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※経産省の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会が、「第5次エネルギー基本計画(案)」を発表し、パブリックコメントを求めていたことに対し、全国保険医団体連合会では下記の意見を提出いたしました(PDF版はこちら[PDF:295KB])。

第5次「エネルギー基本計画」政府案に関する意見について


2018年6月15日
全国保険医団体連合会
公害環境対策部長 野本 哲夫

 

 以下に、第5次「エネルギー基本計画」政府案について、意見を述べる。

 

1.第5次エネルギー基本計画(案)のはじめについて(P2〜)

 第5次エネルギー基本計画(案)のはじめ(P2〜)に、「エネルギー政策を再築するための出発点である東京電力第一原子力発電所事故を再確認し、その教訓を踏まえた対応を進める。また、引き続き国が全面に立って、福島の復興・再生や廃炉・汚染水対策に取り組む。」と述べられている。
 しかし、2030年に向けたエネルギーの基本的な方針と政策対応(P19〜)の各エネルギー源の位置付けと政策の方向性の中で、原子力については安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需要構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源と位置付けようとしている。
 これは、本当に福島第一原発事故を再確認し、その教訓を踏まえた対応にあたらないし、そう考えるならば、直ちに原発再稼動をやめ、全ての原発を廃炉にし再生可能エネルギー中心のエネルギー計画に変更すべきである。

 

2.東京電力福島第一原発事故の責任について

 第一次安倍政権時の2006年から、国会では吉井英勝衆議院議員(当時)が、日本の原発が地震や津波で冷却機能を失う可能性があると再三にわたって追求していた。
 同年12月13日には、「巨大地震の発生に伴い安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書」を政府宛に提出した。その中で、「巨大な地震の発生によって、原発の機器を作動させる電源が喪失する場合も大きい」として、電源喪失によって原子炉が冷却できなくなる危険性があることを指摘していた。
 ところが、同年12月22日、この質問主意書で、非常用電源喪失に関する調査や対策強化を求めたことに対して、安倍首相は「地震、津波等の自然災害への対策を含めた原子炉の安全性については、(中略)経済産業省が審査し、その審査の妥当性について原子力安全委員会が確認しているところであり、ご指摘のような事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである。」と、現状で十分との認識を示した。
 福島原発事故の最大の原因はバックアップ電源の喪失であり、このとき、バックアップ電源の検証や、バックアップ電源を増やす対策を講じず、福島第一原発事故は起きた。
 福島第一原発事故後も、安倍政権はその重大な責任がなかったかのように、原発事故被害者の賠償打ち切りや避難者の帰還政策、自主避難者の住宅保障打ち切りなどを推し進め、原発再稼動、原発輸出を推進している。そういう安倍政権がこのエネルギー計画作成に携わるのはおかしいのではないか。

 

3.2030年の電源構成比率について

 2018年3月26日の経産省の有識者会議「エネルギー情勢懇談会」で2030年における電源構成比率を原発20〜22%にしているが、多くの人々に達成不可能と言われている。
 現在再稼働している原発は8基で、日本全体の発電量は2%でしかない。20%にするには約30基の再稼働が必要になる。新増設か、廃炉期間40年の延長かの問題になるが、国民の多くが原発ゼロを望んでおり、直ちに原発再稼動をやめ、全ての原発を廃炉にし、再生可能エネルギー中心のエネルギー計画に変更すべきである。
 この目標達成には、東電福島第二原発、柏崎刈羽原発などまで再稼働しなければ達成できない目標だ。
 福島原発事故の検証が不十分でかつ、廃炉作業の目処が立たず、放射性廃棄物の処理方法も確立されない中、原発事故の当事者である東京電力に柏崎刈羽原発の運転する資格はない。
 また、東京新聞の試算によると、1年間で最も電力が必要となる夏の発電について、電力の供給余力が昨年、東日本大震災前の2010年を大幅に上回っていたことが判明した。
 その理由として、再生可能エネルギーが過去最大まで拡大した(2017年は太陽光を中心に約2千万kwに増加)ほか節電が進み(約2千4百万kw減少)により、震災前に稼働していた原発の合計分(3千4百万kw)を大きく上回る電力が発生したことによる。これまで言われてきた原発必要論の根拠が失われ、原発推進政策の必要性も失われている。
 2018年4月10日の同「懇談会」では2050年までの長期エネルギー戦略に対する提言をまとめた。その中で、化石燃料を利用する火力発電については、非効率な石炭火力をフェ―ドアウトして効率的な石炭技術に傾注するとしているが、世界のエネルギーの流れに全く逆行するものとなっている。

 

4.再生可能エネルギーの導入加速〜主力電源化に向けた取り組み〜について(P38〜)

 再生可能エネルギーの導入加速〜主力電源化に向けた取り組み〜についての中で、再生可能エネルギーは重要な低炭素の国産エネルギー源であり、主電源化への布石を打つものとしながら、主電源として扱わなかった。また、2030年度の電源比率は4年前に決めた再エネ、原発の目標を変更しなかった。
 しかし、2030年には、世界では再生可能エネルギーが中心となっている。原子力の位置付けを「長期的なエネルギー需要構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」として位置づけ、原子力エネルギーを2050年まで温存しようとしていると考えているなら、それは言語道断である。
 2017年、世界での太陽光発電の設備容量は累計約400GW、風力発電は累計約540GWに達し、それぞれ2010年の10倍、2.5倍に伸びた。再生可能エネルギーの設備容量は原発も石炭も凌ぐものになっている。
国際エネルギー機関(IEA)によると、コストについても、10年に比べ太陽光発電は70%、風力発電は25%安くなった。IEAは「電力供給の主役は石炭から再生可能エネルギーに変わる」と世界のエネルギー転換を予測していることによる。

 

5.原子力政策の再構築について(52P〜)

 原子力政策の再構築について、核燃料サイクル政策の推進として、安全確保を大前提に、プルサーマル、六カ所再処理工場の竣工、MOX燃料加工工場の建設、むつ中間貯蔵施設の竣工などを推進としている。いまでも安全が確保されていないプルサーマル、六カ所再処理工場の竣工、MOX燃料加工工場の建設、むつ中間貯蔵施設の竣工などや、核燃料サイクル政策は破綻しており、直ちに止めるべきである。
 政府は、核燃料サイクルとしてプルサーマル発電を推進しているが、プルサーマル発電で現在発電を行っているのは3基しかない。核燃料サイクルへの固執をやめるべきだ。
 もんじゅについては、「もんじゅの廃止措置に関する基本指針」に基づき、着実かつ計画的な廃止措置に責任をもって取り組むことが必要。

 

6.2050年に向けたエネルギー転換への挑戦について(P94〜)

 2050年に向けたエネルギー転換への挑戦について、3.一次エネルギー構造における各エネルギー源の位置づけと政策の基本的な方向の(2)原子力の位置付けの中で、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低価格で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源であるとしている。原発事故リスクと放射性廃棄物や再処理の問題は解決されていない。2050年の長期目標をはじめて見据えたが、背景には、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」で、2050年までに温室効果ガスを8割削減するという日本の国際公約があるので、公約を守るためにも、原子力、石炭火発、核燃料サイクル政策の推進は止めて、再生可能エネルギーへとエネルギー政策の転換を図るべきだ。

以上