円、A夢を紡ぐ子育て支援・出生率1.8、B安心につながる社会保障・介護離職ゼロ)を打ち出した。しかし、2020年度までにGDP600兆円を達成するにはバブル経済期並みの年率3%以上の成長率が必要であり、実現はほぼ不可能である。子育て支援策は、すでに着手済みの政策の焼き直しである。「夢を紡ぐ子育て」を掲げるなら、貧困の連鎖の原因となっている「子どもの貧困」問題への抜本的解決策を示すべきである。「安心につながる社会保障」に至っては、社会保障の連続改悪路線を推進しながらそれを見直す姿勢はまったく示されていない。「介護施設の整備」は当然必要であるが、「地域包括ケア」など政府の在宅重視政策との矛盾や介護報酬引き下げをどう説明するのかとマスコミからも批判されている。安保法制強行で内閣支持率が急落する中で、「人気取り」のためのごまかしである。記者会見当日に発表された8月の消費者物価は2年4カ月ぶりにマイナスに転じ、「異次元緩和振り出しに」と報じられた。
 いま求められているのは、就労と賃金の改善であり、大企業の利益を労働者や中小企業に還元し、消費税増税を中止し、GDPの6割を占める個人消費を高めることである。また、優遇税制を廃止し過去最高の利益を上げている大企業に適正な税負担を課し、大型公共事業などの支出を見直すことにより、財政の安定化を図り、社会保障の切り捨て政策から拡充に転換することである。
 社会保障の拡充は、将来不安を軽減し、個人消費を高めることにつながり、内需主導の経済活性化に貢献する。経済が活性化すれば、税収や社会保険料収入が増え財政健全化に向かうとともに、社会保障拡充の財政的保障ができる。社会保障拡充と経済活性化の好循環を作り出すときである。
 いま、「老後破産」「下流老人」という言葉が流行語になるほど、老後への不安が高まっている。「退職後に大病を患えば、わずかな蓄えは底をつき破産する」「低年金で入ることができる介護施設がない」などが社会問題化している。わずかな賃上げも、消費ではなく、老後に備えた貯蓄に回る状況である。政府の社会保障切り捨て政策は、これを助長する政策である。

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3.社会保障改悪から拡充への転換を求める運動

(1)社会保障の全面改悪をねらう安倍政権 プライマリーバランス論のごまかし

 安倍政権は、憲法が定める社会保障に対する国の責任を放棄し、「自立、自助」を掲げて、社会保障の連続改悪を進めている。「骨太方針2015」では、財政健全化目標として、2020年までに「基礎的財政収支(プライマリーバランス)」の黒字化を掲げているが、2015年度の同収支の赤字額は16.4兆円である。政府は「経済成長による増収(実質2%程度、名目3%程度)」と「2017年4月実施予定の消費増税」を見込んでも2020年度の赤字額を6.2兆円と試算している。黒字化のためには、6.2兆円以上の赤字解消が必要であり、その多くを社会保障費の削減で実現しようとしている。
 「骨太方針2015」では、当面の目標として年間8,000億円から1兆円といわれる社会保障費の自然増を、3年間で1兆5,000億円に抑えることが提起された。毎年3,000億円から5,000億円の削減をする計画である。
 こうした社会保障費削減の一方で、来年度の防衛費は概算要求で過去最高の5兆911億円となり、年末の予算編成では初めて5兆円を超える可能性も指摘されている。その内容も、無人偵察機、新型イージス艦、オスプレイ、新型空中給油機など「『安保』見越し武器増強(東京新聞)」を行うものである。軍事費の増大は、社会保障費の削減圧力を強めることになる。
 そもそも1,000兆円を超える国の借金の主要な要因は、社会保障費にあるのではない。「公共事業に50兆円、社会保障に20兆円」といわれたように、アメリカの圧力を受けて1991年の「公共投資基本計画」では今後10年間に430兆円の公共投資を行うことを決め、95年には630兆円に増額された。歳入の面では、消費税増税後の法人税減税の総額は260兆円を超えている。
 保団連は「医療再建で国民は幸せに、経済も元気に―医療への公的支出を増やす3つの提案(改訂版)」で「事業主負担を増やして保険料収入を増やす」「法人税課税を先進7カ国並に高める」「所得に応じた所得課税」にすることを提起した。この内容の宣伝・学習を進める。同時に、「社会保障のためなら消費税増税もやむを得ない」という世論が少なからずあることにも対応して、「社会保障のためといって8兆円もの消費税増税をしながら、社会保障改悪を進めるのは不当である」ことを強調する。

