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【声明】病床削減・給付縮小につながり、皆保険の根幹を変容させる
基本方針は見直し、大幅なプラス改定を

2015年12月11日
全国保険医団体連合会
社保・審査対策部
医科部長 武田 浩一
歯科部長 新井 良一

 

 厚生労働省の社会保障審議会は、12月7日、「平成28年度診療報酬改定の基本方針」を発表した。がん、難病、小児・周産期等で部分的な改善項目も示されているが、総じて医療費抑制の視点から、病床を再編・削減し、地域で患者を低コストで対応するよう求めるものである。費用対効果、混合診療等の導入・活用など含め、国民皆保険制度の根幹さえ変容させかねない中身といわざるをえない。

  改定の基本認識において、「経済・財政との調和」が重要として、医療費削減を進める「骨太の方針2015」や医療を経済成長の道具とみなす「新成長戦略」等を踏まえるとして、医療費抑制を強調している。重点課題に「地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携に関する視点」を位置付けて、病床の再編・削減を進め、地域に患者を押し出し、安上がりな医療・介護体制を目指す方向を打ち出している。

  既に、入院では、▽7対1入院基本料での認知症対応等の要件強化、▽療養病棟入院基本料2での重症・難病患者等の比率要件設定、▽在宅復帰率における転棟等患者の評価引き下げ、▽看護師の夜勤労働の制限緩和などが検討されている。抜本的な人員拡充も示さないまま、重症・重度な患者に入院を絞込んだ上、より早期に自宅等へ押し戻そうとしている。在宅・外来でも、▽受診抑制につながる大病院での紹介無し受診等での定額負担、▽在宅医療への重症度基準の導入による重症患者への特化、▽投薬制限を含んだ形での地域包括診療料・加算の対象患者拡大、▽市販品類似薬品の保険外し、▽医師による慢性疾患患者の管理を緩める分割調剤の拡大やリフィル処方箋の導入など、診療所、薬局で安上がりに患者を管理することが狙われている。

 「患者にとって安心・安全で納得できる効果的・効率的で質が高い医療を実現する視点」では、「第三者による評価やアウトカム評価」などを進める方向が示されている。「かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師・薬局の評価」やリハビリテーション等の「アウトカムにも着目した評価」などが示されているが、患者の受診行動が制約されたり、治療効率の低い患者が敬遠されたりしかねない。

  医薬品を中心とした「制度の持続可能性を高める視点」では、「不適切な多剤投薬・長期投薬」等の減少は必要だが、高薬価の要因である新薬創出加算の廃止こそ求められる。「後発医薬品の使用促進」に絡んで、▽後発品の銘柄指定(変更不可)時の処方せんの理由記載、▽一般名処方と以外の場合での処方せん料の評価差の拡大、▽一般名処方加算の算定要件の厳格化などが中医協で議論されている。医師の処方権に踏み込む強引な後発品促進は、患者の医療保障上問題が多い。

 「かかりつけ機能」を発揮できていない「門前薬局の評価の適正化」等を推進するとしている。調剤報酬の抜本的な見直しが検討されているが、薬剤師の業務負担増の問題とともに、地域に密着した小中規模薬局が淘汰され、却って患者の利便性の後退や医薬連携の支障となる事態の発生も懸念される。また、「費用対効果評価の試行的導入」は、安全性・有効性が確かめられた医療技術は保険収載するとの基本原則の変容に留まらず、経済性を理由とした給付範囲縮小への利用も危惧される。

 更に、将来の課題では、セルフケア推進や混合診療(保険外併用療養)活用等を促しているが、医師の管理が必要な慢性疾患へのスイッチOTC拡大や、医療への経済格差の持ち込みとともに、患者申出療養のような有効性・安全性の担保すら曖昧な「医療」が氾濫しかねない。

 保団連は、患者・国民のいのちと健康を守る医師・歯科医師の団体として、「基本方針」の見直しを求めるとともに、薬価引き下げ分を技術料本体の改定財源に充当し、大幅なプラス改定を強く求めるものである。

以上