ホーム


介護保険の居住費・食費自己負担化による影響調査の結果について


2006年4月11日
全国保険医団体連合会

J はじめに

 保団連では、介護保険制度「改正」による居住費・食費の保険外し(2005年10月1日実施)が利用者及び事業所経営に与えた影響を調べるため、各都道府県保険医協会を通じて「介護保険改定に伴うアンケート調査」を実施しました。

  ○調査対象

   各都道府県内の@介護保険施設、A通所施設(デイサービス、デイケア)、

   B短期入所施設

  ○調査対象期間 

   2005年10月1日〜12月31日まで(3か月間の動向)

  ○調査の実施時期

   2006年1月〜3月

 2006年4月14日までに、以下の15都府県について当該保険医協会より調査結果の報告がありました。    

青森・岩手・秋田・山形・宮城・福島・群馬・東京・愛知・三重・京都・広島・福岡・宮崎・鹿児島

また、埼玉県及び島根県においては県として調査を実施し、その調査対象月が保団連調査の対象月とほぼ一致するので、県の調査結果をデータとして採用しました。

K 調査結果――介護保険3施設の退所の状況等について

 17都府県の調査結果のうち、介護保険3施設の退所の状況等について、別紙「調査結果」を踏まえてまとめてみたい。

 アンケートを発送した介護保険3施設の合計数が把握できないため、全体の回収率は不明であるが、各都府県におけるアンケート用紙の回収率は20%弱から55%程度である。県として調査を実施した埼玉県及び島根県では高い回収率を得ている。

なお、本調査の回答施設数(1,856施設)は、全国の介護保険3施設数12,139施設(2004年10月1日現在 厚生労働省調べ ※1)の15.3%に相当する。

   ※1 厚生労働省「平成16年介護サービス施設・事業者調査」

                     (2004年10月1日現在)

     介護老人福祉施設   5,291施設

     介護老人保健施設   3,131施設  

     介護療養型医療施設  3,717施設 合計12,139施設

1、退所者は519人にのぼる 

1)「居住費・食費の自己負担化が原因で退所した方はおられますか」との質問に対する回答によると、介護保険3施設からの退所は1,856施設中272施設で発生し、退所者は合計519人に上っている。施設別では、老人保健施設からの退所が突出して多い。

  全国の介護保険3施設は12,139施設(※)であり、調査結果を単純にあてはめれば、退所者は3,400人程度に上るとみられる。

2)本調査は自己負担化後3か月間の調査であり、6か月、1年と経過するなかで、負担に耐えられず退所を余儀なくされる数は増加すると見られる。

  さらに、一連の税制「改正」により(※2、※3)、負担軽減措置の対象とである住民税世帯非課税者が本人非課税者または課税者となったときは、軽減措置から除外されることから、負担増の影響は今後さらに拡大すると考えられる。

※ 2 2004(平成16)年度以降の「税制改正」により、@公的年金控除額の引下げ(140万円→120万円)、A老年者控除の廃止(50万円→0円)、B住民税定率減税の縮小・廃止が決められた。

※ 3 さらに2006(平成18)年度分より、高齢者の住民税非課税限度額(65歳以上のうち前年の合計所得金額が125万円以下の場合に、住民税を非課税(所得割・均等割とも)としていた措置)が廃止された。年金収入のみの場合の非課税ラインは次のように引き下げられ、世帯非課税者及び本人非課税者の16%程度が課税者に「変身」するとの試算もある。

                <非課税となる収入上限>

   夫婦2人世帯 年金収入 266万円 → 212万円

   単身世帯   年金収入       → 155万円       

2、利用者負担第4段階(住民税本人非課税者以上)の退所が53%を占める

1) 退所者のうち、「利用者負担段階第4段階」の者が53.0%%を占めており、これは、低所得者対策の欠陥を示すものである。

  「利用者負担段階第4段階」は、年金収入266万円以上の住民税本人非課税者(1号被保険者の約4割を占める)及びそれを超える所得のある者が該当する。これらの層は、低所得者に対する負担軽減措置(介護保険による補足給付)の対象とならず、食費・居住費の額は施設と利用者の契約に委ねられている(表参照)。

  厚生労働省が法案審議前に作成したモデルケースでも月3万円以上の負担増加と見積もられていたが、本調査の「退所者の負担増となった額」をみると、負担増額が判明している退所者(274人)のうち月額3万円以上の新たな負担を求められた者が189人(69.0)%にのぼっている。

 住民税本人非課税者を負担軽減措置から除外したのは、家族負担を前提にしたものであり、低所得者対策の欠陥と言うべきであろう(※4)。介護保険制度は加入者がすべて被保険者本人であることから、個々の加入者について生計費非課税の視点を適用し、住民税本人非課税者を負担軽減措置の対象とすべきである。