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(2)医療・介護充実の建設的提案を重視する

 これまでの大会でも、民主党政権の誕生、自民党政権の復活という情勢に合わせて、提案型の運動を重視してきた。「成果と教訓」でふれたように今日の情勢は、保団連だけでなく各協会・医会の活動においても、今まで以上に建設的提案と各都道府県の地域医療構想調整会議など各種検討の場への働きかけが求められている。
 その理由の第1は、医療介護総合法、医療改革関連法の具体化は、都道府県における地域医療構想、国保運営や市町村における介護の地域支援事業、地域包括ケアなど地方自治体で進められる。政府の思惑どおりに改悪が進むかは、さまざまな圧力はありつつも、それぞれの自治体の努力に任されている。したがって、それぞれの地域で医師会、歯科医師会、病院団体、介護事業者団体、地域住民などと連携しながら、地域住民と医療、介護担当者の要求を反映させる活動が求められる。
 第2は、政府は今後も社会保障給付の抑制のために患者負担増と給付削減、診療報酬・介護報酬の引き下げなどを打ち出してくるが、患者、国民さらに会員の視点から見ても反対だけで対応できる改悪だけでなく、多様で複雑な医療費抑制策を仕掛けてくる。例えば、「かかりつけ医療機関」や「総合診療専門医」の普及による医療費抑制、ジェネリック医薬品の使用拡大、健康ポイント制、データヘルス事業、セルフメディケア(自己治療)、「公的保険外サービスの産業化」、ビッグデータを活用した医薬品や治療技術の開発などである。厚生労働省が発表した「保健医療2035」提言は、「骨太方針2015」と重なる項目もあるが、経済財政諮問会議や規制改革会議などが主張する診療報酬引き下げや混合診療解禁などには一定の抵抗を示しつつ、「健康先進国」をスローガンに保健活動、医療内容の改革による医療費抑制を提案している。これらに対しては適切な分析、批判と建設的な提案が必要である。

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(3)公的給付抑制の医療・介護の供給体制再編でなく「健康なまちづくり」を

 政府の医療・介護の供給体制再編の基本的考え方は、いわゆる「川上」部分での入院医療改革による「急性期」病床と「慢性期」病床の削減により、患者の早期退院を促進し、「川下」部分ではその受け皿として在宅療養を支える「地域包括ケアシステム」を整備するというものである。在宅療養の概念の中には、有料老人ホームやサービス付高齢者住宅(サ高住)などが含まれる。
 低料金で入所できる特別養護老人ホーム(特養)の待機者は、全国で50万人を超えている。政府が病床数の地域格差を問題とする「療養病床」についても、これまでの特養など介護施設の整備を抑制する政府の方針のもとで、福祉の不備を医療が補ってきたものであり、機械的削減を行うべきではない。この再編計画が推進されれば、より多くの医療難民、介護難民が生み出されることになる。公的給付抑制のための供給体制再編でなく、それぞれの地域の実態に合わせた病床、介護施設の整備、在宅療養を支える医療と介護の連携など「健康なまちづくり」をめざす取り組みを医療関係者、介護関係者、地域住民、自治体が一体となって進められるよう協会・医会の役割を発揮していく。

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(4)新たな負担増を許さず、患者負担の軽減を求める声を待合室から高める

 協会・医会の調査でも明らかなように、経済的理由による治療中断、検査などを断るなどの事例が増えている。原則3割の患者負担は、皆保険制度を蝕んでいる。それにもかかわらず、「骨太方針2015」では、外来受診時に現行の定率負担に加え定額負担を導入(「かかりつけ医」受診の際には免除の案も)、75歳以上の窓口負担を1割から2割に引き上げ、市販類似薬(湿布、漢方薬、ビタミン剤、うがい薬、目薬)の全額自己負担化、後発品のある先発品の患者負担を引き上げ(参照価格制)、一般病床と現役世代から新たに入院時の居住費(水光熱費相当の月1万円程度)を徴収、70歳以上の高額療養費の月額上限を引き上げ(外来月12,000円→58,000円)、高齢者の現役並所得者(3割負担)の対象拡大(金融資産なども査定の対象に)などを計画している。新たな負担増を許さない「待合室から」のキャンペーンを推進する。
 また、患者負担は、原則無料をめざしつつ、当面の目標として現役世代は2割、65歳から74歳は1割、義務教育終了までの子どもと75歳以上の高齢者は無料とすることを要求する。高額療養費制度については、低所得者や負担が長期に渡る患者の限度額の大幅引き下げを求める。受診実態調査の活用、患者署名の推進などにより、患者負担軽減を喫緊の政治課題に押し上げことは、新たな患者負担増を阻止する上でも重要である。

