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※保団連の三浦清春副会長(政策部長)は、下記の通り、「『遠隔診療』の安易な普及・拡大に反対する」との談話を発表し、報道各社に送付しました。(PDF版はこちら[PDF:152KB])。

 

【談話】診察・診療は「対面診療」が基本、
「遠隔診療」の安易な普及・拡大に反対する


2017年10月11日
全国保険医団体連合会
副会長・政策部長 三浦 清春

 

 政府は、2017年6月に、ビッグデータやAIなどを活用した「新しい健康・医療・介護システム」を確立するとして「未来投資戦略2017」を発表した。そしてその一環としてICT(情報通信技術)を活用した「遠隔診療」にも積極的に取り組む姿勢を示した。
 一方、厚労省も、既に1997年「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」としてその基本的考え方を示しているところではあるが、今回改めて、「遠隔診療」の普及・拡大を図るべく、従来の考え方を実質的に緩和する通知を出したところである(2017年7月厚労省医政局長)。さらに、来年度の診療報酬改定の中でも未来投資戦略会議等の要請に応えて一定の評価を与えようとしている。
 私たちは、情報通信機器の発達の中で離島・へき地などの通院困難な環境や状態にある人の活用を否定するものではない。しかし、今政府が進めようとしている「遠隔診療」は、医療の質とは違って、医療費削減を目的として、公的医療保険制度を利用した新たなビジネス展開を狙うものである。従って、医療の質、安全性、信頼性等のエビデンスが明確にされないままの「遠隔診療」の普及はわが国の医療を歪めるものとして反対するものである。
 以下、いくつかの問題点を指摘する。

 

@「遠隔診療」は「対面診療」に及ばない

 医療は、患者と医師・歯科医師との信頼関係に基づく共同の営みである。信頼関係なくして医療は成り立たない。その信頼関係を醸成する上で、「遠隔診療」は、生身の人間が直接対面することになる「対面診療」には及ばない。

 

A「遠隔診療」の情報取得は限定的

 診察・診療とは何か。医師・歯科医師は患者を前にして、特に初診においては、できるだけ幅広く状態を観察し、できるだけ深く情報を得て、帰納的推論法でもって真実(診断)に迫っていく。「遠隔診療」においては、初診、再診にかかわらずこの最初の段階の幅広く深く情報を取得する点で限定的にならざるをえず、「対面診療」には及ばない。そのことは医療の質を落とし危険性を増すことになる。
 また、医師・歯科医師と患者の診療契約は準委任契約といわれ、当事者である医師・歯科医師と患者の間に私法上の権利義務が生じるとされている。しかし「遠隔診療」の法的整理や、権利義務がどのような影響を受けるのかが未だ不分明であり、懸念されるところである。

 

B強引な普及・拡大は医療の質や安全性の低下もたらす

 上記@Aの問題を内包する「遠隔診療」が、エビデンスが不明確なまま診療報酬などの経済的誘導で強引に普及・拡大がされることになれば、わが国の医療は歪められ、患者・国民が受ける医療の質や安全性が低下することになる。  
 また、未来投資会議が主導する経済成長戦略の一環としてこの「遠隔診療」が位置づけられていることも懸念されるところである。医療の営利産業化は、社会保障としての公的医療保険制度の対極にあるものでその拡大は同意できない。

 

C受診の機会を確保できる労働環境を作るべき

 離島、へき地などの通院困難な環境や状態にある人や在宅患者が、「遠隔診療」を活用することは有益な場合もあると思われる。またICT技術のいっそうの発展も期待するところである。しかし、国は、通院困難な環境や状態にある人に対して「遠隔診療」を持って良しとせず、これらの人が居住する地域にかかわらず、必要な受診ができるよう医師不足・偏在対策や救急搬送システムの整備等に不断に努めることが必要である。また、都市部の多忙なサラリーマン等の利便性を理由にした「遠隔診療」の普及・拡大は、経済的効率性を求めるあまり前述のような医療の質、安全性、信頼性の低下をもたらしかねず反対である。政府は「働き方改革」を言うのであるなら、勤労者が受診の機会を確保できるような労働環境をまず作るべきである。
 また9月にガイドラインが示された遠隔死亡診断については、死後診察が持つ法律的・社会的意義の重要性に照らして厳格な要件が課されている。しかし、「医療者側の都合で『合理的』に看取りを行うための仕組みになりかねない」、「『死体の異状の見落とし』につながりかねない」と危惧する声もあり、死者の尊厳に十分に配慮し、対面診療の原則、医師と患者・家族との信頼関係を踏まえた慎重な対応が求められる。

 

D自由診療であっても安易に導入すべきでない 

 厚労省は、「保険者がおこなう禁煙外来」において、一度も「対面診療」がない完全「遠隔診療」を一定の条件下で認めるとしている。これが診療として行われるのか、保健予防活動として行われるのか今のところ定かでない。たとえ自由診療として行われたとしても、準委任契約に基づく一定の安全性、質の担保が求められている。禁煙外来で使用される禁煙補助剤の服用で精神疾患を増悪させる場合があることや、自殺念慮、自殺などを引き起こす例が報告されており、添付文書にその旨記載しているものもある。自由診療だから完全「遠隔診療」でもよいと安易に考えるべきでない。禁煙の成功率を上げるためにも、信頼関係の醸成や幅広い情報収集のため「対面診療」を前提にすべきと考える。また禁煙外来と銘うって、「遠隔診療」に対する国民や医療従事者の慣れや一般外来へのなし崩し的拡大への懸念も払拭できないことからも、今回の「保険者がおこなう禁煙外来」には反対するものである。

 

 以上、現時点での「遠隔診療」に対する基本的考えを述べたが、わが国の医療が歪められないように、今後も政府の動きに厳しい目を向けていく。

以上