※ 4 調査結果には記載していないが、「今回の改定でどのような構成の家族が大変ですか」との設問に対し、施設の5割から8割が「家族と同居」世帯が大変であると回答している。(重複回答あり)

        高齢者2人世帯 高齢者単独世帯 家族と同居

 東北6県の合計   24.4%    18.6%      57.0%

 京都府協会調査   30.1%    13.5%      56.4%

 広島県協会調査   30.6%    30.6%      50.0%

 福岡県協会調査   20.9%    12.8%      80.2%

2) 調査結果では、負担軽減措置の対象である「利用者負担段階第1〜第3段階」からも10%弱の退所者が出ている。

  厚生労働省は「年金給付と介護保険給付の重複を是正する」との理由で食費・居住費の自己負担化を実施したが、国民年金受給者数のピークは3万〜4万円(月額)という低額な水準にある。負担限度額については、年金水準に見合ったものに直ちに見直す必要がある。

3)療養病床(医療)に新たに持ち込まれようとしている食費の全額自己負担化、居住費負担の導入は、介護保険施設同様の問題を引き起こすことは明らかであり、今日の低年金水準のもとで食費・居住費に係る新たな負担を求めるべきではない。

3、退所者の行先は「在宅」が大半

1)「退所した方の要介護度」を見れば、退所者のうち、要介護2〜5の中・重度者が51.3%を占め、要介護4及び要介護5のいわゆる重度の退所者も30.3%を占めている。「退所した方の年齢」も、80歳以上の者が39.7%を占めており、退者の大半が後期高齢者である。

  さらに、退所者の「退所後の行先」では、「在宅」が42.4%を占め、他の介護保険関連施設も食費・居住費の全額自己負担を前提としているため、退所者の多くは在宅以外に行き場のないことを示している。

2)以上の通り、今回の調査結果は、中・重度の後期高齢者が在宅への退所を余儀なくされていることを示している。

 在宅での生活を支えるためには、利用料負担(1割負担)の軽減や訪問看護など在宅系介護サービスの利用に上限枠をはめている区分支給限度基準額の引き上げ等の改善が求められていたが、今般の介護保険制度「改正」においてこれらは実施されなかった。

要介護認定を受けた高齢者の医療及び介護の課題は、深刻な事態に直面していると言わざるを得ない。

4、施設側の収入は減少

1) 2005年10月1日には、食事・居住費の全額自己負担化とともに、介護報酬についてもマイナス5%程度の改定が実施された(※5)。  

※ 5 2003年4月にもマイナス2.3%(施設系△4.0%、

在宅系0.1%)の改定が行われたばかりである。

  食費・居住費の入所者負担増による施設の総収入(「窓口負担」+「保険給付」)の増減については、63.6%の施設が「減った」と回答し、マイナス改定の影響が明確に表れている。

2) 国民所得に占める介護給付費(予算)は、2003年度で1.32%、2006年度では1.75%へと微増しているが、国民所得比7%程度の医療給付費に比べて依然として著しく低い水準である。(※6)

 また、介護給付費に投入される国庫負担額は、国民所得比で0.5%程度であるが、これを1%程度に増やせば介護給付費の6割程度をまかなうことが可能である。当面、国庫負担割合を25%とし、調整交付金(5%)を別枠とするなど、国庫負担割合の引上げによって制度の持続的安定を図るよう改めて求めたい。  

   ※6 国民所得に占める介護給付費(予算) ( )内は対国民所得比

            

            介護給付費       うち国庫負担額

    2003年度 4兆8045億円(1.32%) 1兆2011億円(0.33%)

    2004年度 5兆4515億円(1.50%) 1兆3629億円(0.38%)

    2005年度 5兆9968億円(1.63%) 1兆9518億円(0.53%)

    2006年度 6兆4622億円(1.75%) 1兆9122億円(0.52%)

                       (▲396億円)

(国民所得は、2003年度値:368.7兆円を用いた)

L、改善が必要な事項

1、 高齢者の単身世帯及び高齢者のみの世帯が増加することを踏まえ、住まい(居住)とともに、施設介護の一環としての食事の提供を保障する必要がある。社会福祉としての介護保険施設等の役割を重視し、居住費、食費については保険給付に戻す必要がある。

2、 当面、居住費・食費に係る負担軽減措置の対象に住民税本人非課税者を加えるとともに、低い年金水準の現状を踏まえ、公費負担をも視野にいれた低所得者対策の充実が直ちに必要である。

以上