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4.医科歯科一体、開業医と勤務医の連携で「開業医医療(第一線医療)」のさらなる発展をめざす

 保団連は、結成以来、第一線医療の拡充、発展をめざす活動を重視してきた。70年代の後半から80年代の前半にかけては、急性疾患から慢性疾患への疾病構造の変化に対応した医療活動、その後も「待つ医療から、出かける医療へ」「ボランティアから定着へ」など地域住民の在宅医療への要求に応える医療活動などを提起してきた。定期大会(当時は総会)のスローガンも、例えば1990年の第28回総会では「開業医の役割を高め、国民と協力して、90年代に民主的な医療改革をすすめよう」、1996年の第34回総会では「社会保障の後退を許さず、開業医医療の継承と発展を」などのスローガンを掲げてきた。
 「地域包括ケアシステム」や2017年から実施される「新専門医制度」とその中に位置づけられている「総合診療専門医」などを政府が推進しようとしているもとで、地域医療の中で「開業医の役割を高め」、「開業医医療の継承と発展」を進めることが改めて求められている。このことは、保団連、協会・医会が第一線医療を担う保険医の組織として、医師、歯科医師だけでなく地域住民、医療・介護関係者から評価され、組織の拡大強化にもつながる課題である。
 前回の大会でも同様の提起を行った。しかし、医療現場での個々の会員の努力と奮闘は日常的に行われているが、協会・医会が関与した組織的実践例を作るまでには至っていない。地域における医療・介護の供給体制のなかでの保険医の役割を高めるためには、開業医と勤務医の連携、医科と歯科の連携が必要である。その点では、開業医会員と勤務医会員があり、医科歯科一体の協会・医会の出番である。連携促進のために、「医療、福祉マップ」を作成するなどの取り組みも行われている。
 今期は、これまで保団連が使ってきた「開業医の役割」「開業医医療」という言葉の今日的な意味と表現方法、また、どのような取り組みのやり方があるのかの議論を深め、中長期的課題として推進に着手する。

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5.歯科医療の危機的状況を打開し、保険で良い歯科医療を

(1)歯科医療の危機打開を以下の3点から追求する

@診療報酬の大幅引き上げと不合理是正 歯科技工問題の解決

 歯科診療報酬については、部分的な評価だけでなく全体的な底上げが必要である。例えば、算定頻度の高い再診料を医科並みに引き上げるなどである。また、歯科技工料問題については、「点数早見表への明記など7対3通知を守ることを呼びかけるべき」、「補綴点数が多少上がっても歯科医療機関の経営危機のもとでは技工料に回る保障はない」、などさまざまな意見が会内にあるが、抜本的な解決策は歯科医療機関の危機的な経営状況の打開である。そのために前述の再診料だけでなく基礎的技術料を大幅に引き上げること、歯科技工物を伴う補綴点数については最低でも2倍化するなどが必要である。

A歯科の疾病構造の変化への対応、「地域包括ケア」や周術期医療などでの役割強化

 歯周病の増加など歯科の疾病構造の変化に対応した健診活動の充実などにより若年層から口腔の健康への関心を高めることが求められている。歯周病と生活習慣病など全身疾患との関連性も近年注目されている。しかし、義務教育以降の学校健診、企業健診などでの歯科の位置づけは弱く、中年期からの歯周病の罹患率は減っていない。若年層の歯科需要を高め、受診率の向上を図る。
 「地域包括ケア」、周術期医療に歯科医師の役割を高める。介護施設の入所者、在宅療養者の口腔の状態は悪く、放置されている事例が多い。地域医療介護総合確保基金も訪問歯科診療に必要な機材などの整備にはほとんど充当されていない。こうした状況を改善するために、1人の患者に対する医科歯科の連携、医療職と介護職の連携を強める。歯科医師のいる病院での在院日数の短縮、予後の改善などが指摘されている。一方、病院団体からは医師の指示でも「歯科衛生実地指導料」等の算定ができるよう要望が出されている。診療科目に歯科がない病院でも歯科医師を配置したときの点数設定、外部から歯科医師が往診した際の適切な評価などを要求する。
 入院医療、介護施設、在宅療養における歯科医療の重要性を医療・介護従事者や国民の共通認識にするために、パンフ「入院・介護と口腔」を広く普及する。

B患者負担の軽減

 国民の口腔の健康向上のためには、原則3割の患者負担の軽減が必要である。小児のう蝕予防にとって、子どもの医療費無料化は大きな効果がある。学校歯科健診後の歯科受診実態調査からも明らかなように、経済格差が口腔の健康に如実に反映しており、義務教育終了までの医療費無料化は焦眉の課題である。

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(2)保険で良い歯科医療の実現を求める運動

 上記の3点での追求を具体的に進めるのが、保険で良い歯科医療の実現を求める運動である。署名運動、自治体決議、住民への啓発と運動参加を呼びかける「イレバデーからイイハデー」の取り組みなどを推進する。
 また、保険適用範囲の拡大では、小臼歯の前装鋳造冠の保険適用など次々回改定も視野に入れて具体的要求事項を検討することが必要である。

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W.各分野の重点課題

 「重視すべき視点と課題」ではふれていない「各分野の重点課題」は以下のとおりである。それぞれの課題についての情勢と方針は、これまでの代議員会会務報告、理事会総括提案で述べてきたとおりである。今後の情勢の変化や新たな方針提起は、随時、理事会総括提案などで提起する。また、各分野の要求事項の詳細は、別途提案の「基本要求」を参照のこと。

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1.医療へのゼロ税率適用と消費税増税の中止

(1)医療をはじめとする生活必需品にはゼロ税率(免税)を適用することを要求する。
(2)2017年4月からの消費税率の10%への引き上げの中止を求める。

2.地域の医療・福祉改善と第一線医療の発展をめざす活動

(1)地域の医療・福祉改善をめざして

  • 国民皆保険の意義についての国民的理解を広げながら、形骸化の動きに対抗し、名実ともに充実させる取り組みを強める。映画『いしゃ先生』の普及に取り組む。

  • 社保協などとの連携を強めて、国保、介護の改善に取り組む。

  • 子ども医療費無料化、高齢者、障害者などの医療費助成制度など自治体独自の制度の拡充を求めるとともに、国による助成を要求する。

  • 健診の拡充と利用者負担の軽減、各種ワクチンの定期接種化・無料化の取り組みを進める。

  • 保険で良い歯科医療の実現を求める運動を推進する(自治体意見書採択運動、「保険で良い歯科医療を」各県連絡会の結成、イレバデーからイイハデーの月間の取り組み等)。

(2)第一線医療の発展をめざす活動

  • 2016年京都、2017年名古屋での医療研究フォーラムを成功させるとともに、各協会・医会やブロック単位での日常診療交流会などの活動を発展させる。

3.審査、指導、監査、適時調査対策

(1)指導、監査の改善対策では、各地の情報収集、実態把握などを行い、弁護士帯同、録音の取り組みの定着をはかる。この間の国会答弁などを生かし、事前通知の改善や持参物の軽減を求めていく。日弁連意見書の内容の周知とこれを活用した要請などを進める。問題のある指導医療官の情報収集、改善に向けて交流を深める。厚労省の情報開示に係る方針の分析と問題の打開に取り組む。
(2)「保険診療の手引」「保険診療便覧」「在宅医療点数の手引」「届出医療の活用と留意点」「歯科保険診療の研究」など各種テキストの発行と普及。
(3)審査支払い機関への要請を強める。レセプト電子請求による審査強化への対応。
(4)病院を中心に実施されている施設基準の適時調査対策を強化。
(5)各ブロックでの地方厚生(支)局交渉を実施。
(6)審査、指導、監査対策担当者会議の開催。

4.マイナンバー、医療のICT化への対応

(1)対象拡大に反対するとともに、2016年1月からの利用開始に伴って噴出する問題点を明らかにし、撤回を求める。
(2)同時に、医療機関としての対応と協会・医会の対応の具体化をはかる。
(3)医療のICT化に対しては、問題点を明らかにするとともに、患者のプライバシーの保護など具体的な改善策を提起する。

5.「医療安全」に徹した医療事故調査制度の実現

(1)WHOドラフトガイドラインに基づいた「医療安全」の実現に向けた取り組み。
(2)「医療事故調査制度の概要と留意点(仮称)」の作成と普及。

6.医業税制、税務行政の改善の取り組み

(1)税務調査手続を法制化した国税通則法の形骸化を許さず、事前通知・終了通知の徹底、帳簿書類等のコピー・持ち帰りの禁止など対応を強める。
(2)他団体とも協力して「納税者権利憲章」の制定等に取り組む。

7.東日本大震災から5年 被災地の医療費助成復活、福島原発事故対策

(1)「集中復興期間」を延長し、生活再建支援法の改善など国の責任で復興を推進する。
(2)国による医療費窓口負担全額無料化の復活を求める運動を強める。
(3)原発事故は収束していない。生活補償の継続をはじめ国による除染の実施や健康管理の徹底などを要求する。

8.原発再稼働中止と原発ゼロの取り組み

(1)新たな「安全神話」による原発再稼働の中止を求める。
(2)「原発再稼働を止め、再生可能エネルギー中心の社会への転換を求める署名」、パンフ「原発ゼロのエネルギー政策を」などを活用し、原発ゼロを求める世論を高める。

9.TPP協定の国会承認・批准を許さない

(1)「TPPに反対する弁護士ネットワーク」「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」「主婦連合会」の緊急行動等に積極的に関わっていく。
(2)2016年1月からの通常国会で、国会承認阻止のための議員要請、国会内集会を医療関係団体との共同も含めて強力に推進する。
(3)協会・医会で「モンサントの不自然な食べもの」「世界が食べられなくなる日」「パパ遺伝子組み換えってなあに?」の上映活動などを進めるなど、県内各団体との共同を強めていく。
(4)新サービス貿易協定(TiSA)をはじめ、国民の命と健康を市場化する企ての把握と反対の取り組みを進める。

10.生活保護の老齢加算復活を求める生存権裁判など生活保護を守る取り組み

(1)最高裁への働きかけとともに、全国の裁判への支援を強める。
(2)医療扶助への不当な圧力、給付申請の水際での拒否、給付削減などへの取り組み。

11.平和、民主主義、人権を守る活動

(1)憲法を生かした外交でアジアの平和を 安保法制廃止、明文改憲阻止の取り組み。
(2)沖縄県民の総意を生かした政治を 辺野古新基地建設阻止、普天間基地の即時撤去を要求する。
・声明、決議とともに、各協会・医会やブロックでの学習会、現地視察会など連帯した活動を進める。
(3)反核医師の会などと連携した核兵器廃絶の取り組みを推進する。
(4)民意を反映せず、政治を劣化させた小選挙区制廃止の国民的議論を広げる。
(5)政治をゆがめる企業・団体献金の禁止を求める。

12.組織拡大・強化、共済制度普及活動、ブロック活動の強化

(1)保団連創立50周年(2019年)に向けた組織拡大目標達成のための、協会・医会でのそれぞれの拡大目標についての議論を深め、組織担当者会議での経験交流など取り組みを強化する。
(2)2013年1月の規約細則改定を受けて、ブロック活動の強化を進める。
(3)「保団連組織のあり方検討委員会」は、前期で区切りをつける。同委員会の設置をめぐっては、その構成、取り扱うテーマなど様々な意見、要望が寄せられた。それらもふまえて、大会、代議員会、会長・理事会議、関連専門部などで検討を深めていく。

13.勤務医対策、女性部、文化部の活動

(1)勤務医との連携強化を進め、勤務医の協会・医会への入会を追求する。各協会・医会での勤務医部会設立を促進する。勤務医とともに、医学生、研修医への働きかけを追求する。
(2)女性医師・歯科医師の就労条件の改善をめざす女性部の活動を通じて、組織率向上に結びつける。現在、取り組んでいる「女性医師・歯科医師開業医会員アンケート」結果もふまえ協会・医会の活動に反映していく。そのためにも協会・医会で「女性部」「女性医師・歯科医師の会」の結成を追求する。
(3)文化活動をはじめとして会員の要求に根ざした多彩な活動を発展させ、「魅力ある協会」「頼りになる協会」作りを進める。

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